流れ 2008年12月号 目次
― 特集テーマ:「再生可能エネルギーと流体工学」 ―
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浮体式波力発電装置“後ろ曲げダクトブイ”の開発
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1. はじめに
波浪エネルギーを利用して発電する波力発電装置の開発は、今日、ヨーロッパを中心に世界的なブームとなっており、様々なコンセプトに基づいた波力発電装置が提案されている(1)。佐賀大学海洋エネルギー研究センターでは、現在、浮体式の振動水柱型波力発電装置“後ろ曲げダクトブイ(Backward Bent Duct Buoy,以後BBDB)」の実用化を目指して平成18年から研究を継続中である。Masuda(2)によって提案されたこの装置は、図1に示すように空気室,水平ダクト,浮力体,タービン発電機で構成されている。波浪エネルギーは、波浪によって動揺するダクト内の水柱振動を介して、空気室内の空気の持つエネルギーに変換(一次変換)され、その後、タービン・発電機を用いて電気エネルギーに変換される(二次変換)。この装置は、様々な優れた特徴を有するため、日本、アイルランド、韓国、中国等で、研究が行われているが、個々の特徴の現象解明、それらの特徴を生かした装置の最適構造等、開発の課題は多い。佐賀大学では、これらの課題の解決を図り、BBDBをベースに発電性能の良い浮体型の振動水柱型装置の開発を目的としている。
図1 浮体式の振動水柱型波力発電装置BBDB
2. 水槽実験による基本的な性能の把握
2.1 BBDBの発電性能
BBDBの発電性能は、波浪エネルギーから空気エネルギーへの一次変換効率、空気タービン効率、発電機効率の積で評価される。この内、空気タービンと発電機の効率については、それぞれ0.5~0.6、0.85~0.95程度である。一次変換効率をどこまで大きくできるかが課題である。図2は、試みに製作した5種類のBBDB模型(図3)を規則波中に設置した場合の、一次変換効率に関する平面水槽での実験結果である(3)。 模型は、Aタイプ(Buoyancy Chamber + Air Chambers)を基本形に、Bタイプ(Aタイプ+Spacer)、Cタイプ(Aタイプ+Spacer +Lower Duct)、Dタイプ(Aタイプ+Lower Duct)、Eタイプ(Aタイプ+Extension Duct) の5種類である。図2の縦軸は、空気室内圧力と空気室上部のオリフィスを出入りする流量の積を、入射波の波高の2乗に比例する波のエネルギーで除した一次変換効率を示している。横軸は波の周波数である。一次変換効率が最大となる波の波長は、浮体長さの4倍程度となるため、入射波の波周期が与えられる実際の海域では、浮体の長さは相対的に短くてよいことになり経済的となる。BBDBは、波浪中でsurge, Heave, Pitch等の運動を行うため、一次変換効率が最大となる波の周期は、これらの運動の固有周期と振動水柱の固有周期が複雑に関係する。
図2 5種類のBBDB模型の一次変換効率
図3 5種類のBBDB模型
2.2 BBDBの波上側への進行特性
一般に、波浪中にある浮体構造物には、流体力として、周期的な力の他に、水面の非線形性に関係して生じる、波漂流力と呼ばれる波下側に働く定常力が作用する。BBDBは、特定の周波数帯の入射波に対して、波上側へ微速前進する特性を持つ。このため多数の周波数帯の波が混在する実際の海域では、波下側に働く波漂流力を低減でき、係留コストを削減できる利点がある。
図4 BBDBに働く漂流力
図4は、規則波作用下のBBDBに働く漂流力を2次元水槽で計測した結果で、空気室のオリフィス径が30mm, 40mmの場合を示している(4)。横軸は、入射波の波長λを浮体長さLで除した値、縦軸はBBDBに働く水平力の無次元量を示している。λ/Lが5~7の周波数帯で漂流力が負となっている。この周波数帯では、BBDBに、空気室を回転中心としたPitch運動が生じ、水中ダクト内の水柱振動も大きくなり、ダクト開口部に大きな渦が生じるため、波上側へ推進力が発生する。この推進力が、波下側に働く波漂流力より大きくなるためにBBDBには、全体として波上側へ定常力が発生する。BBDBの設計の観点からは、この負の漂流力の周波数帯と一次変換効率が大きくなる周波数帯が一致するような浮体構造が求められる。
3. システムシミュレーション
水槽実験によって、発電性能の良い最適な浮体形状を求めるには膨大な実験が必要となるため、BBDBのような浮体式の振動水柱型波力発電装置の最適設計には、不規則な波浪中における浮体の運動、空気室内の空気圧力の変動、空気タービンや係留系の非線形特性を同時に考慮できる時系列計算ツール(システムシミュレーション)が必要となる。このため、著者らは、浮体の動揺によるメモリー影響だけでなく、従来示されていなかった空気室内の空気圧力によるメモリー影響を考慮した浮体の運動方程式を提案している(5)。これは、周波数領域での流体運動をポテンシャル理論に基づく3次元境界要素法によって解き、これらから計算される造波減衰係数等の畳み込み積分を用いて表したものである。BBDBの運動方程式と空気室内空気の熱力学保存則、タービン運動方程式を連立して解くことにより、浮体の運動、空気室内の圧力変動、タービンの回転角度を求めることができる。
4. おわりに
我が国では、海洋エネルギー資源利用を推進するために、海洋エネルギー資源利用推進機構(Ocean Energy Association ― Japan 略称 OEA-J、会長:木下健 東大教授)(6) が、平成20年3月19日に設立され、波力発電もこの組織の分科会の一つとして活動がスタートしている。佐賀大学もこのような動きと合わせ、今後、波力発電装置の実用化を目指して行く予定である。
文 献
(1) | Joao Cruz, Ocean Wave Energy, Springer, (2008) |
(2) | Masuda,Y., Experiences in pneumatic wave energy conversion, Utilization of Ocean waves-wave to energy conversion ASCE, (1986), pp.1-33, |
(3) | 豊田和隆、永田修一、今井康貴、瀬戸口俊明、経塚雄策、益田善雄、浮体式波力発電装置(後ろ曲げダクトブイ)の一次変換性能に関する研究、日本船舶海洋工学会論文集、第6号、(2007), pp.247-255 |
(4) | Imai,Y., Toyota,K., Nagata,S., Setoguchi,T.,Oda,J., Matunaga,N. and Shimozono,T.,An Experimental Study of Negative Drift Force Actiong on a Floating OWC “Backward Bent Duct Buoy”, OMAE2008-58051 (2008) |
(5) | 永田修一、豊田和隆、今井康貴、瀬戸口俊明、浮体式振動水柱型波力発電装置の発電性能時系列計算法の開発、日本船舶海洋工学会論文集、第8号、(2008) 掲載予定 |
(6) | http://www.oeaj.org/index.htm |