流れ 2008年12月号 目次
― 特集テーマ:「再生可能エネルギーと流体工学」 ―
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波力発電用往復流型タービンの開発
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1.はじめに
自然エネルギーの利用促進の一環として,波浪エネルギー利用技術の開発が国内外で実施されてきたが,波浪エネルギーの変動性や希薄性のためにその実用例は極めて少ない。しかし,最近では欧州で商用波力発電所が建設されるなど,波浪エネルギー利用の気運が世界的に高まっている.
本稿では,波浪エネルギー利用技術の主流の振動水柱型波力発電において重要な構成要素である波力発電用往復流型タービンの開発研究について述べる.
2.振動水柱型波力発電
波浪エネルギー利用技術の現在の主流は,図1に示す振動水柱(oscillating water column,略してOWC)型である[1],[2].この方式では,水柱の往復運動により発生する往復気流を,空気タービンと発電機によって電気エネルギーに変換する.振動水柱型の代表例としては,2000年に世界初の商用波力発電所として英国・スコットランドで操業開始したリンペット,海洋科学技術センターのマイティ・ホエール,そしてEUの支援の下で開発が行われているポルトガル・ピコ島の波力発電所などが挙げられる[1].振動水柱型波力発電は構造が極めて簡素なうえ,波とタービンとの間に空気を介してエネルギー変換するため,海象異常時の構造物への対策が比較的容易に行える.
(a) 発電原理
(b) エネルギー連鎖
図1 振動水柱(OWC)型波力発電
3.波力発電用往復流型タービンの開発
振動水柱型波力発電では,2次変換装置として往復気流中でも常に同一方向に回転する特殊なタービンがしばしば使用されている.本章では,現在,波力発電用往復流型タービンとして世界の主流であるウエルズタービンと,最近注目されている衝動型タービンについて述べる.
3.1 ウエルズタービン
ウエルズタービンは,図2に示すようにハブに対称翼を取付角0°で取付けただけの単純構造を有する往復流型タービンで,現時点では波力タービンとして世界の主流となっている[1]-[3].一般的には,ウエルズタービンの前後に案内羽根を設置したものがよく採用されている(図3)[4].しかし,ウエルズタービンは,在来のタービンに比べて効率が低く,原理上動翼の周速が大きいので高出力の場合,強度,保守および騒音に難点がある.また,本タービンが反動型であるため,流れの状態によっては動翼に失速が生じ,エネルギーが効率よく得られない状態に至ることがある。
そのため,ウエルズタービンの特性改善に関する試みが盛んに行われ,可変ピッチ翼を有する波力タービン(図4)[5]や複葉式タービン(図5)[6]などが提案され,それぞれの効果が明らかにされている.最近では,波力発電装置の実海域試験において,空気室から大気へ吐出される空気流量の最大値が,吸込まれる場合より大きいことから,予め若干の取付角を有するほうが取付角0°より性能が優れることが示されている[7].また,ウエルズタービンの失速特性を改善するため,チップクリアランスを前縁から後縁に向かって徐々に拡大する手法が有効であることが明らかにされている(図6)[8].
一方,ウエルズタービンは往復気流中で作動するが,軸流速度の増速過程(迎え角αRが増加)で減速過程(αRが減少)よりトルクが低下するヒステリシス現象(図7)[9]が存在し,タービン性能改善のためにヒステリシス特性の解明が必要である.木上らは,非定常の3次元粘性数値解析によりウエルズタービン翼まわりの流れを調査し,数値解析によりウエルズタービンのヒステリシス特性を捉えている[10].また,ヒステリシスの原因が,翼後縁において流れが下(ハブ面)向きであり,それによって生じる時計回りの渦の強さが増速過程と減速過程で異なるためであることを示している(図8)[10].
図2 ウエルズタービン
図3 案内羽根付ウエルズタービン
図4 可変ピッチ翼を有する波力タービン
図5 複葉式タービン
(a) チップクリアランス形状
(b) 効率
図6 ウエルズタービン性能に及ぼすチップクリアランスの影響
図7 ウエルズタービンのヒステリシス特性
図8 翼前縁より出発した流線(負圧面)
3.2 衝動型タービン
高効率,低速化を実現するタービンとして,瀬戸口らは,図9に示す自己可変ピッチ案内羽根を有する衝動タービン[11]を開発した.この波力発電用衝動タービンは,往復流において作動するように動翼前後に案内羽根を設けてある.案内羽根はピボット回りに設定取付角の差(θ2-θ1)の範囲で自由に回転できる.波による往復気流により,自動的にピッチング運動ができるように,ピボット位置は案内羽根の動翼側にある.上流側と下流側の案内羽根は,往復流において軸流速度が小さい間に反転してそれぞれ所定の取付け角θ1とθ2に設定され,軸流速度が大きくなるとタービン作用を行う.
図10は,本衝動タービンの実際の構造を示す.また,図11はリンク付案内羽根を有する衝動タービンにおける軸流速度vaと案内羽根ピッチ角θpの関係を示す.案内羽根のピボットはベアリングを介してケーシング外に出され,動翼前後のそれをリンク機構で結合している.リンク機構の採用は,ノズル作用時(設定角θ1に案内羽根が設定される)に案内羽根に作用する空力モーメントを,リンクなしの場合に生じる下流側案内羽根のピッチ角の逆戻り現象(図11中の破線)の抑制に利用するもので,これにより案内羽根の適切なディフューザ作用(設定角θ2に案内羽根が設定される)を実現できる.本衝動タービンについては,インド国立海洋技術研究所により実海域試験が行われ,波の入射パワー100kWに対し,平均パワー出力は15kW程度であった(同研究所で行われたウエルズタービンを用いた実験では,4kW程度)[12].
一方,本タービンでは案内羽根が回転する機構を有するため,可動部の保守という点でやや不安がある.そこで,この欠点を克服するため,現在ではさらに固定案内羽根付衝動タービン[13]が提案されている(図12).衝動型タービンは,低速回転で高効率が得られるという利点を有するため,最近,ウエルズタービンに替わる波力タービンとして注目されている.そこで,著者らは松江工業高等専門学校,佐賀大学海洋エネルギー研究センター,国土交通省北陸地方整備局の共同技術開発として,波力発電用衝動タービンによる発電プラントの実海域試験を2006年から新潟西海岸で実施している(図13).試験結果より,この発電プラントのエネルギー変換効率がウエルズタービンを用いた場合より優れ,特に低速回転で高効率を示すコアレス発電機と衝動タービンを組合せることにより,入力波浪パワーPwに対する出力Poがウエルズタービンの2倍以上に達することが明らかにされている[14].
図9 自己可変ピッチ案内羽根を有する衝動タービン
図10 リンク付案内羽根を有する衝動タービン
(a) 軸流速度
(b) ピッチ角
図11 案内羽根の挙動
図12 固定案内羽根を有する衝動タービン
(a) 発電プラント
(提供:国土交通省北陸地方整備局)
(b) 試験結果
図13 新潟西海岸における波力発電用衝動タービンの実海域試験
4.まとめ
波力発電の実用化に対しては,他の自然エネルギーと同様に経済性の向上,すなわち,発電システムの建設費や保守費などを低減し,発電単価を抑制することが重要である.波力発電用往復流型タービンは,往復気流中で作動するため在来のタービンに比べて効率が低いことが指摘されていることから,波力発電の実用化のためにはタービンの高性能化が不可欠である.
そのため,前章で述べたようにウエルズタービンの様々な性能改善手法の提案やリンク付案内羽根を有する衝動タービンをはじめとする各種タービンの開発が行われてきた.今後,我が国が世界の波力発電分野をリードし,波力発電が実用化されるように新規タービンの開発に邁進していきたいと考えている.
文献