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流れ 2012年12月号 目次

― 特集テーマ:産業界における流体機械 ―

  1. 巻頭言
    (小林, 吉川, 関野)
  2. 流体機械のキャビテーション性能と不安定現象に関する研究
    渡邉 聡 (九州大学)
  3. 振動水柱型波力発電システム
    鈴木 正己 (琉球大学)
  4. ウォータージェットを用いた環境調和型エネルギー資源の開発技術
    木崎 彰久 (東北大学)
  5. プロセスガス遠心圧縮機の設計、製造の技術革新
    葉山 耕一,深作 善郎,長谷川 直幸 (株式会社 荏原エリオット)
  6. ポンプ内部流れ可視化による現象理解 ~実験と数値流体力学(CFD)のハイブリッド手法~
    宮部 正洋 (株式会社 酉島製作所)

 

振動水柱型波力発電システム


鈴木 正己
琉球大学

1.はじめに

 化石燃料の枯渇化,地球温暖化や原子力発電などの課題から,再生可能エネルギー,ことに海洋エネルギーに対する期待(1)が世界的に高まりを見せ,ヨーロッパや米国,カナダを中心として波力発電や潮流・海流発電のプロジェクトが100以上も立ち上がり,商用化や実証実験が実施,計画されるなど大きく動き出している.このような世界的な機運から,現在,国内においても波力発電や潮流・海流発電に関してNEDOや環境省などによる大型プロジェクトが立ち上がりつつある.過去には1970年代の石油危機から2000年ごろにかけて,海洋科学技術センター(現,海洋研究開発機構)の波力発電船(海明(2)やマイティホエール(3)),運輸省第一港湾建設局(現,国土交通省北陸地方整備局港湾空港部)や沿岸開発技術センターによる酒田港防波堤による波力発電(4)を始めとした実証実験が国内においても盛んに行われ,世界をリードする時期もあった.再度,このような機運が高まりを見せている昨今,従来の経験と成果に新たなアイデアを創生することで,技術開発を進展させ実用化に導く好機となっている.本稿では,海洋エネルギーの中でも振動水柱型波力発電に的を絞った研究開発の状況を述べる.

 

2.波力発電方式

 波力発電システムは大別すると,可動物体型,越波型,振動水柱型に分類できる.可動物体型は浮体などの可動物体の運動を機械エネルギーに変換し発電する方式であり,ソルターダックやペラミスなどの浮体動揺を利用する方式や振り子の動揺,浮きの上下動で海底に設置されたピストンやリニアモーターを駆動するポイントアブソーバ型などがある.また,浮体動揺をジャイロにより回転力に変換する方式もある.越波型は陸上または洋上に設けた貯水池に越波した海水を蓄え,低落差水車を駆動する方式である.振動水柱型は水面上に設置された空気室の上部に空気タービンが配置され,波の上下動により,空気室内の水面が上下に運動し,これにより生じる空気の往復流でタービンを駆動する方式である.ここに用いる空気タービンはウェルズタービン(5)や往復流用衝動タービン(6)が主に用いられているが,往復流を整流弁により一方向の流れに変換し,通常のタービンを駆動する方式もある.

  振動水柱型波力発電装置は空気室特性を算出するための波浪解析と空気タービン特性の解析を行い,これらの特性を連立して解くことにより最適なシステムを構成している.

 

3.空気室

 波の上下動を空気の往復流に変換する装置が空気室であり,1次変換装置ともいう.この往復流で駆動するタービンを2次変換装置とも呼んでいる.空気室の特性は基本的に微小振幅波の線形理論により取扱われている.緩やかな波形変化では,空気室特性が微小振幅波の線形理論で良く推定できることや不規則な波浪を扱うため,線形理論では解の重ね合せが可能であるのに対して,非線形問題では個々の波浪に対する特性を全て計算する必要が生じ,解析量が多く,少なくとも初期設計には不向きなことが理由に挙げられる.

  図1は浮体式波力発電装置の空気室特性(7)であり,微小振幅波の線形理論で数値解析した結果と実験との比較を示している.浮体の前面に空気室が配置され,空気室の上部に配置されたオリフィスがタービンの代わりに空気室の負荷となっている.空気室内の圧力振幅p,エネルギー吸収率ηOWC,反射波の振幅αr,透過波の振幅αtは浮体を固定した状態でも,係留され動揺する状態でも実験結果と良く一致しており,この結果からも線形理論の有効性が確認できる.


図1 浮体式波力発電装置の空気室特性
(空気室内圧力p,エネルギー吸収率ηOWC,反射波αr,透過波αt) 

 

4.波力発電用空気タービン

 マイティホエールのような振動水柱型の波力発電装置は波の上下動で空気の往復流を生成し,空気タービンを駆動し発電する方式となっている.通常,タービンは一方向流で一方向に回転し,逆方向の流れでは逆回転することになる.このため,空気の往復流を整流弁で一方向の流れに変換しタービンに導くことで,タービンを一方向に駆動する必要がある.この方式は整流弁が破損し易いという構造上の問題や複雑化などの課題もあり,現在では往復空気流中でも常に一方向に駆動できるタービンが主流となっている.このようなタービンにはウェルズタービンや流れ方向に対象な形状の衝動タービンが用いられている.これ以外にも一方向に回転できるタービンは提案されているが本格的な利用には至っていない.

(1)ウェルズタービン(5)

 図2に示すウェルズタービンは対称翼を円周上に配置した特殊形状をしており,流れ方向に対称な形状をしている.このため,左右方向の往復流でも常に一方向に回転できるタービンとなっている.さらに,図3に示す左右対称なガイドベーンを付加することで,タービン効率と起動トルクの改善が図られている.ウェルズタービンの翼配置は食違い角90°と特殊なため,トルクが小さく,特に失速直後のトルクはロータ形状により負の値,すなわち,ブレーキとなる.このため,ウェルズタービンを停止状態から運転状態に移行させるには,トルクが負になる領域を通り抜ける必要があるため,従来は起動の有無が重要視されていた.しかし,ロータ形状やガイドベーンの付加により,全ての領域で正のトルクにできるようになり,起動特性は特に大きな課題ではなくなっている.また,不規則に波高が変化することも,起動を容易にする要因であるため,実際の洋上での運転では特に大きな問題は生じていない.ただし,低波高でも起動させたい場合には起動性について十分な確認が必要である.

図2 ウェルズタービン 図3 ガイドベーン付ウェルズタービン

(2)波力発電用衝動タービン(6)

 通常の衝動タービンは流れ方向に非対称なロータ形状になっており,高効率であるが,逆方向の流れに対しては極端に低くなる.このため,左右対称な形状にして,逆方向の流れに対しても常に高い効率で一方向に回転できる形状とすることで,波力発電用衝動タービンが構成されている.ただし,効率は低く50%程度となっている.図4は波力発電用衝動タービンであり,左側の写真はロータ形状が分かるように,上側のガイドベーンを除いたものとなっている.


図4  波力発電用衝動タービン

 ウェルズタービンと衝動タービンを比較すると,ウェルズタービンは高回転,低トルク型で,衝動タービンは低回転,高トルク型となっている.タービンの空力的な効率はウェルズタービンの方が多少高く,有利であるが,低波浪での駆動や軸受けの機械摩擦トルクなど工作,加工面との兼ね合いにより,損失を考慮した総合的な効率が変化するため,利用方法も考慮しながらタービンの選定を行っている.

 

5.終わりに

 これからのエネルギーを考えるとき,自然エネルギー活用の重要性は増しており,これらを真に利用できるエネルギーとすることが要望されている.これに応えるためにも,エネルギー密度の希薄さや大きな変動性という欠点を乗り越えて,波浪エネルギーを利用した波力発電システムが経済的にも成り立つエネルギー源に成長することに期待を寄せたい.

 

文献

(1) 平成21 年度~平成22 年度成果報告書「NEDO新エネルギー技術白書策定に係る調査報告書」,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (2010).
(2) 鷲尾幸久,宮崎武晃,堀田平,工藤君明,石井進一,益田善雄,“波力発電装置「海明」の第二期海域実験”,第2回波浪エネルギー利用シンポジウム,海洋科学技術センター (1987), pp.379-392.
(3) Washio, Y., Osawa, H., Nagata, Y., Fujii, F., Furuyama, H. and Fujita, T., “The Offshore Floating Type Wave Power Device “Mighty Whale”: Open Sea Tests”, Proceedings of 10th International Offshore and Polar Engineering Conference, Seattle, Vol. I (2000), pp.373-380.
(4) 高橋重雄,安達崇,中田博昭,大根田秀明,加藤久雄,鹿籠雅純,“波力発電ケーソン防波堤の現地実証実験における観測データの解析結果”,港湾技術研究所報告,第31巻,第2号 (1992), pp.21-54.
(5) Suzuki, M. and Arakawa, C., “Flow on Blades of Wells Turbine for Wave Power Generation”, Journal of Visualization, Vol. 9, No. 1 (2006), pp.83-90.
(6) 瀬戸口俊明, 高尾学, 木上洋一, 金子賢二, 井上雅弘,“波力発電用衝動タービンに関する研究”,日本機械学会論文集 B編,Vol. 65,No. 629 (1999),pp.255-261.
(7) 鈴木正己,鷲尾幸久,窪木利有,“空気室を有する浮体型波浪エネルギー変換装置の解析方法”,日本機械学会論文集 B編,Vol. 72,No. 718 (2006),pp.1529-1536.
更新日:2012.12.14