流れの読み物

Home > 流れの読み物 > ニュースレター > 2018年1月号

流れ 2018年1月号 目次

― 特集テーマ:2017年度年次大会 ―

  1. 巻頭言
    (本澤,黒澤)
  2. 機能性流体工学の研究展開
    西山秀哉(東北大学)
  3. イルカの体表面から着想を得た抵抗低減法と熱伝達促進
    萩原良道(京都工芸繊維大学)
  4. レーザー誘起マイクロジェットの軟質材料への注入深さに関する研究
    遠藤奈々美,河本仙之介,田川義之(東京農工大学)
  5. 液体急加速時における新しいキャビテーション数の提案
    木山景仁(東京農工大学),Zhao Pan(ユタ州立大学),田川義之(東京農工大学),Jesse Daily(Naval Undersea Warfare Center),Scott Thomson(ブリガムヤング大学),Randy Hurd,Tadd Truscott(ユタ州立大学)
  6. 粘弾性流体を利用したニュートン流体の乱流維持機構の解明
    堀本康文,後藤晋(大阪大学)

 

液体急加速時における新しいキャビテーション数の提案


木山 景仁
東京農工大学,
Zhao Pan
ユタ州立大学,
田川 義之
東京農工大学,
Jesse Daily
Naval Undersea Warfare Center,
Scott Thomson
ブリガムヤング大学,
Randy Hurd,Tadd Truscott
ユタ州立大学

 

はじめに

 平成29年9月,埼玉大学にて行われた日本機械学会2017年度年次大会において,栄えある優秀講演賞を賜り,本ニュースレターにおいて研究を紹介する機会をいただいた.この場を借りて,選考委員会及び日本機会学会の皆様に御礼申し上げる.本稿では,対象となった発表内容(1)の概要を紹介する.

 

研究概要

  キャビテーションは,流体機械内部など,様々な場面で見られる現象である.よく知られているように,キャビテーション気泡の崩壊・リバウンドに伴って,強い圧力スパイクを生じる(2).これに由来する破壊現象は,高速流れにおける翼・プロペラ周り(2)でよく知られているが,そのほかにも,液体に急加速が加わる場合においても生じる.本研究では,ガラス容器底部(3)(図1(a, b))や,容器上部(4)(図1(c, d))に打撃を与える場合について取り上げる.いずれの場合も,打撃そのものでなく,キャビテーション気泡の崩壊に伴い容器が破損する様子がわかる((5)外部リンク: http://www.pnas.org/content/early/2017/07/21/1702502114.full).

 図1に示すような,キャビテーションによる損傷を防ぐためには,キャビテーション発生条件の正確な予測が不可欠である.先述のような高速流れにおいては,キャビテーション発生条件を記述する無次元数として,キャビテーション数Cが知られている.

(1)

ここで,pr, pv, ρおよびvはそれぞれ周囲圧力,液体の蒸気圧,液体の密度,および平均流速である(2)C<<1においてキャビテーションが発生する一方,C>>1ではキャビテーションは発生しないと予想される.しかし,この無次元数Cは急加速流体には直接適用できない.例えば図1(a, b)の例では,キャビテーションが発生した条件において,CO(100)となる.

  これまで,液体急加速時に適用可能なキャビテーション数については,さまざまな検討がなされてきた(3,4,6)が,その範囲は限定的であった.本研究では,液体急加速時に適用可能な新規キャビテーション数Caの導出を行った.幅広い実験条件で理論との比較を行い,キャビテーション数Caの妥当性・一般性を調べた.

 

1. キャビテーション数Ca

液体に鉛直方向の急加速度が加わる場合を考える(図1(a, c)).非圧縮・非粘性流体を仮定する.十分短い時間における加速を仮定すると,運動方程式は,式(2)のようにかける(7)

(2)

なお,pは液体中の圧力である.左辺第一項を加速度aで書き直し,両辺を液柱高さhにわたって積分する.すると,液中の圧力差は,管底部の圧力pbを用いてpr-pb=ρahと書ける.キャビテーション発生の閾値として,液体の蒸気圧pvを用いれば,キャビテーション数Ca

(3)

を得る.なお,Ca<1の条件で,キャビテーションの発生が期待される.

 

2. 実験概要および結果

 本研究では,日本(農工大)とアメリカ(ユタ州立大・NUWC・ブリガムヤング大)において異なるパラメータを変化させた実験を行なった.

 日本で行なった実験では,ガラス管底部に打撃を加えた(図1(a)).液柱高さhおよび加速度aに加え,使用する液体の種類を変化させることで,密度ρ,蒸気圧pvを変化させた.なお,容器に加えた加速度は,高速度撮影画像から見積もった.アメリカで行なった実験では,ガラス容器上部に打撃を加えた.液柱高さh,加速度a,および周囲圧力prを変化させた.加速度aは,容器底部に設置した加速度計によって計測した.キャビテーション気泡発生は高速度カメラ(撮影速度: ~100,000 f.p.s., 空間解像度: ~0.1 mm/pixel)によって判定した.

 二種類の実験結果と式(3)のキャビテーション数Caを比較した結果,式(3)に含まれる5種類のパラメータを変化させた,いずれの場合においてもキャビテーションの発生がCa=1付近で観測され始めることがわかった.本実験において変化させた,幅広い加速度の範囲(0≦a/g≦800)において,キャビテーション数Caによって現象をよく説明できた.このことから,液体急加速時のキャビテーション発生においては,本研究で提案したキャビテーション数Caがその発生条件を記述する無次元数として適していると考えられた.

 

3. まとめと今後の展望

  本研究では、液体急加速時のキャビテーション発生条件を記述する新たなキャビテーション数Ca の提案および実験との比較を行なった.アメリカのグループは,周囲圧力pr,液面高さhの影響を,日本のグループは蒸気圧pv,密度ρ,加速度aおよび液面高さhの影響をそれぞれ調べた.実験結果は,実験パラメータによらずキャビテーション数Ca=1付近で統一的に整理できた.これは,瞬間的に大きな加速度が加わる系では、従来の平均流速に基づくキャビテーション数Cよりも,加速度aを考慮した新規キャビテーション数Caが妥当であることを示唆した.

  今後の展望として,生体内におけるキャビテーション現象(8)が挙げられる.ヒト生体のモデル材料として用いられるゲル材内部においても,急加速によるキャビテーションの発生が確認されており,その発生条件に関する検討が行われている(9).本稿で述べたキャビテーション数Caによる議論は,低濃度ゼラチン・ゲル内部でのキャビテーション発生条件への適用可能性が示されており(5),今後,検討を進めたいと考えている.


Fig. 1 The schematic of experimental system from both countries and image sequences of cavitation onset and bottle fracture by acceleration for each experiment (impact from the bottom (a, b) and from the top (c, d). More details can be found in Pan, Kiyama, et al., PNAS, 2017(5)). h, pr, and pb respectively indicate the depth of liquid column, the internal pressure, and the liquid pressure at the tube bottom. g indicates the direction of gravity. This figure is cited from the proceeding of the annual meeting of JSME 2017(1).

 

謝辞

 本研究は,日本学術振興会科研費 26709007, 16J08521, 17H01246 ならびに東京農工大学からの支援を受けて行われた.最後に,本ニュースレターの執筆という貴重な機会を与えてくださった日本機会学会の皆様,および選考委員会の皆様に深く感謝の意を表する.

 

文献

(1) 木山景仁,Zhao Pan, 田川義之,Jesse Daily, Scott Thomson, Randy Hurd, Tadd Truscott, 液体急加速時における新しいキャビテーション数の提案,日本機会学会2017年度年次大会講演論文集, (2017), J2410205.
(2) Brennen, C., “Cavitation and Bubble Dynamics”, Oxford University Press. (1995).
(3) Kiyama, A., Tagawa, Y., Ando, K. and Kameda, M., “Effects of a water hammer and cavitation on jet formation in a test tube”, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 787 (2016), pp. 224-236.
(4) Daily, J., Pendlebury, J., Langley, K., Hurd, R., Thomson, S. and Truscott, T., “Catastrophic cracking courtesy of quiescent cavitation”, Physics of Fluids, Vol. 26, No. 9 (2014), 091107.
(5) Pan, Z., Kiyama, A., Tagawa, Y., Daily, J., Thomson, S., Hurd, R. and Truscott, T., “Cavitation onset caused by acceleration”, Proceedings of National Academy of Science, Vol. 114, No. 32 (2017), pp.8470-8474.
(6) 木山景仁,野口悠斗,田川義之,“撃力による液体ジェットの生成(ジェット速度に関する実験的研究)”,日本機械学会論文集,Vol. 80, No. 814 (2014), FE0151.
(7) Batchelor, G. K., “An Introduction to Fluid Mechanics”, Cambridge University Press. (1967).
(8) Yuan-Ting, W. and Ashfaq A., “Effect of shock-induced cavitation bubble collapse on the damage in the simulated perineuronal net of the brain”, Scientific Reports, Vol. 9, No. 1 (2017), pp. 364-369.
(9) Kang, W., Chen, Y. C., Bagchi, A. and O’Shaughnessy, T. J., “Characterization and detection of acceleration-induced cavitation in soft materials using a drop-tower-based integrated system”, Review of Scientific Instruments, Vol. 88, No. 12 (2017), 125113.
更新日:2018.1.30