流れ 2021年3月号 目次
― 特集テーマ:流体工学部門講演会 3月号 ―
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流れの夢コンテストに参加して
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1. はじめに
私たち明星大学理工学部の3年生7名(チーム名:明星浮遊人)は2020年11月12日にオンライン形式で開催された第18回流れの夢コンテストに参加した.『宙を舞え,明星天女』という作品タイトルに基づき,物体まわりの流れを利用した遊びを考案し,作品製作を行い,当コンテストで「一樹賞」を頂いた.本稿では受賞に至るまでの経緯を記したい.
2. 作品コンセプトの起案
第18回流れの夢コンテストでは「流れで遊ぼう」というテーマが与えられ,このテーマを基に起案した.
近年,子供の体力や運動能力の低下が社会問題となり,その背景には便利な生活がもたらす運動量の低下や身体を動かす遊びの減少などが原因にある.加えて,新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,外出自粛や休校などが続く中,人と人との接触を避けるようになってきている.
そこで,私たちはコロナ禍でも直接接触することなく,空気の流れを利用して,みんなが楽しく遊べる作品を考えた.
3. 作品詳細について
3.1 作品のプロット
空気の流れを利用した遊びを考える上で,誰もが親しみやすい伝説として,『天女の羽衣伝説』を取り上げた.この伝説は諸説あるが,天女が湖で泳いでいる時,その近くを通りかかった狩人に羽衣を奪われ,天に帰れなくなったという話から始まる.そこで私たちは,“伝説は実在し,天女は身近に存在していた”という仮説を立てることにした.
当コンテストでは,この「天女伝説」にオリジナルストーリーの要素を加え,空気の流れを利用した以下の遊びを紹介した.それは,「コロナ禍で大学が閉鎖されている中,突如,天女が天から舞い降りてきた.しかし,地上に降りてくる時にその羽衣は破れ,天女は上手く飛べなくなってしまった.そこで,私たちは直接天女に触れることなく,風の流れを操り,一年をかけて(春夏秋冬の4つの関門を乗り越え)天女を天に還す」という遊びである.
3.2 天女の形状と浮遊
天女はその姿(形)や重さを自由に変化できる能力を持っているとした.天女の安定的な浮遊(図1)は,天女に働く重力と抗力のバランスによって支配されていると考えられる.
図1 手持ちファンの制御によって安定的に浮遊している天女
天女の安定的な浮遊とゲーム性(不安定性:浮遊が安定し過ぎても面白くない)のバランスを探るために,図2に示すような様々な形状の天女を用いて実験を行なった.
図2 天女には様々な形状になって頂いた
実験では,球体,たまご型(楕円体),ハート型,立方体など,形状や大きさが異なる発泡スチロールを用いた(図2).天女の作成においては,同じ形であれば複数個の使用も可とした.また,天女の浮遊安定性と抗力増加を目的として,天女(発泡スチロール)には羽衣(ビニールテープ)を取り付けた(図3)
図3 羽衣(ビニールテープ)を着けた天女(球体)の例
3.3 テープ(羽衣)の抗力係数への効果
実験では,ビニールテープを付けていない球体の抗力係数CDはCD = 0.44(レイノルズ数 Re = 1.4 × 104)であった. また,同じ球体にテープを付けたときはCD = 1.13であった.このことからテープを付けることによって抗力係数が上がることがわかった. テープを付けることにより後流が乱れ,圧力が下がり抗力が増すことやテープの空気摩擦による抵抗増加などが原因であると考えられる.
3.4 天女の作成
手持ち型扇風機は最大風速が4.31 [m/s]であったため,上手く浮遊させるためには天女の形状を工夫する必要があった.そこで天女を作成する過程で,抗力係数,重さ,投影面積などのパラメータの影響について以下の様に調べた.
- 抗力係数について:球体やたまご型(楕円体)の場合,それらの抗力係数が小さいため,風速が遅い手持ち型ファンでは浮遊が困難であった.
- 天女の重さについて:天女を安定に浮遊させながら運ぶためには,天女が軽過ぎると飛び過ぎてしまい,浮遊させながらの移動は困難になる.逆に物体が重すぎると重力が大きくなるため,抗力とのつり合いが成り立たなくなる.様々な実験を行なった結果,私たちは図2中のハート型大の発砲スチロールを選んだ.
- 投影面積について:抗力を稼ぐために投影面積を大きくしたいのだが,同時に重さも考慮しなくてはならない.そこで私たちはハート型大の発砲スチロールを3つ合わせることで板状にし,投影面積を大きくした.また安定性のためにハート型大の発泡スチロールを対称的に配置し,図4で示した天女を作成した.このとき,発砲スチロールにビニールテープを付ける際にも,重さに影響が出ないようにテープの本数,長さ,太さなどを考慮した.なお,作成した天女の抗力係数はCD = 1.37であった.
図4 実演で使用した天女(上:側面から見た天女 下:正面から見た天女)
3.5 コース配置
私たちは一年をかけて天女を天に還すという設定により,季節ごとに乗り越えるべき課題(関門)を用意した(図5).春は,舞い降りてきた天女を手持ちファンで安全にキャッチする課題.夏は,生い茂る若葉の森のトンネルを通り抜ける課題.秋は,紅葉の渓谷を天女が横切るために,対岸にいる2人のプレーヤーが協力しながら天女を受け渡す課題.そして最後の課題の冬は,風洞による強風を利用し,クリスマス・リースの穴を通り抜けさせて天女を天に還す…というものである.このコースは明星大学の理工学部にある施設を活用している.プレーヤー達と天女がソーシャル・ディスタンスを保ちながら天女を安全に運び,全てのチェックポイントを通過することで天女は天に帰還したことになる.
図5 季節ごとのチェックポイント
(左上:春 右上:夏 左下:秋 右下:冬)
4. まとめ
今回,私たちは,空気の流れを利用した遊びの一例として,天女を天に還す物語をプロットとした作品を紹介した.今後の展開としては,コロナ禍でも直接手を触れず,風を利用した新しい遊び(手持ちファンを用いたサッカーやバスケットなど)が発明される可能性を感じた.
5. 最後に
今回の流れの夢コンテストに参加するにあたって,多くの方々にお世話になりました.
この貴重な経験することができたのは,実行委員長を務められた塩見洋一先生をはじめとする実行委員会の先生方,熱心に指導してくださった熊谷先生,そして共に研究を行なってきた仲間達,本当に多くの方々に支えられてこのような大変光栄な賞を頂くことができました.この場をお借りして深くお礼申し上げます.