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流れ 2006年4月号 目次

― 特集:噴流の制御 ―

  1. 渦発生ジェットによるはく離再付着流れの制御
    本阿弥 眞治(東京理科大)
  2. 柔らかいフィンをもつ円管から流出する噴流
    中島 正弘(鹿児島高専)
  3. ウォータージェット技術で用いられる噴流 -アブレシブジェットの展開-
    清水 誠二(日本大学)
  4. 超音速ジェットからの放出される強い音波の抑制
    前川 博(広島大学)
  5. 同軸噴流における物質混合のアクティブ制御
    深潟 康二,光石 暁彦,笠木 伸英(東京大学)
  6. 編集後記
    辻本 公一(三重大学),桑原利明(荏原製作所),舩橋 茂久(日立製作所),松本大樹(室蘭工業大学)

 

壁面ジェットによるはく離制御


本阿弥 眞治
東京理科大学工学部

1 はじめに

 噴流は,工学的応用において重要な流れの一つである.火山噴火の際の直径数百メートルに達する巨大な噴煙やインクジェットプリンターのマイクロパルスジェットなど多くの例が見られる.噴流の渦構造の解明や渦構造を利用した効果的な制御が試みられ,展望解説に纏められている(1)

 噴流の利用技術の一つに,噴流をアクチュエータと位置付け,流れの制御に噴流を利用する試みがなされ,工学的応用が検討されている(2).ここでは,噴流の中で壁面噴流,特に,渦発生ジェットをアクチュエータとして用いて,はく離,再付着過程を制御する試みについて述べる.

2 渦発生ジェットとは

 乱流はく離現象の受動・能動制御に関する研究が活発に行われ,その成果は,航空機の翼面上の流れやディフューザ流れなどに適応されている(3).代表的な制御デバイスの1つに渦発生器が挙げられる.渦発生器は,流れと同じ方向に軸をもつ縦渦を壁面せん断流中に誘起する.縦渦は主流がもつ高い運動量を壁近傍に輸送し,壁近傍の運動量を増大させ,はく離を抑制,防止するので,ボーイング777の主翼面上の流れなどにも適用されている.渦発生器によるはく離防止の制御は離着陸時や旋回時に必要となり,定常巡航時には,渦発生器が抵抗の原因となる.渦発生器は固定式なので,航空機の運行条件に対応する動的な制御が困難である.そこで注目されているのが渦発生ジェットであり,図1に示すように壁面に対して30°から45°の角度を持たせてジェットを吹出し,縦渦を誘起するものである.


図1 渦発生ジェット内の縦渦

 従来の流れの制御用アクチュエータは二次元的な擾乱を与える場合が多く,工学的応用を考えると,構造上課題が残る.そこで,実用化の観点,また,制御を必要としない時は吹出しを止めることにより,容易に抵抗を低減でき,固定式渦発生器に比べ,柔軟性に富むなどの観点から渦発生ジェットの採用が有望と考えられる.ここで,渦発生ジェットの吹出しパラメータは,ジェットの吹出し角度,速度比そして吹出しピッチである.

3 渦発生ジェットによるはく離や再付着過程の制御

 はく離点が移動するディフューザ流れに渦発生ジェットを適用した例(4)を示す.開き角により変化するディフューザはく離流れの中でAppreciable StallそしてTransitory Stallの流れ形態に渦発生ジェットを適用した.周波数応答に優れた壁面せん断応力センサを用いて順流率(一定時間内に流れが順流を示す時間割合で100%が順流,0%が逆流に対応する)を測定し,結果を図2に示す.吹出しの無い実線で示す速度比VR=0の場合に比べ,VR=3以上になると,ディフューザ壁近傍の流れの順流率は100%となり,Transitory Stallを回避できることがわかる.


図2 開き角11°のディフューザ内の順流率

 渦発生ジェットを後方ステップ流れの再付着過程に適用した結果(5)を図3に示す.渦発生ジェットの直径をd,吹出しピッチを20dとした場合,再付着距離はジェット速度比に反比例する.直径d=2mmの場合,再付着距離は,吹出しなしに比べ,20%低減し,直径d=1mmの場合,45%も減少する.これは,境界層がステップ端ではく離し,2次元構造のはく離せん断層が発達して,2次元構造が崩れて,再付着に至る過程において,ステップ端上流で吹出された渦発生ジェットがはく離せん断層の発達を著しく促進し,発達過程を著しく短縮した結果と考えられる.


図3 後方ステップ流れの再付着距離 -吹出し孔径と吹出し速度比の影響

4 マイクロジェットによる制御

 前述したように僅かな運動量を加えることによりジェットの長さスケールの1桁あるいは2桁大きい流れを制御可能なことがわかった.制御対象の流れ場が同じでも,ジェットの長さスケールを小さくし,分散配置するアクチュエータ群により制御を実現する可能性が今後考えられる.あるいは,制御対象の流れ場の長さスケールそのものが数桁小さい流れを取り扱うマイクロ流れでは,必然的に長さスケールが小さいジェットの挙動や特性を把握する必要が生じる.

 本研究室では,直径が0.1mmから1.0mmのMicro-PulsedジェットやMicro-Syntheticジェットを静止空気中やCross Flowへ吹出す研究に取組んでいる.層流流路流れにレイノルズ数113,周波数50HzのSyntheticジェットを吹出した場合におけるマイクロPIVにより計測した等速度線図と等渦度分布を図4に示す.今後,パフ効果やスイープ効果を含めたMicro-jet Cross-flow Interactionあるいは Synthetic jet Interactionのようなキーワードで研究の展開を図る予定である.


図4 マイクロジェットと流路流れの干渉 (Synthetic ジェット  Re113,50Hz,位相60°)

5 参考文献

(1) 豊田国昭,“噴流の渦”,ながれ 24巻 2005 頁151-160.
(2) Glezer,A.& Amitay,M. Synthetic Jets, Annu.Rev.Fluid Mech, 34 2002,503-529.
(3) Gad-el-Hak,M.,“Flow Control”,(1998) 29-56, Springer
(4) 東裏雅司,青木英登志,森岡禎,本阿弥眞治,”渦発生ジェットによるディフューザはく離流れの制御” 日本機械学会論文集 B編 70巻696号 (2004.8) 2012-2017.
(5) 森岡禎, 斎藤学, 本阿弥眞治,”渦発生ジェットによる後方ステップ流れの制御 日本機械学会論文集 B編 67巻662号 (2001.10) 2443-2448.
更新日:2006.3.27