流れ 2006年4月号 目次
― 特集:噴流の制御 ―
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柔らかいフィンをもつ円管から流出する噴流
中島 正弘 鹿児島工業高等 専門学校 |
1.はじめに
噴流は工業的にも多く見受けることのできる流れ場であり,改めて記述するまでもなく,各種流体の拡散・混合,燃焼および伝熱などに密接に関係している.このようなことから,噴流の挙動を人為的に操作することは噴流を各方面で応用する際に遭遇する問題の解決に直結しているため,噴流の制御に関する研究は,これまで多くの研究者によって行われている.これらの研究は,いずれも,噴流出口から流出する大規模組織構造である渦輪を制御するものであり,その方法により,受動制御(1)-(3)と能動制御(4)-(6)に大別される.なお,これらの研究については,このニュースレター今月号でも他の研究者によっても紹介されている.さらに,これらの研究の延長としてGutmark(7) らは,フレキシブルなノズルから流出する噴流の組織構造について最近,研究を行っているようである.
このような研究の背景から本研究では,図1に示すように柔軟性のある人工セルロース製の短冊状フィンを円管出口に取り付け,噴流拡散の様子を実験的に調べるものである.すなわち,噴流の流出にともなって,このフィンが上下,左右に振動して,大規模組織構造である渦輪に影響を及ぼすことが期待される.ここでは,フィンの長さを種々,変化させてLIF法による可視化実験やPIV法による速度計測などを行い,フィンの装着が噴流拡散に及ぼす影響について調べたので紹介する.
図1 流れのモデルと座標系
2.実験装置および方法
本研究で用いた実験装置を図2に示す.ポンプから汲み上げられた下部タンクの水は,内径d =20 mmの真鍮製円管を通り,可視化水槽内に流入する.なお,水槽内の水位は一定に保たれている.デュアルパルスNd:YAGレーザーとArイオンレーザー照射装置を可視化水槽の上方,もしくは側方に設置した.そして,噴流の平行断面(xOy断面)や直裁断面(yOz断面)にスリット状のレーザー光を照射し,高解像度カメラや高速度カメラを用いて,これらの断面内の流れを撮影した.PIV法による速度情報の取得のためには,噴流および水槽内にトレーサー粒子として,球形ナイロン樹脂を混入している.また,蛍光染料を噴流に混入させてLIF法によって画像情報を取得し,これらの断面内の組織構造をウェーブレット多重解像度解析により求めた.
ここでは,円管出口に取り付けた人工セルロース製フィンの長さLをL/d =1.0,1.5,2.0に変化させて行った可視化実験について紹介する.
①Pump ②Circular pipe ③Water tank ④High resolution camera ⑤High speed camera ⑥Nd:YAG laser system ⑦Ar-ion laser system ⑧Pulse controller |
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3.主な実験結果
噴流拡散に大きな影響を及ぼすフィンの挙動を調べるために,高速度カメラによって流れの画像を取得した.一例として,フィン長さがL/d =1.5の場合の動画を図3に示す.この場合,軸対称的に振動するフィンの先端における振幅は大きくなり,この影響を受けて,せん断層付近の流体の回転規模と速度も大きくなっていることが認められる.また,ファイルサイズの関係から,ここでは示していないが,L/d =2.0の場合には,フィンに進行波(8),(9)がさらに大きく生じるようになり,しかも,フィン先端の振動により噴流周辺部の流体が大きく噴流内部に取り込まれていることが確認されている.
高解像度カメラによって撮影したxOy断面内の瞬間画像を図4に示す.これらの図において,各画像の左端が約x/d =10の位置である.この位置における各噴流の拡散状況を比較すれば,フィンを装着した場合,拡散が促進されることがわかる.さらに,各画像の輝度分布情報から,フィンを装着すると噴流構造が変化することもわかる.
(a) without |
(b) L/d =1.0 |
(c) L/d =1.5 |
(d) L/d =2.0 |
図4 噴流の拡散(LIF法による観察) |
図5 速度ベクトル(L/d =2.0) |
図6 噴流幅のx方向への変化 |
高速度カメラからの画像を用い,比較的,フィン近傍の流れについてPIV法により求めた,ある瞬間の速度ベクトルを図5に示す.これは,1秒間に500コマの撮影条件で取得した画像を用いて得られたものである.なお,この図5の右端がフィンの先端位置である.フィンの振動によって周囲流体が攪拌され,時計方向に回転する大規模な渦が発生していることが,この図5からも認められる.
フィンが噴流の拡散に及ぼす影響を調べるために,PIV法により,各場合における噴流の速度分布を求め,これを用いて各下流位置における噴流幅 2b を求めた.このようにして求めた 2b のx方向への変化を図6に示す.この図6からわかるように,フィンのない円管から流出する噴流と比較して,フィンが装着されたことにより噴流幅は大きくなり,噴流の拡散が促進されている.また,フィンが長くなると拡散促進効果は増大することもわかる.
LIF法によって流れの画像を取得し,これを用いてウェーブレット多重解像度解析を行った.その一例として,xOy断面の画像を用いて解析した結果を図7に示す.なお,ここでは,比較的大規模な構造を表現するレベル1から,小規模構造を表わすレベル4までを示している.レベル1において、フィンを装着する,さらに,これを長くするほど,噴流中央部の赤紫色の領域が増加し,噴流の上流域までこれが分布している.これは,可視化画像からわかるように,フィンの打ち下ろしによって噴流中心部まで周囲流体が巻き込まれ,噴流主流部に,いわゆる,くびれが生じていることに対応している.中規模な構造を示すレベル2については,フィンを装着した場合は,これを装着しない場合よりも大きなウェーブレット係数値を示す赤や黄色の領域が多く認められるようになり,このレベルの構造が多く分布するようになる.また、比較的小規模な構造を示すレベル3や4において,フィンを装着しない場合にはこのレベルを示す構造はあまり認められないが,フィンの長さがL/d =1.5や2.0の場合には,これらのレベルを示す領域は噴流周辺部や噴流内部に分布するようになる. このようにフィンを装着し,これを長くすることにより,噴流周辺部の流体がかなり上流部において噴流主流部へ取り込まれるようになり,さらに噴流中に小スケールの構造を多く含むようになるので,噴流の拡散が促進されていることがわかる.
図7 ウェーブレット多重解像度解析
4.おわりに
噴流拡散に関する研究の一環として,円管の先端に柔軟性のある人工セルロース製のフィンを装着し,流れの可視化,PIV解析,および,ウェーブレット多重解像度解析を行なった.その結果,フィンを装着することにより噴流拡散は促進され,そして,フィンが長くなると,その効果が大きくなること,ウェーブレット多重解像度解析の結果から噴流中に存在する大小,各規模の構造に変化が生じること,などが明らかになった.今後は,フィン幅を変化させた実験,および噴流に脈動を加えた実験なども行う予定でいる.
(参考文献)