流れ 2013年4月号 目次
― 特集テーマ:流体工学と世界No.1技術 ―
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石炭ガス化複合発電IGCCと流体技術
金子 祥三 |
1.はじめに
2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故により,日本のエネルギー事情は大きく変貌した.発電電力量の30%を占めていた原子力発電がほぼ止まり,これを補うための火力発電用の輸入燃料が急増し,電力会社の経営が軒並み赤字になっている他,日本の貿易収支も大幅赤字となり,国の経済の根幹が揺らいでいる.これを解決する切り札とも言うべき技術が「石炭ガス化複合発電IGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle)」である.いろいろな紆余曲折があったが,幸い日本のIGCC技術は世界のトップレベルに位置している.本稿ではこのIGCCについて紹介する.
2.高効率火力発電の歴史
図1に高効率化の歴史を示す.18世紀初頭にニューコメンの0.5%から始まった蒸気機関は,ジェームス・ワットにより4%まで効率が上昇し産業革命を支えた.1900年代に入ると,これに代わって蒸気タービンの時代となり,今日まで続いている.これが第1世代の火力発電技術である.しかし,効率は約40%でほぼ飽和状態にある.
図1 高効率発電の歴史
一方,1990年代からガスタービンと蒸気タービンのダブルで発電する複合発電が実用化され,その効率は天然ガス焚で既に53%(送電端,高位発熱量基準)に達している.今,日本国内でも最新鋭の天然ガス焚複合発電が続々と建設されている.天然ガスはクリーンでCO2排出量も少ない.しかし,あまり過度に天然ガスのみに集中すると供給リスクに加えて,価格高止まりの恐れがあり,現に日本では米国の5~6倍の価格で購入している.そこで,資源量が豊富で価格も安い石炭を用い,なおかつCO2の発生が従来の石炭火力より2割も少ない新技術が待望されている.それがIGCCである.
3.IGCCの概要
図2にIGCCのシステムを示す。ガスタービンと蒸気タービンのダブルで発電するのは天然ガスの場合と同じである。固体である石炭をガスタービンで燃焼させるには、石炭を粉砕しガス化して石炭ガス(CO、H2が主成分)という気体燃料に変換させる必要がある。従って、IGCCの鍵を握るのは石炭ガス化炉ということになる。石炭ガス化炉では、まず石炭を50μm程度の微粉に粉砕し、これを30気圧の高速噴流に乗せ、コンバスタ内で一気に部分燃焼させガス化する。このときの温度は1800ºC以上である(従来の石炭焚ボイラでの燃焼温度は1300~1400ºC)。空燃比は0.5程度で部分酸化することにより、石炭ガスが生成される。この時、コンバスタ内では3次元の気体流れ(石炭粒子を随伴している)で部分燃焼(発熱反応)とガス化反応(吸熱反応)が同時並行的に進行しており、流動‐燃焼‐伝熱‐化学反応の四つを解く、まさに流体技術の極致ともいえるものである(実際は溶融した灰粒子もいろいろと干渉する)。
図2 IGCCのシステム
4.IGCCの現状と将来
日本は欧米より10年以上も遅れてIGCCの技術開発が始まったが,国家プロジェクトとしてパイロットプラントから実証プラントという着実なステップを踏み,国‐研究機関‐メーカ‐電力会社が一致協力して進めたことにより,一気に欧米を追い抜き商用機実現の一歩手前にある.特に,福島県いわき市勿来地区に建設された出力25万kWの実証機は,高い性能と信頼性を実証し,2013年4月からは常磐共同火力(株)の10号機として商用運転される予定である.
この成功に至る最大のポイントは,やはり,“気流層石炭ガス化炉”の開発であり,その成功を支えたのは“熱流動”即ち“流体技術”といっても過言ではなく,これまでの流体技術研究諸氏に深く感謝する次第である.