流れ 2014年1月号 目次
― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―
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「壁面噴流中のせん断応力変動計測の試み」
-第91期日本機械学会流体工学部門講演会に参加して-
沢田 拓也 |
1.はじめに
去る2013年11月8日から9日にかけて九州大学伊都キャンパスにて開催された第91期日本機械学会流体工学部門講演会に於いて口頭講演を行い,栄誉ある優秀講演者表彰を頂いた.この場を借りて選考委員会の皆様および日本機械学会の皆様に御礼を申し上げるとともに講演発表内容を以下に紹介する.
せん断応力の計測は乱流境界層の様々な特性の解明やはく離流れにおけるはく離点・再付着点の検知,遷移流れにおける層流から乱流への遷移点の検知に有用である.また,航空機やターボ機械の翼において流れのはく離や再付着が発生した場合,翼のストールや騒音が発生し,工学的に不都合であるため,翼を安定的に機能させるため,この点においてもせん断応力の検知や計測は重要である(1).
このような背景から,これまで壁面せん断応力の計測が数多く試みられてきた.その計測方法には大きく分けてせん断応力を直接計測する方法と熱や圧力の計測結果を基にせん断応力を計測する間接計測の2種類があり,マイクロ加工技術の大きな進歩の恩恵を受け,様々なセンサや計測技術が開発されてきた(2) (3).
我々の研究グループでは数年前よりせん断応力,特にせん断応力の時間変動の計測技術の確立に向けて検討を行っており,微小フローティングエレメントを用いた直接計測や薄膜加熱金属(4)を用いた間接計測を試みた結果,いずれの計測においてもせん断応力に対して適切な出力を示した(5).しかし,各々の計測に用いたセンサには少なからず課題があり,前者は耐ノイズ性や耐久性,後者は時間応答性の低さが課題となっていた.このため,我々の研究グループの目標であるせん断応力の時間変動の計測を乱流境界層や翼周りのはく離流れを対象として行うためには新たなセンサの検討が必要となった.
そこで本研究では,従来の薄膜加熱金属を用いた熱式のセンサ(5)を改良し,課題となっていた時間応答性を高めることを試みた.また,改良したセンサを壁面噴流中に設置し,せん断応力の計測を行い,せん断応力に対するセンサの出力特性を調べた.
2. 熱式せん断応力センサ
過去に製作した熱式センサ(5)はせん断応力に対して適切な出力を示したが,センサの時間応答性が7 Hz程度と低く,乱流中でのせん断応力の時間変動の計測には不適であった.これは,発熱部となる微細薄膜金属の下部にある基板が25 μmの厚さのポリイミドフィルムであったため熱容量が大きく,微細薄膜金属の温度変化の時定数が大きいためである.
そこで本研究では,微細薄膜金属下部の基板の熱容量をより小さくし,微細薄膜金属の温度変化の時定数を小さくすることを目的に,基板の材質を変え,厚さを薄くしたセンサを製作した.このセンサの基板にはシリコンウェハを採用した.図1にセンサの全体図,図2にセンサの微細薄膜金属部の写真,図3にセンサの微細薄膜金属部の断面図を示す.微細薄膜金属は厚さ250 nmの金 (Au)とし,その下部に10 nmのクロム (Cr) の層を設け,その下部には1 µmのシリコン酸化膜がある構造となっている.センサの基本的な駆動原理は定温度型熱線流速計(7)と同じであり,より加熱部と周囲の温度差を大きくするため,微細薄膜金属は2度折り返し電気抵抗を高めている.図4に微細薄膜金属を加熱した時のセンサ表面の温度分布をサーモビュアで計測した結果を示す.
Fig. 1 Schematic view of the sensor | Fig. 2 Photograph of the heated element of the sensor |
Fig. 3 Cross-sectional view of the heated element | Fig. 4 Temperature distribution around heated element (°C) |
3. 実験結果
3・1 せん断応力に対する出力特性
壁面噴流中にセンサとプレストン管を設置し,壁面せん断応力に対するセンサの出力を調べた結果を図5に示す.横軸はプレストン管で計測した壁面せん断応力τw[Pa]の1/3乗(τw1/3),縦軸はセンサの出力電圧E [V] の2乗(E2)を表す.これらは熱拡散の理論(5)では線形関係となることが知られている.
図5より,計測したデータを最小二乗法により線形近似した結果,近似直線の相関係数は0.99となり,熱拡散の理論に従い線形比例関係が成り立つことが明らかとなった.これより,新たに製作したセンサは時間平均されたせん断応力に対して適切な出力を示しているものと考えられる.
Fig.5 Calibration result of the sensor in a turbulent wall jet |
Fig. 6 Frequency response of the sensor |
3・2 時間応答特性
新たに製作したセンサの時間応答特性を調べた結果を図6に示す.時間応答特性は西岡らの手法(7)(9)などを参考にして調べた.図6の横軸は微細薄膜金属に印加した微小電流の周波数f,縦軸は相対利得RGを表している.なお,熱線流速計の時間応答特性を調べる際は気流中にセンサを設置するが,この試験では気流中に設置していない点に注意されたい.
図6より,Roll-offは1,000 Hzを超えたあたりで始まっており,この周波数まではRGが一定となっている.このため,センサの時間応答特性は1,000 Hz以上となっていると考えられ,従来の熱式センサに対して100倍以上の時間応答特性の向上を図ることができた.
4. おわりに
本研究ではせん断応力の時間変動の計測を目的に,従来の熱式せん断応力計測用センサを改良し,その特性を調べた.その結果,センサは時間平均されたせん断応力に対して熱拡散の理論に基づく関係とよく一致した適切な出力を示した.また,センサの時間応答特性を調べた結果,新たに製作したセンサは1,000 Hz以上の時間応答特性を有しており,従来のセンサに比べて大幅な特性の向上を実現できた.
謝 辞
末筆となりますが,当日会場にてご聴講頂き貴重なご意見を頂きました皆様,今回のニュースレター投稿の機会を設けて下さった日本機械学会流体工学部門の皆様,ならびに財政的な支援を頂きました科学研究費補助金 (25630051),スズキ財団,高橋産業経済研究財団の皆様に深く感謝申し上げます.
文 献