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流れ 2014年1月号 目次

― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―

  1. 巻頭言
    (大嶋,高橋,吉川)
  2. 伊都キャンパスと伊都国
    西谷正(海の道むなかた館館長(九州大学名誉教授))
  3. 風力エネルギー高度利用のための同軸型電磁エネルギー変換装置の開発と性能評価
    谷田彬,高奈秀匡(東北大学)
  4. 回転チャネル乱流中に発生する大規模間欠構造の強化と減衰
    石田貴大(東京理科大学)
  5. 「壁面噴流中のせん断応力変動計測の試み」-第91期日本機械学会流体工学部門講演会に参加して-
    沢田拓也,寺島修,酒井康彦,長田孝二,式田光宏,伊藤靖仁(名古屋大学)
  6. 乱流・非乱流界面近傍の反応場に関する研究
    内藤尭啓,渡邉智昭,酒井康彦,長田孝二,伊藤靖仁,寺島修 (名古屋大学)
  7. 流れの夢コンテストという貴重な経験を通して
    尾崎翼,大久保順平,小林寛尭,藤田広大(北海道大学)
  8. 夢コン作品製作記
    藤田広大,小林寛尭(北海道大学)

 

流れの夢コンテストという貴重な経験を通して

 


尾崎 翼

大久保 順平

小林 寛尭

藤田 広大
北海道大学

1.はじめに

 2001年から始まった流れの夢コンテストは12回目の開催となり,今年は九州大学伊都キャンパスにて行われた.今年のコンテストのテーマは「流れで変わる」であった.今振り返ってみてもかなり難しいテーマであり,作品を作りあげるのに苦労した.そのため,本番間際の一週間は怒涛のように過ぎ去ってしまったような気がして,あまり覚えていない.自分の記憶を確認するためにも,流れの夢コンテストで得た貴重な体験をここに書き連ねていこうと思う.

 

2. アイディアの具現化の難しさ

 事の発端は8月の某日,流れの夢コンテストの案内が届いたことから始まった.研究室の4年生がそれぞれ作品の案を出し合ったのだが,私の「プラネタリウム」というちょっとした思い付きが採用されたことから流れの夢コンテストへの挑戦が始まった.それからの日々はひたすらアイディアを具現化することを考え続ける日々であった.いくつもの案が出ては消え,まるで水面に浮かんでは消える泡のようであった.装置が大がかりなものだと制作時間がかかってしまうし,なにより会場までの運搬が大変だ(会場は九州大学で,私は北海道に住んでいる).時間は無情にも恐ろしいスピードで過ぎ去っていったが一向にアイディアがまとまらない.アイディアを具現化するということの難しさを,身をもって体感した.そして作品概要の提出が1週間後に迫っていながらもピンとくるような案が出る気配はなく,出場を取り消そうかと考え始めていた矢先,奇跡が起きたのである.

 

3. 身近なところにヒントがある

 私は船舶の摩擦抵抗を気泡によって低減させる研究を行っており,普段から5mの長さがある曳航水槽を使用している.水槽の水は定期的に交換するが普段は入れっぱなしの状態であり,日数が経ってくると,水面が微妙に粘性を持ち始め,界面変形などによって水面に泡を作り出すと泡はすぐにははじけず,泡が水面に留まるということがよく起こる(図1).個人的にその泡は「水の汚さの指標」となっていて,水槽の水を交換する指標でもあった.言わば,水面に浮かぶ泡は「やっかい者」であったのである.


Fig.1 There are bubbles on the water surface

 その日までの作品案は,「万華鏡と流体を使って何かをする」といったもので,その日,私は自作の万華鏡を作り色々なものを照らしていた.曳航水槽を下から自作の万華鏡で照らしていて,ふと,「水槽を下から光で照らしたらどうなるのだろう」という何気ない疑問から,手に持っていたスマートフォンの照明を当ててみた.すると驚くことに,偶然にも水面に浮かんでいた泡による美しい星空が,天井一面に映し出されていたのである!まさにプラネタ流体の誕生の瞬間であった.その瞬間は言葉にしがたい程嬉しくてたまらない瞬間であり,今でも忘れることが出来ない.思わず数十秒間見とれてしまったほどであった.

 

4. プラネタ流体とは?

ここで,プラネタ流体の星の発生原理を説明する.図2の左図は本作品の装置の概要である.アクリルの容器にある液体を入れ,その液体の表面に泡を作り出し,それを下からライトで照らすといったシンプルな仕組みだ.容器は光を通しやすい底面が透明の容器が良い.液体表面に泡を作るための装置を,プラネタリウムになぞって星(泡)を作る装置として星ジェネレーターと呼ぶ.星ジェネレーターは界面の飛び跳ねが起きやすいノズルが付いたものが良い.今回は星ジェネレーターに洗浄ビンを使用した.最も苦労したのは流体の選定である.なぜなら身の回りにある液体全てがプラネタ流体になり得るのだ!まさに,家庭にあるものだけで装置を作ることが出来る作品となった.「星」が作り出される原理も比較的簡単なもので,図2の右図に示すように泡のレンズ効果によって光を集光させているものだと考えている.


Fig.2 Outline figure of our work (left hand side) and bubbles play a role of the lens (right hand side)

5. プラネタ流体の世界

 それでは身近な液体が織りなす,その美しい世界をご覧いただこう.図3の(a)はコーヒーに砂糖を入れ,水でかなり薄めたものである.いくつかの泡がそれぞれ星を作り出し,夜空を演出していることがおわかり頂けるだろう.図3の(a)の両端に比較的大きな星が見えるが,これは複数の泡が合体しているところが映し出されているところである.次に,図3の(b)ではコンタクトの洗浄液を水で薄めたものを使用している.先ほどの図3の(a)に比べてよりきれいな星空が広がっている.図4はサラダ油と水を組み合わせたものである.先ほどとは一変して,とても個性的な星空を作り出していることがわかる.そして私たちは身の回りにある液体の中で最もプラネタ流体にふさわしいであろう液体を見つけ出した.それが,図5である.写真を見ても美しさは十分に伝わるだろう.一体この液体はなんなのか….答えは,「国稀」という北海道の地酒,つまり日本酒だったのだ!私たちが調べた十数種類の液体の中では日本酒が最もプラネタ流体にふさわしいと感じた.もちろんどの液体の星空が美しいかというのには個人差があり,人によっては日本酒ではなく違う液体の方が美しいと感じる方もいらっしゃるだろう.ではなぜ私は日本酒が一番ふさわしいと感じたのか.



Fig.3 Photos of starry sky
(a) Using a coffee, (b) Using a cleaning solutions of contact lens


Fig.4 Photos of starry sky using salad oil


Fig.5 A photo of starry sky using Japanese sake as the best liquid
for the “Fluid Planetarium”

 プラネタ流体はただ単に星空を作り出すだけでなく,星が消滅する間(=泡が弾ける瞬間)も実に趣深いものである.その様子を動画1でお見せしよう.この動画は,プラネタ流体に日本酒を使用し,静水状態から実際に泡を作り出している様子をとらえたものである.星空が広がった様子も実に美しいのだが,例えば星の合体(=泡が合体)や星の消滅などといった様子も確認することが出来る.適度な間隔で星の消滅が起こる,この趣深さこそ私はおもしろいと感じている.

 また,一般的なプラネタリウムは星空を正確に再現することを目的として作られている.だが,このプラネタ流体で星空を正確に再現するのはとても難しい.しかしこれを逆に言うと,星を作り出してから一瞬一瞬に表情が変わり,その時々でしか味わえない「趣」があり,また同じ星空を作ろうと思っても再現することは不可能であるという「儚さ」を持ち合わせているのである.また,その時々で表情が変わるので,「あ,今北斗七星があった!」などというように自分の想像力を最大限働かせて鑑賞するというのも,プラネタ流体の楽しみ方のひとつだと考えている.

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Movie 1 Generation of the starry sky

 

6.得たこと・学んだこと

 この流れの夢コンテストを通して得たことはたくさんある.そのどれもが素晴らしいものであり,自分の財産となるようなものであるが,強いて絞るのであれば次の2つを挙げたい.

 一つ目は,「身近なところにヒントはある」ということだ.何気なく見ている日常でも,きっとどこかにヒントが隠されている.身の回りに起こる現象を注意深く観察し,想像力を働かせることでヒントを得ることが出来ると信じている.

 二つ目は,「流体力学のおもしろさ・美しさの再認識」である.それまでも,自分の研究や実験を通して流体力学はおもしろいと感じていたが,今回は流体が作り出す現象そのものがおもしろく,美しいと再認識した.流体力学と言うと,どうしても「方程式」が示すおもしろさや美しさに注目してしまいがちである.しかし,まさに目の前で起こっている「現象」を純粋に,そしてありのまま見て「美しい!」と感じたり,「おもしろい!」と感じたりすることも大事なのかもしれない.そこから,様々な興味が湧いてくるだろうから.

 

7.おわりに

 第12回流れの夢コンテスト実行委員長である九州大学の半田太郎先生をはじめとする実行委員の方々のご尽力があったからこそ,このような貴重な体験が出来たと感じている.ここに深謝の意を表す.また,今回最優秀賞を頂くことが出来たのは,私の所属研究室の村井祐一教授,田坂裕司准教授,大石義彦助教,山保敏之技官,そして研究室の学生の皆様に過分なるお力添えをして頂いたからだと強く思っている.本当に感謝する.

更新日:2014.1.16