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流れ 2019年2月号 目次

― 特集テーマ:JSME年次大会特集 ―

  1. 巻頭言
    (本澤,黒沢)
  2. バイオミメティクスで流れを掴む技術の開発
    窪田 佳寛(東洋大学),望月 修(東洋大学)
  3. プラズマアクチュエータ研究会 ~5年間の活動と今後の展望~
    瀬川 武彦(産業技術総合研究所),深潟 康二(慶應義塾大学),松野 隆(鳥取大学),野々村 拓(東北大学),大西 直文(東北大学)
  4. 効率的なトライ&エラーによる流れ制御の研究
    石川 仁(東京理科大学)
  5. コアンダノズルによる遷音速、超音速不足膨張噴流のベクトル制御
    社河内 敏彦(三重大学)
  6. 主流と干渉する噴流による境界層能動制御
    長谷川 裕晃(宇都宮大学)
  7. 多機能OCTによる毛細血管血流速マイクロ断層可視化法
    佐伯 壮一(大阪市立大学),古川 大介(大阪市立大学),伊藤 高文(東光高岳),西野 佳昭(東光高岳)
  8. 多機能OCT によるスキンメカニクス診断への応用 ~皮膚抹消血管構造の可視化~
    原 祐輔(資生堂グローバルイノベーションセンター),佐伯 壮一(大阪市立大学)

 

プラズマアクチュエータ研究会 ~5年間の活動と今後の展望~

瀬川 武彦
産業技術総合研究所
深潟 康二
慶應義塾大学
松野 隆
鳥取大学
野々村 拓
東北大学
大西 直文
東北大学

1. はじめに

 日本機械学会2018年度年次大会ではワークショップ「プラズマアクチュエータ研究会」が開催され,大学や研究機関に加えて多くの企業からの参加者により,これまでの活動や今後取り組むべき課題について意見交換を行った.プラズマアクチュエータ研究会は,2013年12月に日本機械学会流体工学部門に設置され,委員登録数は設立当初の34名から2018年11月末には70名(大学・高専:33名,民間企業:25名,研究機関:12名)に倍増している.研究会の設置期間は最大で原則5年であるが,委員から活動継続の要望が多いことから,学会への申請により2018年12月から5年間の延長が決まった.本稿では研究会のこれまで5年間の活動と今後取り組む課題について紹介する.

2.  研究会設立の経緯

 プラズマアクチュエータ(PA)は,Fig. 1に示すように絶縁材を挟んで表裏両面に露出電極を非対称配置しただけの極めてシンプルな構造[1]であるが,電極間に交流高電圧を印加すると露出電極(Exposed electrode)の片側エッジに誘電体バリア放電(Dielectric Barrier Discharge, DBD)が発生し,壁面に沿う一方向ジェットが誘起される.基本構造は1998年にRoth et al. [2]により示され,米国University of Notre Dameグループ[3]がPAによる翼周り剥離流れの抑制効果を示して以降,世界中で着目されるようになった.日本国内では,日本機械学会流体工学部門ニューズレタ―[1]や日本流体力学会の特集号[4]における解説記事をきっかけに,PA研究が多くの研究者に周知され,日本機械学会度年次大会では2012年度からオーガナイズドセッション(OS)「プラズマアクチュエータ」が企画されるまでになった.ただし,PA研究では実験とCFD双方からのアプローチ,誘起ジェットの加速メカニズム解明に向けた基礎研究,自動車や航空機などへの実装に向けた実用化研究,といった多数の手法や目的が存在する.よって,プラズマアクチュエータを実社会の工学的問題に適用するためには,PA研究に関連する知見と経験を有する幅広い研究領域の研究者同士が情報共有や議論する場が必要であった.

 そこで,2013年8月に呼びかけ人(藤井孝藏,瀬川武彦,深潟康二,大西直文、松野隆)により研究会設立の趣旨説明と委員としての参画を募るメールを本研究分野の研究者に展開した.その結果,34名の賛同を得て,新しい流体制御デバイスとして期待されているPAに興味を持つ研究者が大学,民間企業,研究機関から参加し,研究開発促進に向けた情報交換を目的として,2013年12月1日にプラズマアクチュエータ研究会が日本機械学会流体工学部門のA-TS 05-24研究会として発足した.


Fig. 1  Schematic illustration of typical plasma actuator [1].

3. プラズマアクチュエータ研究会これまでの活動

 日本機械学会の年次大会では,2012年度からOS「プラズマアクチュエータ」を企画し,毎回20件程度の口頭発表が行われている.発表者は主に大学や研究機関の研究者,大学生,大学院生であるが,企業からの参加者も多く,基礎から実用に渡る幅広い課題に対して活発に質疑応答や議論が行われている.また,研究会発足後の2014年度年次大会からは,OSと同日にワークショップ「プラズマアクチュエータ研究会:自由討論」を開催し,研究会の活動報告と今後の課題についての意見交換を行っている.

 研究会独自の会議として,1回/期のペースでシンポジウムを開催している(Table 1).参加資格は特になく,参加登録により無料で参加でき,企業研究者や大学生・大学院生にも参加していただいている(Fig. 2).直近では参加者が79名に達している.シンポジウムでは,研究会の主査・幹事および委員からの話題提供に加え,毎回2名から4名の講師による基調講演を設けている.基調講演では,PA研究の基礎となるプラズマ科学や絶縁技術など流体工学の研究者には普段馴染みのない話題の提供や,自動車・重工メーカーなどの技術者から企業目線の研究を紹介して頂いている.さらに,第3回シンポジウムから大学生・大学院生を発表資格とするポスターセッションを開始し,第4回シンポジウムからは規定の作成・部門での承認を経てポスターセッションの優秀発表表彰を行っている.

 2014年1月からは研究会独自のホームページ(http://plasma-actuators.jp)を設置し,研究会の活動,PAの基本知識や論文,日本機械学会および関連学会の学術会議の周知を行っている.また,本研究会委員限定でアクセス権がある特別ページには,委員および基調講演者がシンポジウムで発表した許諾済みの資料閲覧や掲示板による情報交換が可能である.さらに,プラズマ・核融合学会の特集企画[5]に全面的に協力するなど,他学会との連携も行っている.

 プラズマアクチュエータ研究会としてのもう一つの取り組みとして,基準プラズマアクチュエータの試作と評価を試みてきた.これまで,多数のグループからの実験報告結果が,PA素子の構造や材料の違い,電源・実験条件の違いによって異なるケースが頻繁に見られ,対策すべき課題と考えられてきた.これは,研究者ごとにPA素子を適用する対象や実験環境が異なるためであり,PA素子およびその駆動条件が統一されることは将来的にも期待できない.そこで,各研究者が使用するPAと性能の違いを比較するために,基準となるプラズマアクチュエータ(基準PA素子)の配布を検討してきた.2014年には産総研が試作したポリイミド製PA素子,日本ガイシ(株)のご厚意により提供いただいたセラミック製PA素子を主査・幹事で共有して性能比較を試みたが,コストや耐久性の問題から研究会の委員への配布には至らなかった.次に,産総研がプリント基板技術で試作した高耐久シリコーン樹脂製PA素子について,日本機械学会2017年度年次大会(埼玉大学)で企画したワークショップ「流体工学部門プラズマアクチュエータ研究会:自由討論」において,基準PA素子として使用可能かについて意見交換を行った.さらに,学会終了後に委員へのアンケートを実施した結果,多くの委員から取得希望の回答があったため,2017年10月から取得希望機関と産業技術総合研究所が研究試料提供契約(大学・研究機関:無償,企業:有償)を締結し,基準PA素子(PAK-Ref03)の配布を開始した.2018月12月末時点の契約件数は 17件(11部局)となっている.

Table 1  Symposium of Technical Section on Plasma Actuators

Event Date Place Participants Presentation
by member
Invited Lecture Poster
Presentaion
Kick off Symposium March 20, 2014 Keio Univ. (Yagami Campus) 51 6
2nd Symposium December 6-7, 2014 Tottori Univ. (Tottori Campus) 55 9 2
3rd Symposium December 4-5, 2015 Tottori Univ. (Tottori Campus) 60 8 4 19
4th Symposium March 18-19, 2017 Tohoku Univ. (Aobayama Campus) /
Akiu hot spring village (Hotel Hananoyu)
60 9 2 18
5th Symposium November 24-25, 2017 Keio Univ. (Yagami Campus) 75 6 3 18
6th Symposium November 15-16, 2018 AIST (Tsukuba Central 2) 79 4 2 17


Fig. 2  Picture taken at the 3rd symposium, Tottori, December 4-5, 2015


Fig. 3  Reference plasma actuator (PAK-Ref03)

5. 今後の活動について

 プラズマアクチュエータ研究会は,設置期間の5年延長が承認され,2023年11月末まで継続することになった.日本機械学会の年次大会では,これまでに引き続きオーガナイズドセッションやワークショップを企画し,シンポジウムではできる限り多様な研究領域から講師を依頼することで,PA関連技術の造詣を深める機会を提供していく. 基準PA素子については取得希望者への配布は進んでいるが,評価結果の集約には至っていない.現在,協力可能な委員から評価結果を提供する仕組みを検討しており,データの集計結果やデータ活用手法の公表をPA研究会のホームページ等を活用して公表していく予定である.これらの公開情報は,各研究者の解析結果との比較により計測法の検証に有効活用されるだけなく,論文発表においてReferenceデータとしても使用できるよう,適宜データ更新を実施する.また,研究会として取り組んできた内容や各委員が得られた成果をまとめ,将来的にPA研究を総括する書籍の発行を目指していきたい.

6. 結   言

 プラズマアクチュエータの基本構造が1998年にRoth et al. [2]によって提唱されてから,既に20年以上が経過した.2018年11月に開催されたプラズマアクチュエータ研究会第6回シンポジウムでは,PA研究に対する期待だけなく,実用化において重要なジェット誘起効率,耐久性,安全性,コストなどを改善するための打開策が必要であるという認識が共有された.一方,ポスターセッションでは,大学生・大学院生から新しいPA構造や制御手法の提唱があり,研究会としても若手研究者の成長を期待するところである.PA研究がさらに発展するために,ポスドク・大学生・大学院生といった若手研究者に,他大学の教員や学生,企業参加者と有意義な議論できる機会を提供し,若手ならではの新しいアイディアやチャレンジングな研究課題が次々に生まれる環境づくりを進めていきたい.

  末筆ではございますが,今回のニュースレターへの投稿機会を与えてくださいました日本機械学会流体工学部門の関係者の皆様に深く感謝申し上げます.

文   献

[1] 藤井孝藏, 松野隆, DBDプラズマアクチュエータ -バリア放電を利用した新しい流体制御技術, 日本機械学会流体工学部門ニュースレター:流れ, 2007年12月号 (2007).
[2] Roth, J. R., Sherman, D. M. and Wilkinson, S. P., Boundary layer flow control with a one atmosphere uniform glow discharge surface plasma, AIAA Paper 98-0328 (1998).
[3] Corke, T. C., Enloe, C. L. and Wilkinson, S. P., Dielectric barrier discharge plasma actuators for flow control, Annual Review of Fluid Mechanics, Vol. 42 (2010), pp. 505-529.
[4] 深潟康二, 山田俊輔, 石川仁, プラズマアクチュエータの基礎と研究動向, ながれ, Vol. 29, No. 4 (2010), pp. 243-250.
[5] 野々村拓,瀬川武彦,深潟康二,松野隆,清水一男,白石裕之,小特集:プラズマアクチュエータの動向「1. はじめに」ほか5記事,プラズマ・核融合学会誌,Vol. 91, No. 10, (2015), pp. 648-675.
更新日:2019.2.22