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流れ 2023年3月号 目次

― 特集テーマ:流体工学部門講演会 3月号 ―

  1. 巻頭言
    (橋本,松田,朴)
  2. 高粘度液体吐出装置における吐出安定性
    渡部 裕也(東京農工大学),釜本 恭多(東京農工大学),Jingzu Yee(東京農工大学),小林 和也(日本工業大学),田川 義之(東京農工大学)
  3. レーザー誘起マイクロジェット生成に伴うガラス細管破壊のメカニズム解明および破壊抑制機構の開発
    関口 翔斗(東京農工大学),小林 和也(日本工業大学),田川 義之(東京農工大学)
  4. 逆解法手法と数値流体力学を用いたフランシス水車ランナの最適化設計
    永田 駿介(早稲田大学),李 洛中(早稲田大学),入江 達也(早稲田大学),宮川 和芳(早稲田大学)
  5. 音波照射による先端が封じられた微細孔からの気体排出
    松本 悠汰(静岡大学),水嶋 祐基(静岡大学),真田 俊之(静岡大学)

音波照射による先端が封じられた微細孔からの気体排出

松本 悠汰,
水嶋 祐基,
真田 俊之
静岡大学

 

令和4年11月に開催された第100期日本機械学会流体工学部門講演会において,若手優秀講演フェロー賞を頂いた.講演発表内容を以下に紹介する.

緒言

 製品の製造工程では,液体による洗浄や塗装などが行われる.これらの工程では,製品表面にある孔内部を完全に液体で満たす必要がある.直径が大きい孔や貫通孔の場合には,容易に液体が侵入するが,閉端孔と呼ばれる一端が閉じられた微細な孔の場合には,表面張力による液体の変形阻害により,液体侵入が困難になる(1).そのため,このような閉端孔内へ液体を侵入させる方法が求められている.

 古谷ら(2)は,より簡易的な装置で液体を侵入させる方法として,液体中での音波照射による手法を提案した.この方法は液体中で閉端孔に対して音波を照射することで孔内の気体を振動させ強制的に排出する方法である.我々は図1のように異なる周波数の音波を二段階で1 sずつ照射することで孔径1mmの閉端孔から完全な気体排出を達成した.一つ目の周波数を照射すると気体の一部が排出され,気柱が分裂した(図1(a)).二つ目の周波数を照射すると,分裂した気柱が排出された(図1(b)).このようにわずか数秒で孔内から気体を除去し液体で満たすことができる.

 本研究は,その気体排出メカニズムを解明することを目的とする.特に孔内に複数の気柱が存在するときの気体排出過程について高速度撮影による観察を行った.

(a)

(b)
Figure 1  Gas removal inside a closed-end hole by acoustic irradiation,
(a) 1st irradiation, 600 Hz, 1 s: playback speed ×0.2, (b) 2nd irradiation, 1100 Hz, 1 s: playback speed × 0.04).

 本実験で用いた実験装置の概要を図2に示す.図2(a)に示す装置構成図のように,実験は水槽内に水中スピーカー(UETAX, UA-30)を設置し,その前方に実験サンプルを設置することで行った.ファンクションジェネレータ(エヌエフ回路ブロック,WF-1974)とアンプ(UETAX, UA-211)により水中スピーカーを駆動し,1100 Hzの正弦波を1 s照射した.実験サンプルは孔をスピーカー方向に向けた.音波照射時の実験サンプルの様子を高速度カメラ(Photron, FASTCAM Mini WX100)で撮影した.先端の封じられた微細孔として,図2(b)に示した,アクリル製で孔径1 mm,アスペクト比10の貫通孔を有する実験サンプルの一端をシリコンラバーシートで封じたものを使用し,本実験では穴を水平に設置した.図2(c)は本研究で設定した複数気柱の初期状態の一例である.複数気柱は乾いた孔に対してマイクロピペットにより液体を注入することにより再現した.


Figure 2  Schematic of experimental setup,
(a) Experimental apparatus, (b) Test sample, (c) Example of the initial state of multiple air columns.

3. 実験結果および考察

 実験の結果を図3に示す.図1(b)と同様に孔内の気柱は入口付近に移動し,合体・分裂を繰り返しながら排出された.以上の結果について,まず気柱の移動について考察する.図4は気柱移動時をゆっくりと再生した可視化結果である.振動により界面が大きく変形することで孔奥の気柱と内壁との間に液膜が形成され,その後気柱が移動した.この結果から気柱の移動は次のように発生すると考えている.まず,液膜の形成により気柱が自由に振動できるようになる.そして振動に伴い液体が孔奥に移動し,それによって気柱が押し出され,入口側に移動した.

 次に,排出が進行する過程について考察する.図5は気体排出時に着目した可視化結果である.図5から,気柱が孔外で大きく振動したときに気泡が分裂し,気体が排出された.この様子について図5の気体排出の一連の流れを示した模式図を用いて説明する.観察の結果,気体排出は次のような過程で進行することが分かった.音波を受け孔外に膨張した気体の振動が表面張力波として気柱側面を伝播する(図6(i)).一方で気柱が一つの場合には,気柱の奥側は非圧縮性の水しか存在しないため振動できず,表面張力波が減衰する.この減衰した部分にネッキングが形成され(図6(ii)),気柱が分裂する.そして,気柱が分裂すると,分裂により新しく生成された界面にジェットが生じる.ジェット発生に起因する表面張力波が再び気柱表面を伝播する.この表面張力波が孔入口で音波による振動と重なると気泡が分裂し,気体が排出される(図6(iii)).その後,孔入口付近の気柱振動によって,分裂した気柱は接近し,再び合体する(図6(iv)).以上の過程が繰り返されることで気体排出が進行した.


Figure 3  Typical experimental result of gas removal (playback speed ×0.1).


Figure 4  Air column moving due to its oscillation (playback speed ×0.002).


Figure 5  The final gas removal process by bubble generation (playback speed ×0.002).


Figure 6  Schematic illustration of the final gas removal process, (i) Capillary wave propagation, (ii) Necking, (iii) break-up with jetting, and (iv) bubble coalescence.

4. 結言

 本研究は音波照射による片側が閉じられた微細孔からの気体排出メカニズムの解明を目的とし,孔内に複数の気柱が存在する場合の排出について高速度撮影を行った.観察の結果,気柱と孔内壁との間に液膜が形成された後,気柱が移動し合体・分裂を繰り返しながら気体が排出された.研究内容のさらなる詳細については論文(3) (4)を参照頂きたい.

5. 謝辞

 終わりに,第100期を迎える歴史ある講演会で若手優秀講演フェロー賞という光栄な賞を頂けたことを非常にうれしく思う.対面での学会は初めての経験であったが,対面ならではの緊張感や楽しさを感じることができ,よい思い出となった.このような素晴らしい会を開催してくださった日本機械学会流体工学部門関係者様をはじめ,会場にて貴重なご意見をくださった先生方にこの場を借りて心より感謝申し上げる.

文献

(1) 真田俊之,野崎紘史,渡部正夫,“先端を封じた細管内での圧力による気体圧縮と溶解(微細構造への圧力による液体侵入特性)”,日本機械学会論文集,Vol. 82, No. 838 (2016), p. 16-00048
(2) 古谷勇貴,水嶋祐基,渡部正夫,真田俊之,“音波照射による閉端孔からの気体排出促進”,混相流,Vol. 34, No. 1 (2020), pp. 111-117
(3) Matsumoto, Y., Mizushima, Y., Sanada, T., “Removing Gas from a Closed-End Small Hole by Irradiating Acoustic Waves with Two Frequencies.”, Micromachines, Vol. 13, No. 1 (2022), p. 109
(4) 松本悠汰,水嶋祐基,真田俊之,“液体中での音波照射による閉端孔内に存在する複数気柱の排出”,混相流,Vol. 37, No. 1 (2023)(掲載予定)
更新日:2023.3.23