流れ 2025年12月号 目次
― 特集テーマ:2025年度年次大会 ―
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企業連携活性化WG企画 OS(オーガナイズドセッション)「脱炭素・カーボンニュートラルの取組」について
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| 茨木 誠一 三菱総合研究所 |
小山 泰平 東芝 |
出川 智啓 名古屋大学 |
はじめに
企業会員の減少を背景に企業にとって魅力ある学会づくりと企業の学会活動への参加促進を目的に2024年4月に企業連携活性化WG(ワーキンググループ)を設立しました(*).その後,2024年11月に新潟県長岡市で開催された第102期流体工学部門講演会において,本WGで初めて,企業の参加を増やすこと企図して共通課題である「脱炭素への取組」のオーガナイズドセッション(OS)を企画し,企業5社に参加いただき、闊達な質疑が行われました.
これに引き続き,2025年9月7~10日に北海道大学で開催された日本機械学会2025年度年次大会講演会においても,「脱炭素・カーボンニュートラルの取組」のOSを企画しました.OSでは20件(オーラル17件,ポスター3件)が発表されました.オーラルセッションでは企業から8件,大学・高専から9件の発表があり,企業からも昨年の流体工学部門講演会を上回る発表と多くの参加をいただきました.また,年次大会講演会ということもあり,流体工学以外の技術領域に関する発表も行われ,学際的な分野横断のセッションになるとともに,産官学の関係者が多数参加し,闊達な質疑・意見交換が行われ,盛況なセッションとなりました.以下では9/10の午前・午後に3回に分けて行われたオーラルセッションの状況を報告します.
セッション第1部
セッション第1部は脱炭素・カーボンニュートラルの取組の中でも,「流体機械・空調・電力消費」に係るテーマの発表が行われました.
「農業用水路用に設置された開放型クロスフロー水車のロータを通過する雪氷塊の挙動と発電性能の変化(秋田大学)」では寒冷地の農業用水路に設置された小水力タービン(開放型クロスフロー水車)の積雪の性能影響について雪玉を用いて実験検証し,雪玉の大きさと発電出力低下の関係,雪玉のブレードによる圧縮・破砕・排出の現象が報告されました.
「機械学習を活用した軸流ファンの性能予測手法の研究(東芝)」では電動機の冷却用軸流ファンの設計に関し,実験・解析結果と設計パラメータを機械学習で関連付けて性能特性を予測することで,高効率・大風量設計が可能であることが報告されました.
「サボニウス風車の近接三体干渉の風洞実験(北海道大学)」では都市型風車として期待される小型サボニウス風車を近接配置する際の性能影響を風洞実験で評価し,回転数変化の予測手法と最適配置について報告されました.
「エアコン室外機の配列がもたらす3次元気流構造のデータ同化計測(北海道大学)」では密集配列された屋上室外機の気流構造を多点熱線風速計で計測し,その離散データを格子空間で流体力学的基礎方程式により補間して3次元気流構造を精度よく評価する手法について報告されました.
「スパース同定を用いた空調消費電力予測手法の開発(日立製作所)」ではオフィス空調の計測データから非線形動力学スパース同定SINDyにより消費電力を予測するモデル構築手法が紹介されました.
「軽電気自動車の電費計算モデル精度の検討(帝京大学)」では,電気自動車(BEV)の電費をシャシダイナモ試験で作成したモータ効率マップで計算するモデルと実車報告試験の結果が比較され,マップ効率の修正による精度向上と課題が報告されました.
セッション第2部
セッション第2部では「ガスタービン・燃焼・水素」に関するテーマが発表されました.
「発電分野におけるエナジートランジションの取組み(三菱重工業)」では,エナジートランジションの流れを踏まえたガスタービン開発と水素ガスタービン開発について紹介があり,開発が実証段階まで進んでいること,今後はさらなる性能向上や信頼性向上が課題であることが報告されました.
「DME添加アンモニアによるガスタービン起動の検討(産業技術総合研究所)」では,ガスタービン起動時の空気流量が少ない条件下では当量比0.7以上で着火・保炎が可能であること,また空気流量が増加してもDME添加量を増やすことで保炎し,暖機運転を行うことでアンモニアガスによるタービン起動が可能であることが示唆されました.
「機械学習を用いたバイオマス燃料のチャーガス化反応速度の推算(電源開発)」では,速度論モデル,機械学習モデル,およびそれらを組み合わせたモデルを比較し,機械学習のみを用いた推算式が高精度であり,人手によるパラメーターチューニングが不要になる可能性が示されました.
「ファインバブルを混入したバイオディーゼル燃料の高速ディーゼル機関における燃費とNOx低減(久留米高等専門学校)」では,実験的検討により,ファインバブルを混入することでLSA重油と同程度の燃費およびNOx低減効果が得られることが報告されました.
「酸素水素燃焼発電における高圧酸素製造に関する基礎研究(東京科学大学)」では,空気成分の沸点の違いを利用した深冷式空気分離において,酸素を液相状態で圧縮することで動力の大幅な削減効果が得られること,また水の電気分解で副生される酸素富化空気を利用することで,圧縮機で処理する空気量を30%削減できることが報告されました.
「水素を添加したニッケルの引張試験による歪みと転位密度の関係(山口大学)」では,水素を貯蔵するニッケル合金タンクにおいて,純材では水素感受性が高まり,水素脆化しやすくなる現象について,材料の引張試験を破断点以下で中止し,転位密度を求めることで水素の影響を把握する手法が報告されました.
セッション第3部
セッション第3部は,「CO2・CAE」をキーワードとして構成されました.
「二酸化炭素で校正した臨界ノズルによる気体流量計の評価実験(産業技術総合研究所)」では,CO2利活用技術の開発促進において重要となるCO2量の評価方法を確立することを目的として,臨界ノズルの校正および校正された臨界ノズルを用いて流量計の評価を行った結果が報告されました.
「CO2選択透過膜のユニット化に資する性能向上の検討(大阪公立大学工業高等専門学校)」では,中小規模環境から排出されるCO2の回収を目的とした,高分子製の促進輸送膜のCO2分離性能に及ぼす運転条件の影響が調査されました.
「アルカリ水溶液とフライアッシュを用いたCO2固定に関する基礎研究(東京科学大学)」では,フライアッシュによるCO2固定化反応が調査されました.日本およびインドネシアにおけるフライアッシュの差異による反応の違いや,フライアッシュを利用したCO2固定およびKOHの再生が可能であることが報告されました.
「熱処理設備の廃熱削減に向けた熱流体シミュレーションの活用と製造現場への適用事例紹介(東芝)」では,温暖化ガス排出量の過半数が熱処理設備から排出されることに着目し,粉体塗装工程の焼付乾燥炉の省エネ施策を立案し,実環境にて効果を確認した事例が報告されました.
「鋳造欠陥予測精度の向上に向けたCAE計算大規模化の取り組み(トヨタシステムズ)」では,鋳造製品の複雑大物化に伴って大規模化する鋳造のシミュレーションに対応するため,内製の鋳造シミュレーションソフトウェアの高速化および熱変形の導入における現象の再現精度向上の事例が報告されました.
おわりに
今後とも企業連携活性化WGでは部門講演会や年次大会講演会でのOSや企業会員が交流できるイベントを企画し、企業会員にとって魅力ある学会づくりと企業間および産官学の連携促進を目指して活動します。
*企業連携活性化WG:https://www.jsme-fed.org/research_committees/wg.html



