流れ 2025年12月号 目次
― 特集テーマ:2025年度年次大会 ―
| リンク一覧にもどる | |
技術交流会 開催報告
![]() |
![]() |
| 山下 知志 三菱重工業 |
倉谷 尚志 本田技研工業 |
1. はじめに
2025年9月11日,2025年度日本機械学会年次大会の翌日に,北海道大学にて技術交流会を開催しました.開催報告に先立ち,本技術交流会の背景について簡単にご説明します.
流体工学部門では,企業連携活性化ワーキンググループ(WG)が中心となり,学会活動の活性化に向けた施策を議論し,さまざまな行事を計画しています.日本機械学会全体の課題として学会員数の減少が挙げられ,特に若手技術者の入会数の減少や退会が大きな課題となっています.特に,学生会員が正会員に移行する際に退会するケースが多いため,その対策案を検討してきました.
学会会員数減少の要因の一つとして,正会員が学会費に見合ったメリットを感じられないことが最も大きいと考えられます.また,学生会員の間に学会との接点が少ないため,学会への愛着が薄く,大学卒業後に得られるメリットが想定しづらいことから,社会人になるタイミングで正会員に移行することを躊躇し,退会する方が多いと考えられます.
そこで本WGでは,学生の皆様に企業の研究ニーズをお伝えし,自身の大学での研究成果から企業による社会実装までのつながりのイメージを理解していただくことで,学生の皆様の研究活動に対する意欲向上に貢献することを目指しました。また,企業と大学を繋げるプラットフォームとして学会活動の意義を感じていただくことも目的としました.さらに企業参加者にとっては,各社が抱えている共通の研究課題や研究ニーズについて情報交換の場を設けました.学会発表の聴講のみではなく,研究設備の見学を通じて大学の研究内容の理解を深めることで,学会に参加するメリットを感じていただくことを目的として,本技術交流会を計画しました.
2. 研究室訪問の概要
北海道大学工学部のエネルギー環境システム専攻にある流れ制御研究室,機械宇宙工学専攻の熱流体物理学研究室,そして宇宙環境システム工学研究室の3研究室を訪問し,合計10テーマの研究について学生から説明を受けました.
流れ制御研究室では,風洞実験室を訪問しサボニウス型の小型の風力タービンの風洞試験の様子や,気泡を用いて海底鉱物を引き上げるエアリフトの試験,船舶の船底に空気泡を導入することで摩擦抵抗を低減する空気潤滑モデル試験の様子を見学しました.熱流体物理学研究室では,液滴の衝突を光学的に計測する基礎試験を行っており,splashの観察や超極薄気膜観察,水蒸気中の高速液滴衝突の試験装置の見学,光散乱計測による懸濁液の計測についての説明を受けました.宇宙環境システム工学研究室では,過酸化水素と固体燃料の燃焼安定性の試験や火炎伝播,液体酸素の端面燃焼の安定性に関する試験を見学しました.
企業における研究では,直近の製品開発に直結する課題が多いため,大学で行われているような詳細な計測や解析による現象解明の基礎研究は,企業の技術者にとって非常に興味深いものでした.また,企業の技術者からは自身の研究ニーズや背景に基づく活発な質疑応答があり,学生にとっても自身の研究テーマとのつながりを理解するよい機会となりました.このような機会が,学生の皆様の研究モチベーションの向上に繋がったのではないか,と考えます.

写真 研究室,実験室見学
3.ランチ交流会の概要
見学会の後,学内のレストランで学生と企業参加者とのランチ交流会を開催し,企業の技術者と学生が少人数で直接対話を行いました.学生からは,就職にあたって不安や疑問に感じていることとして,日々の生活,業務内容,仕事の進め方,学生時代にやって良かったこと,学生の間に取り組んでおくとよかったと思うこと,などについて質問がありました.企業参加者は,先輩社会人として自身の経験に基づきこれらの質問に回答しました.また,企業参加者同士の会話も活発に行われ,同席した学生が説明した研究について,歴史や進展,応用,社会実装に関する情報交換が行われました.この交流は,学生が新たな知見を得るとともに,企業や学会の日頃の活動について知るための良いきっかけとなったと考えます.

写真 ランチ交流会
4. おわりに
今回の年次大会で初めて技術交流会を開催しました.学生にとっても企業の技術者にとっても,実りの多いイベントになったと考えています.今後も,大学と産業界,日本機械学会の発展のために交流会を継続していきたいと考えます.
謝辞
お忙しいところご対応頂きました北海道大学の村井教授,渡部教授,永田教授,藤井准教授,村井研究室秘書の宮﨑様,学生の皆様,そして参加いただいた企業の皆様に感謝申し上げます.

参考:アンケート結果
交流会の開催後に,参加者全員にアンケート回答を頂きました.図にある通り,技術交流会に対する「高い満足度」が得られ,当初の「期待を上回った」という高評価を得られました.しかしながら,参加者が各々積極的な議論をしたかったとの思いから,「質疑応答時間」の不足という評価に現れ,ランチ会での「グループ分け」では,より多くの学生との対話の機会を設けるという点で,今後改善すべき点が明らかになりました.

下記に,アンケートの自由記述をまとめました.アンケート結果を反映し,来年度以降の技術交流会を更に発展していきたいと考えます.
✅ 技術交流会・ランチ会の良かった点
技術交流会とランチ会では,学生の就職に対する考えや希望を直接聞くことができ,企業にとって非常に有意義な機会となりました.学生側も企業の実態を知ることで,仕事への理解が深まったと思われます.また,実験装置や研究内容を実際に見学できたことで,学会発表とは異なるリアルな体験が得られました.学生の積極的な姿勢や質の高い発表にも感銘を受け,少人数グループでの深い対話や,自由な雰囲気での意見交換が交流をより充実させました.短時間ながら濃密な交流ができ,大学・企業双方にとって価値ある情報交換の場となりました.
✅ 技術交流会・ランチ会の改善点
今後の技術交流会・ランチ会では,学生に年齢の近い若手社員の参加や,これから研究活動が本格化し,また将来に向けて考え始めるB4・M1の学生の参加を促し,より学生に役立つように工夫したいと思います.ランチ会では,立食形式や時間交代制を導入することで,多くの学生と会話できるようにするなどの工夫が考えられます.また,企業間の交流時間の確保や,見学時間のタイムマネジメントの明確化も課題として挙げられます.学生に対して,事前に見学の目的や企業の関心を伝えることで,理解を深めるとともに,事前アンケートなどを活用してマッチングを工夫することも検討したいです.運営負担を軽減し,持続可能な形で継続できるような仕組みづくりを行いたいと考えます.


