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流れ 2025年2月号 目次

― 特集テーマ:流体工学部門講演会(その1) ―

  1. 巻頭言
    (朴,松田,洪)
  2. ロケット推進系の今と未来 ~ JAXA角田宇宙センターの取り組み ~
    冨田 健夫(宇宙航空研究開発機構)
  3. 第21回 流れの夢コンテスト 癒しのmoment
    土方 翔真(明星大学)
  4. 別の視点から考えたSDGs

    山田 友衣,渡邊 泰知,川田 治斗(日本大学)

  5. 流れの夢コンテスト体験記
    神戸 理志,松嶋 太郎(金沢大学)

 

別視点から考えたSDGs

日本大学 関谷研究室
チーム「NU S-Lab」

山田 友衣(代表),渡邊 泰知,川田 治斗
(写真左から 渡邊 泰知,山田 友衣(代表),川田 治斗)

はじめに

 日本大学理工学部関谷研究室のチーム「NU S-Lab」は,『海ごみ問題解決でSDGsに貢献』をテーマに選び,第21回「流れの夢コンテスト」に出場し,光栄にも優秀賞に選出いただきました.本稿では,コンセプトの発想から発表内容に至るまでをご紹介させていただきます.

コンセプト

 第21回流れの夢コンテストのテーマが『流れの力でSDGs達成に貢献しよう』でしたので,17のゴールから,主としてどの目標達成に貢献することを目指すかを決めることに悩みました.安易な考えですが「流れでSDGs」=「風車」?とも思いましたが安易すぎるため他のチームと被るのではと思い不採用にしました.次に思い浮かんだのがテレビなどでも良く取り上げられる「海の豊かさを守ろう」の目標でした.プラスチック製品の分別,海洋を漂うプラスチックの回収,回収の難しいマイクロプラスチック・・と考えを巡らせましたが,災害の多い日本のことをもっと考えてみようということになりました.毎年のように集中豪雨とこれによる河川の氾濫により,それまでの生活を一変させる痛ましい災害が発生しています.ニュースで見る災害の映像には,上流から流れてくる自然界に存在する木や土石と共に,人々が生活する中で使う自動車や家が河川に流されている中継も目にします.家屋と共に家具・家電・日用品・服など全てを流し去ってしまいます.この中にはプラスチック製品も含まれるため,SDGsの目標を達成するためにプラスチック製品の使用の削減や分別回収の活動をどんなに勧めても,自然由来の木片と共にプラスチックが海洋に流れ出てしまいます.「海に流さないように」から「流れてしまっても」に視点を変えてSDGsの目標達成に貢献できる作品にすることにしました.対馬市の海岸漂着物のモニタリング結果によると漂着物の32%(容積比)がペットボトル・プラスチック類・発泡スチロールで49%が人工物・自然物を合わせた木であることが報告されており,海洋漂流物・海岸漂着物にはプラスチック類と木が同等に含まれることがわかりました.大きなものは分別回収することができますが,長時間漂流することで微細化された場合は,一部のプラスチック類も木も共に水に浮くので分離することが困難なのではと思いました.一方で,アクアリウムで使われる木のように沈んでいる木もあることから,「木を沈めることは不可能ではない=分離することができる」のではと考え,分離する装置を製作することに決めました.

原理と作品タイトル

 水よりも大きな密度の物体は沈み,水よりも小さな密度の物体は浮きます.


 木材の密度は表1のように0.3g/cm3~0.7g/cm3であるため水の密度1g /cm3よりも小さく水に浮きます.プラスチック類は表2のように材質によっては水よりも密度が大きなものもありますが,ポリプロピレン(0.9 g /cm3)やポリエチレン(0.92 g /cm3)のように水よりも密度が小さい材質もあります.プラスチック循環利用協会の情報クリップによると廃プラスチック総排出量の内,ポリエチレンが33.8%,ポリプロピレンが24.4%を占めます.樹脂生産量でもこの2種類のプラスチックが合計で全体の47%を占めています.したがって,よく使われているこれらのプラスチック類をプラスチックの代表とするとプラスチック類も水に浮くものととしました.

表1 木材の密度

表2 プラスチック類の密度

 植物である木は,その繊維の主成分であるセルロース自体の密度は1.5 g /cm3と水よりも密度が大きいですが,木には水や養分を通すための道管があり,木材ではこの道管が空洞となって存在するため乾燥した木材は密度が小さくなります.道管が水で満たされた場合,残るのは水よりも密度が大きい繊維であるため水に沈ませることができます.このため長時間,水に浸されたアクアリウム内の木は水に沈んだままになります.

 水はプラスチック類には浸透しないため,木だけを沈めることができます.

 分離はこれで可能ですが,欲を出してプラスチックも水に沈めることができないかと発展も考えました.プラスチック類は密度が変わらないため,水の密度を変えることができれば・・・と.水に空気を混ぜれば密度が小さくなってプラスチックも水に沈めることができるのではと考えました.

 木は水を吸わせることで固体の密度を変え,プラスチックは水に空気を混ぜることで液体の密度を変えて沈める.密度(デンシティー)を操作して沈めるから作品タイトルを「Densi沈」(デンシチン)にしました.(このセンスも評価されたのかもしれません)


図1 分離の原理コンセプト

装置作り

 私たちのチームでは時間をかけずに水を浸透させる方法がないかと考えました.「水を浸透→味をしみこませる=圧力鍋」との発想で加圧する方法で早く水を浸透させ,木片を沈めようと考えました.液体が漏れずに加圧する透明な容器を作るのは難しいので大きなシリンジを採用しました.

 一方,「水に空気を混ぜる=マイクロバブルのお風呂」との発想でマイクロバブル発生装置を・・・と意気込みましたが金沢まで持っていく小さな装置を簡単には作ることは難しそうでしたので断念して,観賞魚用の水槽に空気を入れるポンプで代用しました.(大きな気泡で実現できるかとても不安です)

 樹脂ペレットは購入できるとしても,小さな木片は売ってない・・・.割りばしを電動の鉛筆削りで削って作りました.

実験

 実際に試す時が来ました.すごく不安です.

 手でシリンジを押して・・・全く沈まない・・・.体重をかけて力いっぱいシリンジを押すと何とか沈みました(感動です).シリンジ内の空気の体積変化をシリンジの目盛りから推定すると.なんと1気圧(もう圧力鍋です).

 一番不安な観賞魚用の空気ポンプで樹脂を沈める実験です.予想通り気泡が大きく,発案時のマイクロバブルとは全く異なる・・・.よく目も凝らして見るとたまに下に動くペレットもある・・かな.気泡による対流でそのように動いたのかもしれませんが(これが正しいと思います),ここまで来ると沈んでほしいとの強い願いがバイアスとして働き,沈んだと思い込んでいるだけの気もします.

 当日の実演が不安ですので,動画を残しておくことにしました.こちらが実験した際の動画です.

加圧吸水による木片の沈降実験動画

気泡混濁によるプラスチックの沈降実験動画

 改めて動画を見かえすと木片は沈んでいますが,プラスチックペレットは沈んだとは断言できません.

おわりに

 チームとして大学院生に協力していただき,学部生ながらコンテストに出場できた経験,何を話しているかほとんどついていくことができませんでしたが講演会での大学院生の皆さんの研究発表や質疑応答を聴講することができ貴重な経験となりました.また,残り少ない学生生活ですが改めて学生時代にしかできないことをやって充実した学生生活を充実したものにしようと決意しました.

謝辞

 末筆ながら,流れの夢コンテスト実行委員会の皆様,本稿の執筆の機会をくださりました広報委員会の皆様に感謝申し上げます.

参考文献

  • 一般社団法人 対馬CAPPA,令和5年度対馬市海岸漂着物モニタリング調査報告書(2024年2月)
  • 一般社団法人 プラスチック循環利用協会,プラスチック情報局・情報クリップ (2022年12月掲載)https://www.pwmi.or.jp/column/column-790/
更新日:2025.2.27