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流れ 2025年2月号 目次

― 特集テーマ:流体工学部門講演会(その1) ―

  1. 巻頭言
    (朴,松田,洪)
  2. ロケット推進系の今と未来 ~ JAXA角田宇宙センターの取り組み ~
    冨田 健夫(宇宙航空研究開発機構)
  3. 第21回 流れの夢コンテスト 癒しのmoment
    土方 翔真(明星大学)
  4. 別の視点から考えたSDGs

    山田 友衣,渡邊 泰知,川田 治斗(日本大学)

  5. 流れの夢コンテスト体験記
    神戸 理志,松嶋 太郎(金沢大学)

 

>流れの夢コンテスト体験記

神戸 理志
金沢大学

松嶋 太郎
金沢大学

1.はじめに

 第 21 回流れの夢コンテストにおいて,金沢大学流体工学研究室は『太陽水    ~この水の力でみんな元気~』と題した作品で,光栄にも「一樹賞」をいただくことができた.当作品は,太陽エネルギーを利用した水の浄化装置である.本稿では,作品の内容と経緯について紹介する.

2.コンセプト

 今回のコンテストのテーマは「流れの力で SDGs 達成に貢献しよう」であった.このテーマから,我々は再生可能エネルギー問題について挑戦することとなった.SDGs17 目標において,再生可能エネルギー問題は,「7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」に分類される.我々の研究室が,風車や流体振動などの再生可能エネルギーにまつわる研究を多く行っているため,研究室の知見を活かすことができるのではないかと考えた.そこで,我々の研究室に眠っていた太陽光パネルを用いることとなる.ただ,このままでは「流れ」の要素がなにもなくなってしまう!

 その時,この太陽光パネルの色が黒に近いことに着目し,表面温度が上昇するのではと考えた.この発熱が発電効率の低下を招いていると考え調べたところ,太陽光パネルの表面に水を流し表面の温度を低下させたときの

 発電効率を調べた論文を見つけた [1]. この論文の実験結果では,発電効率が上昇していた.このアイデアを用いて,何かの装置に組み込むことはできないかと考えた.

 我々は電気分解による水の浄化ということに着目した.バクテリアなどの繁殖の原因となってしまうアンモニア態窒素を水の電気分解によって除去できるという研究結果がある.これは,電気分解が水の浄化に必要な過程であることを意味する.この電気分解に必要な電気を太陽光パネルで賄うことで,必要な水を永続的に作ることが可能ではないかと考えた.

 そこで今回は,太陽光パネルの発電効率を高く維持した状態で水の浄化装置を作ることを試みた.

3.背景

 現在の世界的な水問題について,我々日本人のように,安全に管理された飲み水を利用できる人は全世界に凡そ 58 億人(73 %)いるが,残りの約 22 億人(28 %)は安全に管理された水を利用することができない.その詳細な内訳は図 1 に示す.この約 22 億人は衛生面に問題がある水を用いて生活を行っている.


Fig. 1: Global water state[2]

 そのため,衛生環境の向上が必要であるが,アフリカなどの発展途上国では,衛生環境の普及率が低い(図 2).衛生環境が普及している地域は,北米や欧州,日本などの先進地域がほとんどである.衛生設備が不足することで水質汚染が進行するため,現在でも水を安全に利用できる人が限られているのが現状である.そこで,水の浄化装置により,水の安全性を担保する必要がある.


Fig. 2:
Sanitation renetration rate[3]

 水質浄化の仕組みとして,物理学的処理,生物学的処理,科学的処理の 3 つが挙げられる.物理学的処理とは,水中に含まれる,目に見えるような不純物を取り除く方法である.例としては,濾過,沈殿,吸着がある.生物学的処理は細菌や水生植物などを利用した浄化方法である.科学的処理は,物理学的処理と同様水中に含まれる不純物を取り除くのだが,目に見えないような小さな不純物を取り除く手段であり,主に,化学的,電気的に行う.今回,我々は太陽光パネルと併用するため,この科学的処理に着目した.

 この装置が一体どのような場面で応用できるだろうか?応用できる場面の一つとして,雨水の有効活用が挙げられる(図 3).雨水を貯水タンクに貯めることで,農業や飲み水に利用できる.しかし,貯水タンク自体の汚れにより,雨水に含まれるアンモニア態窒素を栄養源として,バクテリアが繁殖してしまう.そのため,貯水タンクに貯めた雨水を利用する際には,物理学的処理だけでなく,科学的処理を行う必要がある.科学的処理を行うことで,アンモニア態窒素を取り除くことができ,バクテリアの増殖を抑制することができる.これらを踏まえたうえで,装置の設計を行った.


Fig. 3:
Raw water impurities

4.装置概要

 装置概要を図 4 に示す.浄化対象は雨水や川の水などの自然界から得られる水源である.太陽光パネルによって発電された電力を使用し,科学的処理によって貯水タンク内の水を浄化する.浄化された水はパイプを通る.その過程で,太陽光パネルの表面温度の低下のために浄化した水の一部を利用する.一方の浄化した水は,物理的処理などを通すことで,上水道から中水道まで様々な場面で使用することを想定している.実際に作成した装置の写真を図 5 に示す.構想段階では,太陽光パネルの冷却に使用した水は,浄化装置に戻すことで再利用を考えていたが,最終的にはエネルギー収支を考慮する必要がある.

(a) Schematic diagram  (b) Photography
Fig. 4: Solar-powered water system

5.流れの夢コンテストに参加して

 今回の作品製作にあたり,数々の困難があった.はじめに,コンテストの参加を打診されたのは 9 月の上旬であったが,参加しようとする学生が少なかった.そのため,コンテストのアイデア出しの際には,非現実的なアイデア,何の役にも立たないアイデア,そもそもSDGs と全く関係のない意見(愚痴のようなもの:お金儲けがしたい等)などが飛び出し,議論は混沌と化した.このため,コンテストに提出する作品アイデアがまとまらず,1か月程度迷走した.極めつけには,研究で主に数値解析を行っているメンバーが主力となってしまい,工作や実験を行っている学生製作メンバーにいなかったことから,作品製作は難航した.しかし,私たちは,研究室に落ちていた太陽光パネルを発見し,これを活用する手段を考える方針でまとめることができた.さらに,実験器具等の製作に詳しい本研究室の木綿先生に助言をいただきつつ,遊び心を持って設計と作品製作に挑んだ.こうした出来事から,何とか流れの「夢」というコンセプトを達成するため,試行錯誤の結果,製作期間の締め切りに間に合い,お見せできるものは製作できたと考えている.

 これらの困難を克服し,コンテスト当日には何とか完成した作品を持ち込んで挑み,不安ではあったが,多くの方から作品に対する意見や感想をいただくことができた.展示の時間では,非常に興味深く見てくださる方もいれば,具体的な質問をしてくださる方までおり,多角的な作品の見方を知ることができた.また,発表に関しては,学会とは異なり,かなりふざけてもよいと聞いていた.このため,作品のクオリティーで他チームに勝てないと考えた我々は,とにかく面白くすることを念頭にスライドを作り,発表を行い,評価していただけたように思う.
こうした,通常の研究活動では体験できない出来事を体験することができ,貴重な経験となった.研究室の後輩たちには,今後開催される本コンテストで,我々が作成した作品以上に,奇抜で観客をあっと驚かせるような作品を発表してほしいと願っている.

6.謝 辞

 本研究室の宮本隆太郎,伊藤駿佑,大井翔生,池田舜祐には準備から本番までご協力いただいたことに感謝します.また、本研究室の木綿隆弘教授には,本番の発表の際,顔写真を貸していただき,ありがとうございました.

文 献

[1] J.Joseph, Master Thesis of University of North Texas, “Improving photovolotaic panel efficiency by cooling water circulation “(2018)
[2] ユ ニ セ フ の 主 な 活 動 分 野|水 と 衛 生,  IFLANET (online), available from <https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act01_03_water.html>, (参照日 2024 年 1 月 22 日)
[3]

Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000-2022: Special focus on gender, IFLANET (online),

<https://data.unicef.org/resources/jmp-report-2023>, (参照日 2024 年 1 月 22 日)

更新日:2025.2.27