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流れ 2013年10月号 目次

― 特集テーマ:2013年度年次大会 ―

  1. 巻頭言
    (杵淵,玉野,真田)

  2. 「流れのふしぎ科学教室」-楽しい流れの実験教室と教員・科学ボランティアのための研修会に参加して-
    田原功一郎(米子工業高等専門学校)

  3. 竜巻の発生環境を再現する試み
    佐々浩司(高知大学)
  4. 水泳動作を行うロボットに作用する非定常流体力の計測とモデル化
    中島求(東京工業大学)

  5. EFDワークショップ 流体力とせん応力の計測
    亀田孝嗣(近畿大学)

 

竜巻の発生環境を再現する試み


佐々浩司

高知大学
自然科学系理学部門

1.はじめに

 2012年5月に北関東地区でほぼ同時に発生した竜巻や2013年9月に台風に伴って相次いで発生した竜巻のように,近年日本でも甚大な被害を与える竜巻が注目されるようになってきた.しかしながら,竜巻の発生過程は未だに明らかとなっていない.これは,竜巻が稀な現象でなかなか観測することが出来ないこと,仮にうまく観測にかかったとしてもその時空間的スケールが通常の気象観測機器では解像できないことから,有効なデータの蓄積が進まないことが大きい.これを補うものとして気象モデルによる再現実験(1)が数多く行われているが,多くは特定の竜巻が発生した時の大気環境から再現する事例解析に過ぎない.一方,竜巻を再現する室内実験(2)は竜巻渦の構造把握や,竜巻による風力測定などを主目的としたものがほとんどであり,竜巻の発生条件を見いだすようなことは出来なかった.ここでは,竜巻の発生環境を流体力学的に再現すること(3)によって, 竜巻発生の条件を明らかにしようとする著者らの試みについて紹介する.

 

2.ノンスーパーセル竜巻の再現

 ノンスーパーセル竜巻(4)とは,スーパーセルではない積乱雲から発生する竜巻であり,地表や海面上にできた局地前線において前線を挟んだそれぞれの気流の間に水平シアーが生じて鉛直渦度が集中するとともに,前線における気流の収束によって発生する上昇流がその鉛直渦度を引き延ばすことによって発生する.この環境を流体力学的に再現するには,周囲の空気よりも気温を低くした冷気外出流を模擬すれば良い.これは簡単にはドライアイスミストによって再現できるが,制御可能とするためには冷却装置を持つ吹き出し装置が良い.図1はペルティエ素子を用いて再現した冷気外出流を上から見たものである.気流の向きは画面の左から右である.冷気外出流の両端は水平シアーの大きい混合層になっているため,シアー不安定により発生する波動から既に鉛直渦度が局所的に集中している様子が伺える.このシアーライン上にファンを設置して上昇流を与えると,たちまち鉛直渦度が引き延ばされて図2に示すような竜巻状の渦を形成することが出来る.ファンをシアーライン上で移動させれば,それに応じて竜巻状渦も移動する.なお,冷気外出流の速度を上昇させるとそれに応じてシアーの強さが増すため渦は強くなるが,あまり速くしすぎると渦が風下に流されてしまい,安定して形成されない.また,ファンをあまり速く動かすとやはり渦がちぎれて消滅してしまう.これらのことから,上空の上昇流領域の水平方向移動速度と下層のシアーライン上の気流速度との間には竜巻を安定して発生させるための条件があることがわかる.

  冷気外出流の中央部には水平シアーは存在しないが,冷気外出流は重力流の一種であり下層ジェット型の速度分布をしているため,鉛直シアーが存在する.ここにファンをおいて上昇流を与えると,図3に示すように水平渦が傾けられて鉛直渦が形成される.この様子はスーパーセル内のメソサイクロンの形成過程(5)を良く説明するものである.

図1 冷気外出流の水平断面 図2 シアーライン上を  
移動する竜巻状渦  
図3 水平渦の立ち上げ   

 

3.スーパーセル竜巻の再現

 スーパーセルは強い回転上昇流であるメソサイクロンを持った積乱雲であるが,メソサイクロンの上昇流域と降水に伴う下降流域が水平方向に分かれて存在するため,気流がうまく循環し通常の積乱雲よりもはるかに長く持続する.さらに自身の降水によって作られる冷気外出流とメソサイクロンに吹き込む周囲の湿潤暖気との間に局地前線が形成されるため,雲底下に竜巻の種を持ちながら移動していくことになる.この気流構造を再現するため,下層に案内羽根,上昇にファンを取り付けたメソサイクロン模擬装置と,冷気外出流を再現する装置を組み合わせた.案内羽根の角度に応じてメソサイクロンのスワール比S(回転流と上昇流の比)を変化させるとともに,メソサイクロン底部の高さz/Dを変化させると,図4に示すようにメソサイクロンの回転と同方向の単一渦,互いに逆回転する一対の渦(図5),多重渦(図6)の3種類の竜巻状渦が形成されるとともに,全く渦ができない場合も見られた.これらはいずれも現実のスーパーセル竜巻のおいて見られるものである.米国では竜巻警報を発令する際にメソサイクロンの検知をその指標としているが,実際 に竜巻が形成されるのは検知されたメソサイクロンの20%程度でしかない(6).我々の実験結果は,先述したメソサイクロンの条件によって竜巻発生の有無が決定されることを示すものである.ここで示したスワール比Sは一般に観測分解能以下である竜巻のものではなく,メソサイクロンのものであるため,通常のレーダーでも観測可能であり,現実の観測データと比較できる.もちろん,下層から流入する冷気外出流の状態を変えることによってもこれらの竜巻発生状況は変化するものと思われる.これらの条件が全て明らかとなって,その成果がレーダー観測結果の解釈に反映されれば,現在の竜巻警報などをより精度の高いものにしていくことが期待される.


図4 メソサイクロンの条件による竜巻発生パターン

 


図5 互いに逆回転する一対の渦

 


(a) 吸い込み渦2個の場合 (b)吸い込み渦3個の場合  (c)吸い込み渦4個の場合
図6 多重渦の形成パターン

 

4.まとめ

 竜巻は積乱雲に伴う鉛直渦であり,必ず降水過程を伴っている.室内実験では降水粒子の凝結・蒸発過程を再現することが出来ない点が大きな欠点である.しかし,ごく基礎的な気流構造を再現するだけで竜巻状渦が再現できる様子を見ると,最終的に竜巻が発生する条件は純粋に流体力学的な室内実験でもかなりうまく説明できるように思える。限れた条件下ながらパラメータワークを自在に出来ることは,ケーススタディ的に解析するしかない気象モデルによるアプローチに比べて大きな利点である.実験的な発生条件を実観測とうまく対応させて行けば,竜巻予測精度を大きく向上できるのではないかと期待している.

 

参考文献

(1) Noda, A. T. and Niino, H., “Genesis and structure of a major tornado in a numerically-simulated supercell storm: importance of a vertical vorticity in a gust front”, SOLA Vol. 1 (2005), pp. 5-8.
(2) Church, C. R., Snow, J. T., and Agee, E. M.,“Tornado Vortex Simulation at Purdue University”, Bulletin of American Meteorological Society, Vol. 58, Issue 9 (1977), pp. 900-907.
(3) 佐々浩司, “竜巻の発生環境を再現する実験”, ながれ, Vol. 30, No. 5 (2011), pp. 395-400.
(4) Wakimoto, R. M. and Willson, J. W., “Non-supercell tornadoes”, Monthly Weather Review, Vol. 117, Issue 6 (1989), pp. 1113-1140.
(5) Rotuuno, R., “On the evolution of thunderstorm rotation”, Monthly Weather Review, Vol. 109, Issue 3 (1981), pp. 577-586.
(6) Wakimoto, R. M. and Cai, H., “Analysis of a nontornadic storm during VORTEX 95”, Monthly Weather Review, Vol. 128, Issue 3 (2000), pp. 565-592.


更新日:2013.10.31