流れ 2019年3月号 目次
― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―
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民間単独での観測ロケット開発と打上げとその後の超小型衛星打上げロケット開発状況
稲川貴大
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緒言
インターステラテクノロジズ株式会社(以下,IST)は2006年から民間企業として小型液体ロケット開発を行っています.北海道の十勝地方に本社を置き,小型ロケットの設計・製造・試験および打上げを行っています.2011年からロケット打上げ実験を行ってきており,2018年までに13回の打上げ実験を実施しました.2017年からは宇宙空間と定義される高度100km以上まで弾道飛行する能力のある観測ロケットMOMOの打上げ実験を実施しています.
図1.ISTによるロケット打上げ実験機体一覧
近年,宇宙開発の商業化が進み,宇宙ビジネスという言葉が台頭してきました.元々宇宙開発は政府の事業でした.それが通信部門での商用衛星などで商業化が進み,民間企業が人工衛星の開発・運用を実施するようになっています.ここ近年になって,大型ロケットにおいても民間企業が独自に開発するようになってきました.さらに開発が早く比較的安価な超小型衛星が実用的になり,多くの企業が超小型衛星でのビジネスを計画するようになってきました.このように宇宙ビジネスをしようというプレイヤーが増えてきたところです.
特にこの超小型人工衛星の需要の高まりに注目しています.コンステレーションと言って多数の衛星を使っての地球観測,通信の世界が広がっていこうとしています.超小型人工衛星は現在では大きなロケットに多数相乗りして打上げられていますが,それぞれの人工衛星においては目的の軌道が異なったり,搭載されるまでに他の衛星の都合で遅れたりと不都合があります.そこで超小型衛星を単機もしくは少数だけ運ぶロケットがあると便利です.
ISTではこの超小型衛星を便利に宇宙空間まで運べる小さく安価なロケットを打上げサービスとしてビジネスにしようと計画しています.このような小さなロケットは世界中が注目していおり,2018年には米国ロケットラボ社がElectronという超小型衛星用ロケットの打上げに成功しています.ISTとしては,この市場において,さらに便利で安いロケットの開発を目指しているところです.
インターステラテクノロジズでの開発
低コストな液体ロケットの開発のために,推進剤の選定,エンジンシステムの簡素化,安価なロケットエンジン設計・製造,一般流通品の部品採用したアビオニクス(ロケット用電子装置)など徹底的にロケットシステムをイチから考えて開発しています.ロケットエンジンは独自に開発しており,観測ロケットMOMOに使用しているメインエンジンはエタノール・液体酸素のロケットエンジンです.特に特徴的なのはピントル型インジェクタ(噴射器)というもので,これは東京大学とも共同研究1をしながら開発をしています.ピントル型インジェクタはアポロ計画の月着陸船のエンジンにも採用されたものであり,燃焼安定性と価格に優れた噴射器です.
燃焼試験も北海道にある実験場で行っています.
https://www.youtube.com/watch?v=GDs_B4Hcbjo
図2. ピントル型インジェクタの概念図
図3. ロケットエンジンの燃焼実験の様子
観測ロケットMOMO
現在国内においては鹿児島県内之浦から宇宙科学研究所が主導している観測ロケット(S310など)の打上げが行われています.これに対してISTでは安価で使ってもらいやすく高頻度な打上げ可能なロケット打上げサービスを開始しようとしています.技術的にはビジネスのメインとなる超小型衛星打上げロケットへの技術獲得・運用ノウハウ習得という観点もあります.民間のスタートアップ企業のロケット開発として資金調達は重要な観点ですが,通常の株式等による資金調達の他に,観測ロケット打上げ実験においてはクラウドファンディングの実施も行っています.初号機・2号機・3号機のクラウドファンディング合わせて延べ人数3000名から支援を頂きました.また他企業からの広告スポンサーを募り,機体の外側は企業広告を載せている点も珍しいところです.
初号機は2017年7月,2号機は2018年6月に打上げ実験実施し,部分的成功でした.
2号機は離昇後すぐにエンジンが止まり,落下炎上で打上げ失敗してしましました.
現在は3号機に向けて準備中であり,成功後は観測ロケットMOMOの商業化を目指しているところです.
https://youtu.be/5cuOol0kPVo (MOMO初号機)
https://youtu.be/RJ4LK50TwVs (MOMO2号機)
https://youtu.be/20xOBiEgtXE (MOMO3号機地上試験)
超小型衛星打ち上げ用ロケットZERO
ビジネスとしては超小型衛星を宇宙へ輸送するロケットの需要が大きいと考え事業計画を立てています.ISTとしてこのロケットの開発コードネームをZEROとして,現在は基本設計段階としてコンポーネント毎の基礎開発を行っています,ターボポンプ式になることから,その駆動力発生源であるガス発生器の試験などを実施しています.
結言
世界中で開発競争が激化している小型ロケット開発において,日本国内で弊社が競争に勝てるかどうかはここ数年で決まる重要な分岐点となります.ISTとしては世界で負けない便利な小型ロケットの打上げサービスが継続的に提供できるように開発をすすめていきます.