流れ 2019年3月号 目次
― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―
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流れの夢コンテストに参加して
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1.はじめに
私たち北海道大学工学部機械知能工学科の3年生3名(チーム名:きかいち〜♡)は,2018年11月29日に北海道・室蘭で行われた第16回流れの夢コンテストに参加した.喫煙室内のタバコの煙を音楽による振動で排出する装置「けむもじくん」の制作を行い,当コンテストでは「最優秀賞」を受賞した.本稿では受賞に至るまでの経緯を記したい.
2.コンセプト
当コンテストのテーマは「流れのアクティブ制御」であった.制作する作品の概要について3人で話し合っている中で,現代社会における「タバコ」の問題が挙がった.調べてみると,健康志向の広まりや受動喫煙,ポイ捨てなどのモラル・マナー違反,吸殻が火種となる火災など,様々な理由からタバコや喫煙者は批判され,分煙推進が謳われる世の中へと変化してきたことがわかった.そこで私たちは,肩身の狭い喫煙者と受動喫煙を心配する禁煙者,双方に寄り添った作品の制作を決意した.私たちが掲げたスローガンは「楽しい喫煙室を作ることによって喫煙者をきちんと喫煙ルームに誘導し,分煙を推進する」である.学部生3人による初めての研究活動はこうして始まった.
3.「けむもじくん」
「けむもじくん」という作品名に関して,喫煙室というワードから「けむ」はタバコの煙が由来であることは容易に想像できるだろう.では「もじ」については,これは文字が由来である.私たちは当初,煙で自由に文字を書くことができれば面白い喫煙室が実現できるのではないかと考えた.しかし,線香の煙を用いた模擬実験はいずれも上手くいかず,この当初の案は断念せざるを得なかった.次に,光センサーが煙の濃淡を感知し音楽や照明などのシステムが作動するという仕組みを考えた.しかし,煙は喫煙室内で瞬く間に拡散し,濃淡をつけることができずこの案も断念せざるを得なかった.さらなる代替案として,シャボン玉での強制換気システムを考えたが,シャボン玉発生機の風の影響が大きすぎて喫煙室内の煙をシャボン玉で排気するという本来の目的が達成されず,やはりこれも成功しなかった.3ヶ月間悩みに悩み抜いた末に,最後に考えたのが今回の作品である.「けむもじくん」の由来であった「文字を書く」とは結果的に関係がなくなってしまったが,失敗した全ての経験があってこその完成作品であると考え,名前は当初のまま「けむもじくん」とした.
4.作品について
図1 「けむもじくん」概略図
図2 完成作品「けむもじくん」
図1は「けむもじくん」の概略図である.完成した「けむもじくん」は主に「熱対流装置」,「光センサー」,「渦輪発生装置」の3つの部分に分けられる.作成した装置は実際の喫煙室の約10分の1のスケール(150×300×400mm)である(図2).
図3 熱対流装置
装置の1階部分に位置するのは,「熱対流装置」である(図3).底部にシリコンラバーヒーターを取り付け,発熱させることで底部と上部(1階と2階の仕切り部分)との温度差をつける.これにより熱対流が生じることで,1階部分に空気の流れが発生し,2階部分への煙収集を高効率化している.
図4 光センサー
装置の2階部分の底部に取り付けたのは「光センサー」である(図4).熱対流で1階部分から集められた煙により光が遮断され,それを光センサーが感知することで,1階部分に設置したLEDライトが点灯するという仕組みである.わずかな明暗の変化でも感知できるようにトランジスタを複数用いた回路を組んだ.
図5 渦輪発生装置
2階部分に位置するのは「渦輪発生装置」である(図5).1階部分のLEDライトの点灯を合図に,スピーカーのスイッチを入れるとスピーカーから音楽が流れる.音楽による振動が急激な体積変化を起こすことで空気が押し出され,スピーカーの先に設置した円形の穴(オリフィス)を通過する.この空気は周りの煙を巻き込み渦輪となって装置の外部に排出されるという仕組みである.コンテスト当日は,様々な曲を流したりアンプを経由してギターやホルン,マイクを接続することで,楽器の演奏や人の声によって生じる渦輪の違いを披露した.
5.流れの夢コンテストに参加して
コンテスト当日はありがたいことに私たちの展示ブースの前で足を止めてくださる方が多く,話を聞いてみると「ポップな音楽に惹きつけられてつい来てしまった」,「リズムに合わせて渦輪が発生するのが面白く,気づいたら見入っていた」,「曲による渦輪の違いが興味深くて他の曲でも試したくなった」などのお言葉をいただいた.1時間以上に及ぶ実演を終えた後でさえ,「音楽に合わせて渦輪が出る様子は見飽きない,もう一度見たい」と私たち自身も語り合うほどで,楽しい喫煙室を作るという当初の目標を達成することができたと考える.
また,コンテストに参加して多くのことを学んだ.私たちは学部3年生であり,研究室にはまだ配属されていない.そのため,自らテーマを考え,実験装置の作成を行い,実験データを収集し,発表までまとめるという,一連の研究活動は今回が初めてのことであった.理論をもとに話し合っても実験では上手くいかなかったり,自分たちの思い描くような理想的な現象を実現することが困難であったりなど,活動開始当初は失敗ばかりで戸惑った.行き詰まるたびに3人で話し合い,解決策を模索するという,手探りの研究であったように思う.たくさんの遠回りを経たけれど,だからこそ思いついたアイディアもあったのかもしれないと,コンテストが終わった今になって気づいた.失敗した経験も途中で投げ出さなければ無駄にはならないことを学んだ.また,今回は流体工学部門のコンテストであったが,思いのほか光センサーに関する回路部分に苦戦した.研究活動には,ある単独の専門分野だけではなく,私が想像していた以上に多くの他の分野の知識も必要であることを学んだ.1つのものを作るには,各方面の専門家の協力が重要であることを改めて認識した.
6.まとめ
今回,私たちは目だけでなく耳でも楽しめる喫煙室「けむもじくん」の制作を試みた.光センサーの回路部分をさらに工夫してLEDライト点灯ではなく直接スピーカーのスイッチが入る仕組みにすること,実際には人間が入る空間なのでヒーターを適切な温度に設定すること,実際の喫煙室のサイズでも渦輪の発生を可能にすることなど,課題はまだまだ残る.
7.最後に
今回の流れの夢コンテストに関わって多くの方々にお世話になりました.実行委員長を務められた小林一道先生をはじめとする実行委員会の先生方,熱心に指導をしてくださった先生方,様々なアドバイスをしてくださった先輩方,そして何より共に研究を行ってきた仲間たち,本当に多くの方々に支えられて今回このような名誉ある賞をいただくことができました.この場をお借りして深くお礼申し上げます.