流れ 2022年10月号 目次
― 特集テーマ:第20回 流れの夢コンテスト ―
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(関東支部賞)第20回流れの夢コンテスト 液体金属クラウンの魅力
東京工業大学 近藤正聡研究室
チーム「Liquid Metal Crowns」
小野塚 龍斗,西尾 龍乃介,大野 健士,林田 健,武藤 龍平,堀川 虎之介
(写真左から、武藤龍平, 小野塚龍斗, 西尾龍乃介, 堀川虎之介)
1.はじめに
東京工業大学に所属する,チーム「Liquid Metal Crowns」は,第20回「流れの夢コンテスト」に出場した.『「液体金属クラウン」を作ろう!』というタイトルのもと,液体金属を用いたミルククラウン現象の発現に挑戦し,光栄にも「日本機械学会 関東支部賞」を頂いた.本稿では,受賞に至るまでの経緯や作品内容について紹介する.
2.コンセプト
当コンテストのテーマは「安全・平和・安心な社会を実現する流れを語ろう」であった.これを受け,美しい光沢をもつ「液体金属」による「ミルククラウン現象」(薄く張った液面に液滴を落とすと美しい王冠の形が見られる現象)の発現に挑戦した.溶融状態の金属を意味する「液体金属」は優れた伝熱性能をもつことから,次世代エネルギープラントの高性能冷却材として期待されている.また,本作品の主題である「クラウン」は「栄光・繁栄」という意味をもつことから,人類の発展・繁栄を連想させる.これら2つを掛け合わせた「液体金属クラウン」によりテーマの表現を試みた.
Fig. 1 Appearance of the liquid metal | Fig. 2 Milk crown phenomenon |
3.実験
3.1 実験装置
実験装置の概略図を図3に示す.液体金属には,低融点金属であるガリウム(融点:約30℃)を用いた.また,比較のため,水を絵の具で着色した「色水」についても同様の実験を行った.色水は液滴を黒色,液面を白色と異なる色で着色することで,クラウンが液滴と液面どちらにより構成されるかを可視化した.ヒーターの上にトレイを設置し,深さDの液面を張った.その後,液滴を高さHから滴下することでクラウンの形成を試みた.クラウンの形成過程はハイスピードカメラを用いて撮影した.
Fig. 3 Experimental apparatus
3.2 液体金属と色水の比較
流体に液体金属を用いた場合と色水を用いた場合の形状比較を行った.液面深さ D = 4 mm,滴下高さH = 80 cm の条件のもと実験を行った.
ハイスピードカメラにより撮影した動画を動画1に示す.液体金属クラウン(動画1(a))と色水クラウン(動画2(b))を比較すると,クラウン上部の突起数の違い,クラウン壁面の形状の違いが見られた.また色水クラウンの動画より,内側が液滴,外側が液面により構成されることが確認された.
(a) Liquid metal |
(b) Colored water |
Movie. 1 Formation of the crown |
図4にクラウン上部の突起数の比較を示す.図4より,液体金属クラウンの突起数は15,色水クラウンの突起数は10と確認された.ここで,液滴を界面に落とした時に生成される突起数の理論式として,ウェーバー数Weとレイノルズ数Reによる式(1)が提案されている(Bhola and Chandra, 1999).
(1)
式(1)に今回の条件を代入し,突起数の理論値Ntを求めた結果を表1に示す.理論値を実験により確認された突起数と比較すると,色水は比較的近い値となった一方,液体金属については理論値の方が大幅に大きな値となった.不一致の原因としては,突起同士の間隔が狭く,細かな突起が合体したため,顕著な突起数が減少した可能性が考えられる.
(a) Liquid metal | (b) Colored water |
Fig. 4 Number of the crown fingers |
Table 1 Number of the crown fingers
|
We |
Re |
Nt |
N |
Liquid metal |
450 |
56000 |
47 |
10 |
Colored water |
220 |
4000 |
17 |
15 |
図5にクラウン壁面の形状比較を示す.色水ではクラウン壁が円筒状となる一方,液体金属ではクラウン壁が円錐状になった.壁面形状が異なる理由は,表面張力の影響と考えられる.液体金属として用いたガリウムは,色水の約10倍の表面張力をもつことから,液面形状を変化させにくく,液面が持ち上げられるような形で変形したと考えられる.
(a) Liquid metal | (b) Colored water |
Fig. 5 Shape of the crown wall |
3.3 滴下高さ・液面深さによる影響
クラウン形成時の滴下高さHと液面深さDによる影響を調べるため,表2に示す3条件でクラウン形状を比較した.比較はクラウンが最高高さになった時の画像を用いて行った.
Table 2 Experimental conditions
|
Height H [cm] |
Depth D [mm] |
① |
80 |
4 |
② |
60 |
4 |
③ |
80 |
1 |
図6に条件①と条件②の比較を示す.滴下高さがより高い図6(a)において高いクラウンが形成された.液滴の位置エネルギーが大きいことで,液面を持ち上げることにより大きなエネルギーが使われるためと考えられる.また,滴下高さ60 cm の条件②では,突起の発現が見られなかった.これは,流体の慣性力が突起の形成に影響しているためだと考えられる.
図7に条件①と条件③の比較を示す.液面浅くすることでクラウン形成に使われる液体の量が減り,壁面の薄いクラウンが形成された.
(a) H = 80 cm | (b) H = 60 cm |
Fig. 6 Comparison of drop height |
(a) D = 4 mm | (b) D = 1 mm |
Fig. 7 Comparison of liquid depth |
4. まとめ
「安全・平和・安心な社会を実現する流れを語ろう」というテーマを受け,平和の象徴である「液体金属クラウン」の形成・撮影に成功した.液体金属の持つ大きな密度と表面張力により色水クラウンとは違った形状のクラウンを観察することができた.
5. 謝辞
本コンテスト参加にあたり,多くの方々からご支援を頂きました.この場をお借りして,チームメンバー,実行委員会の方々に深く感謝申し上げます.また,本稿執筆の機会をいただきました日本機械学会流体工学部門関係者の皆様にも厚く御礼申し上げます.
6. 参考文献
R. BHOLA and S. CHANDRA, Parameters controlling solidification of molten wax droplets falling on a solid surface, Journal of Materials Science. 34 (1999), pp.4883 – 4894.