流れ 2022年10月号 目次
― 特集テーマ:第20回 流れの夢コンテスト ―
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(優秀賞)流れの夢コンテスト回顧録
宇田 竣哉 | 金田 好晴 |
(日本大学,チーム名:MECST) |
はじめに
我ら日本大学理工学部機械工学科4年生5名(チーム名:MECST)は、2022年8月7日に早稲田大学で行われた第20回流れの夢コンテストに参加した.風力発電において,強風時でも安全に継続して発電を行うための変形機構を提案,実演し,当コンテストにおいて優秀賞を受賞した.本稿において経緯を記したい.
コンセプト
当コンテストのテーマは「安全・平和・安心な社会を実現する流れを語ろう」であった.テーマについて考えた際に,自身の研究室で行われている風力発電を最初に連想した.
風車というのは周知の通り風で回る巨大な機械であるが,このような回転部を有する機械には共振を引き起こす危険速度なるものが存在する.人間には操作できない自然エネルギーである風を動力源とする風車は,とりわけ台風の多い日本では危険性が高いわけである.当然ながら現在よく見かける水平軸風車には翼の迎え角を変える機構があり,これを操作し停止することで安全な運用を実現している.風力発電は昨今注目されている再生可能エネルギーとして期待されているが,現在主力の火力発電を代替するには程遠い.風力発電は前述の通り強風時には安全の為に停止されるため,発電の安定性が代替を妨げる一因となっているのである.
これらを踏まえ,「(火力発電の代替を目指すため,)強風時でも継続した発電を可能とする風車変形機構の提案」をコンセプトとして設計製作をスタートした.
概念設計
風力発電には水平軸型と垂直軸型がある.風車変形機構の発案にあたって,水平軸型は翼の迎角を変える機構が普及しており,垂直軸型は自身の所属する研究室で既に変形機構を一つ開発していた.更に,今回は流れの“夢”コンテストであることから実現性や合理性に問題があっても,新規性,カッコ良さがあれば良いとして5名総勢でアイデアを出しあった.この検討は一部オンラインで進めていたのだが,画面越し故にアイデアがうまく伝わらず難儀したものの,勘違いから新たなアイデアが生まれたり,アイデアを掛け合わせて新たなアイデアが生まれたりと面白い一幕もあった.こうして水平軸,垂直軸それぞれ3種の機構を決定した.変形によりモーメントアームを短くするもの,揚力ベクトルを回転軸方向に逸らすもの,翼の後流を他の翼に干渉させるものとバリエーションに富んだラインナップとなった.
図 1 機構決定
製作
機構に続き筐体製作もロボット等の工作向け商品が見つかったことで比較的難なく進んだが,問題はここから先であった.第一に,CADが難なく扱える者,つまり詳細設計に関われる者が2名しかいなかった.これは設計班と発表資料班にチームを二分して同時に進めることにした.第二に,風車の設計について知識がある者が居なかった.第三に,この時点でコンテスト当日まで二週間程度しかなく,部品製作には3Dプリンター1台しかないために部品製作ペースが遅く試行錯誤できる回数も限られていたのである.後者二点は変更の少ないであろう部品を先に製作しその間に調査を進める,角度を自由に設定できる部品を作成し設計変更に対応するなどの工夫でなんとか乗り切った.特に垂直軸型は回るまでに翼形,翼弦長を変更,取り付け角を変えてみるなど試行錯誤に苦しみ,回ったのはコンテスト当日まで1週間を切っていた.
図 2 自由設定ステー
図 3 完成した風車模型
一部紹介
作品の中でユニークなものを一部紹介する.
~水平軸型より~
翼が折れて畳むことで直径を小さくしようというアイデアからできた機構.電車の一本足パンタグラフから着想を得て設計した.個人的には変形がカッコよくて一番のお気に入りである.
図 4 水平軸風車 案③
~垂直軸型より~
提灯から着想を得てできた機構.関節部に重りを付け,回転軸部にバネを仕込むことで遠心ガバナのように自動変形をさせることができるが,今回は時間が無く見送った.
図 5 垂直軸風車 案②
発表資料班からみて
前述のように,設計ができる者が2人しかいなかったため,残りの3人がプレゼン資料の作成等を行った.基本的にはイメージがその場で伝えやすいことから,研究室などで集まり,内容に関して話し合った.過去に発生した風車の過回転による破損事故を記載することや,小型風洞を用いた風車の回転時の映像を採用することなどが決まっていき,作成班のアドバイス等も参考にしながら、順調に資料が作られていった.
流れの夢コンテスト当日、我々は4番目に発表することになり,他団体のプレゼンを聴いていたのだが,どの団体も発表内容もさることながら,話し方がユニークさに富んでいたため、我々の発表は埋もれてしまうのではないかと不安になってしまった.
参加してみて
今回のコンテスト参加は先生からの提案だったため,別々の研究班,研究室からの寄せ集めで編成されていたので今回の活動が初顔合わせになる人も多かった.感染症の為に誰かと活動を共にする機会が減っているが,今回の参加が新しい交流の機会となり嬉しく思う.他チームとの交流で知らなかった分野の情報や発想に触れることができ,非常に有意義な経験となった.今回の作品である風力発電についても自身の研究テーマとは違うものであったので製作を通して非常に勉強になった.
実際に我々のプレゼンを行ったとき,風車の変形機構毎の回転を映した動画がトラブルで動かなくなってしまった.プレゼン中に復旧はできず,そのまま口頭だけの説明になってしまったことはとても悔しく思う.だが,聴講してくださった方々が動画を観ることができなかった分,実演時に多く立ち寄って観覧及び質問等をしてくださったことに感謝してもしきれない.今回の発表に関しては大きなトラブルが発生し,反省すべき点も大いにあったが,それを踏まえていい経験になったと思う.
一方で,変形の前後で回転数やトルクの変化を計測し定量的な評価をする,より実用的な変形機構に改良するといった課題は残った.機会があれば挑戦したいと思う.
最後に
流れの夢コンテストの参加にあたって,多くの方々のお世話になりました.当コンテストを開催してくださった実行委員の先生方,コンテスト参加を勧めてくださった鈴木先生,共に活動したメンバーなど多くの方々のご尽力がありこのような栄誉ある賞を受賞することができました.この場を借りて厚くお礼を申し上げます.