流れ 2022年11月号 目次
― 特集テーマ:2022年度年次大会 ―
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モード分解を用いた流体計測の高度化
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1. 緒言
本発表は,EFDワークショップ「流体工学とAI」の招待講演として行われた.このような場を設けてくださったオーガナイザーの先生方に謝意を申し上げる.以下では本発表での概要を記す.
近年,データ駆動科学1)や機械学習を利用した流体解析が注目を集めている.固有直交分解などのモード分解により、現象理解やモデル化,実験データのノイズ除去などが実現されつつある.特に流体計測へのノイズ除去などへの適用はデータ駆動科学や機械学習を非常に有効に利用できる好例である.しかしながら,これらの技術を使うことを前提に流体計測のデザインまで立ち返って,流体計測を高度化するような例はほとんど報告されていない.
著者のグループでは,データ駆動科学に基づくモード分解を,計測に積極的に取り入れその高度化を実現してきた.本発表では,著者のグループが最近発表した2つの技術:スパースプロセッシング粒子画像流速計測法(SPPIV) 2,3)と時空間超解像技術4)の紹介を行った.
2. SPPIV
SPPIVは,流れ場がモードで表現できることを利用して,画像の一部のみを解析することでPIVをリアルタイム化する試みである. SPPIVは,固有直交分解(POD)を利用してモード表現を得て,そのモードを観測するのに適した疎な解析点をセンサ最適化技術で求め,モード係数をカルマンフィルターで推定することで,最終的に全体の速度場をモード表現により推定する(Fig. 1).
Fig. 1 Schematic of SPPIV.
本技術を東北大学流体科学研究所の小型低乱熱伝達風洞を用いてデモンストレーションした.10 m/sの主流中に,コード長100 mm,スパン長300 mmのNACA0015翼模型を迎角14-20度で設置し,リアルタイム計測を試みた.カメラにはPhotoron社製IDP-Express R2000のリアルタイムカメラを利用した.
本計測では,2000 Hz(画像取得は4000 Hz)でのリアルタイム速度場計測に成功している.計測の設計にまでデータ駆動科学に基づくモード分解を取り入れた計測の高度化の好例となっている.
3. 超音速噴流の時空間超解像計測
超音速流れの時定数は非常に短く,現状のPIVなどの計測では,時系列データの取得は非常に困難である.そこで,「時間解像度は低いが空間解像度の高い」PIV計測と「空間解像度は低いが時間解像度の高い」マイクロフォン計測をデータ駆動型の低次元モデルで組み合わせることで,時空間に解像度の高い計測結果を推定するのが時空間超解像計測である.
マイクロフォンとPIVデータからそれぞれPODモードを抽出し,これらの関係をスパース回帰によりデータから推定した.最終的に構築されたモデルから,時空間に解像された非定常流れ場を推定できている.2K高速度カメラのフルフレームの解像度のPIVは通常4 kHz程度で得られるが,本時空間超解像技術により同じ空間解像度の結果を200 KHzのサンプリング周波数相当で再構成できている(Fig. 2).現在,DMDモードとの組み合わせによるさらなる高度化,マイクロフォン位置の情報を利用した3次元流れ場の再構築などを行っている.これらの計測は低次元モデル化を行うために,計測条件を最適化して行っており,データ駆動科学を利用した後処理を前提に実験デザインまで立ち返った実験を実施しこれを実現している.
Fig. 2 Spatio-temporal superresolution measurement of a supersonic jet
4. 結言
本発表では,データ駆動科学に基づくモード分解を,積極的に取り入れた流体計測の高度化を紹介した.これらの技術により,これまでできなかったリアルタイム流体制御やこれまで理解できなかった流体現象の理解につながることを大いに期待する.