流れ 2022年2月号 目次
― 特集テーマ: 流体工学部門講演会 2月号 ―
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飛跡解析に基づく舶用過給機ラジアルタービン内の粒子挙動評価
谷口 直 (三菱重工業株式会社) |
平谷 文人 (三菱重工業株式会社) |
辻 剛志 (三菱重工マリンマシナリ株式会社) |
西村 英高 (三菱重工マリンマシナリ株式会社) |
1. はじめに
日本機械学会第99期流体工学部門講演会において,優秀講演として表彰されると共にニュースレター執筆の機会を頂き,大変光栄に思う.この場をお借りして,日本機械学会流体工学部門の皆様にお礼申し上げる.ここでは講演内容である,舶用過給機ラジアルタービン内の粒子挙動評価について紹介させて頂く.
2. 研究背景及び目的
船舶による海上物流は人々の生活や経済活動の根幹を支えており,要求出力や厳しい環境規制を満足するためには,舶用主機及び補機エンジンへの過給機の搭載が不可欠とされている.過給機の概要を図1に示す.過給機は,エンジン排ガスの持つエネルギを利用してタービンを駆動し,同軸の圧縮機により空気をエンジンに圧送することで高出力化を図る流体機械である.
Figure 1 Overview of turbocharger.
ここで,エンジン排ガスには燃料燃焼に伴う残渣物粒子が含まれるため,タービン動翼は摩耗しやすい環境下での運用を余儀なくされる.極端な摩耗が生じると,タービン動翼損傷や空力性能の低下に繋がることが懸念され,動翼交換などのメンテナンス費用の増大や過給機効率の悪化を招く.実機タービン摩耗事例を図2に示す.本事例では,エンジン排ガスに含まれる燃焼残渣物の衝突痕と見られる多数の凹凸をタービン翼表面の腹側及び背側で観察しており,直径50μm前後のサイズが主であることを確認した.
Figure 2 Example of impact marks on turbine surface due to combustion residue particles.
過給機が長期に安心して使用されるためには,粒子挙動を考慮したタービン設計が必要となるが,ラジアルタービンにおいて解析評価した事例は少ない.そこで,舶用過給機ラジアルタービンを対象に内部の粒子挙動を飛跡解析により評価し,実機タービン翼面衝突痕と粒子挙動の整合性を確認すると共に,流動メカニズムの把握を試みた.
3. 流動解析体系
解析条件を表1に示す.過給機使用頻度の高いエンジン50%負荷条件を模擬し,圧力比2.14での定常解析を実施した.粒子条件については,排ガス中カーボン粒子径調査事例[1]を参照し,1,10,50μmの粒子径を選定した.
解析モデルを表2,図3に示す.過給機タービン側はガス入口ケーシング,ノズル,タービン動翼から構成される.ノズル及びタービン動翼は全周モデル化し,ガス入口ケーシング含め総メッシュ数は約3330万の解析体系とした.解析ソルバーはANSYS CFXを用い,乱流モデルはSST(Shear Stress Transport)とした.
Table 1 Analysis conditions. Table 2 Analysis model. |
Figure 3 Analysis model. |
気相解析後に気相と同等の初速度で40万個の粒子を投入し,One Wayの粒子解析を実施した.壁面に付着した粒子は消失する解析設定とし,各部の粒子付着率を元に粒子挙動の定量評価を試みた.タービン動翼翼面分割内容を図4に示す.各部の粒子付着率を詳細評価するため,タービン動翼面を腹側(Pressure surface),背側(Suction surface),腹側前縁(Pressure surface L.E. :Leading Edge),背側前縁(Suction surface L.E.)に大別し,背側前縁については翼端を上流側(Suction surface L.E. upper),翼端から3~5mm下流領域を下流側(Suction surface L.E. lower)として細分化した.
Figure 4 Domain division on turbine surface.
4. 気相流動評価
タービン内部気相流動を図5に示す.ガス入口ケーシングの非軸対称性に起因して,各ノズルピッチ出口間で異なる流速分布となっている.また,タービン動翼入口速度三角形を図6に示す.ノズルより流出する流体の速度は絶対速度と定義され,これにタービン動翼が回転することによる周速が付加され,相対速度を持って動翼へ流入する.相対速度と径方向成分がなす角度を相対流入角と定義し,ここでは大きいと動翼に対して腹側流入,小さいと動翼に対して背側流入と定義する.本解析負荷条件においては,動翼に対する気相の相対流入角が大きく,腹側流入する流れ場となっていることを確認した.
Figure 5 Turbine internal flow of gas. |
Figure 6 Turbine velocity triangle. |
5. 粒子挙動メカニズム推定
気相解析後,粒子解析を実施した.タービン動翼背側前縁における粒子付着率及び粒子軌跡を図7に示す.動翼背側前縁において50μm粒子の付着率が高く,実機タービン翼面衝突痕と整合する結果が得られたことから,粒子挙動は解析評価できていると考えられる.50μm粒子において,動翼背側前縁へ到達する粒子軌跡を見ると,ノズル部で加速されず動翼部へ流入する挙動を呈しており,翼間で加速されている10μm粒子とは異なる軌跡を示している.
Figure 7 Particle adhesion rate and particle trajectory on blade suction surface L.E.
粒子径による挙動差は,速度三角形により説明できると考えられる.タービン動翼内部粒子挙動メカニズムを図8に示す.粒子径が小さい微細粒子は抗力係数が大きく[2]気相へ追随しやすいため,ほぼ気相場と同等の流速で動翼へ流入する.粒子においても,気相場と周速は変わらないため,気相と同等の相対流入角を有し気相と同様に翼間を流れる.一方で,粒子径が大きい粗大粒子は,抗力係数が小さいことから加速されず気相へ追随しにくいため,気相より低流速で動翼へ流入する.周速は変わらないことから,気相場に対して相対流入角が小さくなり,動翼背側へ流入しやすい流動を呈し,タービン動翼の摩耗を引き起こすと考えられる.
Figure 8 Particle flow mechanism in turbine blade.
タービン翼面各部における粒子付着率を図9に示す.粒子の付着箇所を詳細分析すると,気相は動翼に対し腹側流入となっているため,気相に追随しやすい微細粒子では動翼腹側の付着率が高い傾向にある.一方で,粒子径が大きいと,動翼背側へ流入しやすいため動翼背側前縁の付着率が高い結果が得られ,前述した粒子挙動メカニズムは妥当であると考えられる.
Figure 9 Particle adhesion rate on turbine blade surface.
また,タービン動翼位相の影響を評価するため,ノズルに対するタービン動翼位相を0°から11°,22°,33°と変化させた場合の,50μm粒子の動翼背側前縁に対する粒子挙動を確認した.気相の相対流入角及び動翼背側前縁へ付着する50μm粒子軌跡を図10に示す.タービン動翼位相変化により,相対流入角などの気相場は大きく変わらない結果が得られた.その一方で,位相22°においてはあるノズル間から流出する粒子は動翼背側前縁へ付着しない結果が得られ,動翼位相により粒子挙動に変化が見られる.
Figure 10 Relative flow angle and particle trajectory of 50μm particle on blade suction surface L.E.
タービン動翼背側前縁における50μm粒子の付着率を図11に示す.タービン動翼位相変化により,50μm粒子の動翼背側前縁への粒子付着率は±0.2%程度増減する結果を得た.これは,ノズルより流出する粒子とタービン動翼の位相関係に起因するものであり,粒子挙動のメカニズムは変わらないと考える.
Figure 11 Particle adhesion rate of 50μm on turbine blade surface LE.
6. おわりに
過給機ラジアルタービン内の粒子挙動を解析評価し,タービン動翼背側前縁において,慣性力が大きく気相に追随しにくい粒子の衝突が動翼摩耗要因であることを突き止めた.動翼翼背側前縁には50μmオーダの粒子が多く到達しており,実機タービン翼面衝突痕とも整合する結果を受け,各部の粒子付着率で粒子挙動を説明できる見込みを得た.また,タービン動翼位相により,動翼摩耗要因の粒子挙動メカニズムは変わらないことを確認した.
経済活動の主軸となる船舶に不可欠な過給機には,信頼性と共に燃費低減へ向けた高い効率が求められる.解析技術を駆使した過給機開発を行い,機能向上ひいては省資源の実現に貢献していく.