流れ 2008年4月号 目次
― 特集: 次世代二相流研究 ―
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サブミリスケールの気泡発生制御とその計測
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1. はじめに
近年,マイクロ・ナノバブルという言葉をよく耳にする.ミリスケールの気泡と比較して数十マイクロメートル程度の気泡はその比表面積が大きいため,物質移動の促進などが期待されている(1).ここでは数百マイクロ程度(サブミリ)の気泡の精度良い発生手法とその計測手法について紹介する.
2. 気泡の発生制御
微小気泡生成の難しさはOguzら(2)により詳細に説明されている.以下その概略を説明する.液体中で,半径rB の気泡内圧力は,図1(a)に示されるように周囲に比較してその表面張力分(ラプラス圧)だけ高くなる.そのため,半径rn のノズルより気泡を生成するためには,最低pmin(= p∞+2σ/rn ) の圧力が必要となる.しかし,気泡が成長するにつれて(図1(b)の(i)から(ii)へ変化),気泡半径は増大するために,ラプラス圧は下がる.従って気泡内圧力が余剰となり,気泡は急激に成長する.そのため,小さな気泡を生成させようとノズル径rn を小さくすると,それだけ必要なラプラス圧は増大し,急激な気泡成長を伴ってしまう.
(a) ラプラス圧 (b) 気泡発生時の気泡内圧力
図1 液体中での気泡内外の圧力差と気泡発生時の圧力
図2 浮力と表面張力のバランスにより生成される気泡とノズル径との関連
また,気泡がノズルから離脱する際の準静的な力のバランスを考えると,気泡に働く力は,浮力とノズル周縁部に働く下向きの表面張力である.浮力が表面張力を上回れば気泡は離脱する.この準静的な力の釣り合いによって決定される気泡径をFritz径と呼ぶ.このFritz径を基に気泡の発生を考えると,図2に示すように,ミリスケールの気泡を発生させるためのノズルは現実的であるが,サブミリスケールの気泡を発生させるためには,機械加工では困難なサイズのノズルが必要となる.またこの程度になれば,必要な圧力も相当なものとなり,上述した気泡の急激な成長も避けられない.その結果,表面張力に加えて粘性抗力,付加質量力が気泡に作用し,気泡離脱を阻害する.以上のような理由でサブミリスケールの気泡を生成させる手法は非常に困難である.
気泡は周りの周囲液相に比較して,その密度が非常に小さいため,一般的に発生の制御には液相の流れや超音波が利用されてきた(3)(4)(5).しかしそれらの手法では静止液体中への気泡発生は困難である,あるいは,装置が比較的大掛かりになる.そこで,我々は気体圧力変動を利用した,気泡発生制御手法の開発を行った.以下,サブミリスケールの気泡を一つから複数個数を制御して発生できる装置(6)の紹介を行う.
図3 気泡発生制御装置の概略図
図4 気泡発生の様子(発生気泡半径rb=0.28mm,フレーム間隔Dt=0.13msec)
図3に気体圧力変動を利用した気泡発生制御装置の概略図を示す.装置はオーディオスピーカー,導管,信号発生器などからなり,信号発生器で生成した任意波形をオーディオスピーカーで音波に変え,その圧力変動を利用して気泡の発生を制御するものである.導管が音響管になっているため,既存の水槽内へ容易に組み込むことが可能である.また制御のポイントとして,ノズル部からの反射波をスピーカー駆動により能動的に消し,2次気泡の発生を抑制することが挙げられる.本手法によって発生させた気泡の一例を図4に示す.この場合の撮影速度は7813fpsであるため,フレーム間隔は約0.13msecである.図に示す様に,気泡は生成後,ラプラス圧の減少に伴って急激に成長していることがわかる.その後,導管内の圧力が下がるため気泡径が減少し,その後離脱する.この際の離脱気泡半径は0.28mmであり,このオリフィスから生成されるFritz径よりも数分の1の気泡が生成可能となった.特に,本手法を用いれば気泡列の発生は非常に容易であり,共鳴させることにより,一定の周波数で気泡を生成できる.発生制御メカニズムの詳細は,文献(6)を参照されたい.
3. 光ファイバープローブによる計測
次に,サブミリスケールの気泡計測について述べる.我々の研究室では,サブミリスケール気泡(気泡径0.05~0.3mm,平均0.15mm程度)を利用して,新しい気泡塔の開発(7)を行っているが,このような気泡塔では図5に示すように,気泡数密度が非常に高く,光は通らない.そのため,光学的な手法(カメラによる可視化法,PDAなど)で気泡計測するのは非常に困難である.そこで,接触式の光ファイバープローブの開発を行っているので,その紹介を行う.
図5 サブミリスケール気泡が混在した矩形気泡塔の様子
光ファイバープローブ法による計測の原理を図6に示す.光ファイバープローブ法では,光ファイバー内を伝播する光源からの光が,気泡検出用の端面でどの程度反射されてくるか,その量を検出する方法である.検出用の端面が液相中にあれば,光ファイバーと液相との屈折率が非常に近いため光の大部分は液相中に放射され,逆に気相中であれば,検出端面でその多くの光が反射して,戻り光量は増大する.この光のon-off信号を電気へと変換して検出する.on-off信号を検出するため,気泡の速度情報を得るためには,基本的に2本以上のプローブが必要となる.しかしサブミリスケールの気泡計測のためには,空間的に1本のプローブで計測する必要がある.従来から,1本の光ファイバープローブを用いての気泡径および速度の計測法(8)(9)が提案されている.我々の研究室でも単一の光ファイバープローブでの計測手法の開発(10)(11),実用化(12)まで行っているが,ここではさらに最新型の高精度な単一光ファイバープローブの紹介をしたい.
図6 光ファイバープローブ法による計測の原理
近年の極短パルスレーザーの進化により,多光子吸収を利用して透明物質内部への非熱的加工が可能となってきている.我々はその技術を利用し,単一光ファイバープローブの先端部を微細加工することで,サブミリスケールの気泡計測法を開発している(13)(14)(15).その概念図を図7に示す.先端を1μm以下まで引き伸ばした光ファイバーに,さらに図のようにファイバー先端から,ある距離LGの位置に加工を行う.そうすると,その加工点から液相中への光の放射が生じるため,気泡が光ファイバーを通過する際に得られる信号が二段階となる.この信号の時間差(t2-t1)とプローブ先端から加工点までの距離LGを利用すれば,気泡上昇速度を得ることができる.またこの速度を利用すれば,同時に通過弦長も測定可能である.この手法を用いることで,従来測定が困難であったサブミリスケールの気泡の計測が可能となった.さらに最近,この計測手法を応用して高速で飛翔する液滴計測も試みている(16).
最後に,このような光ファイバーを用いてサブミリスケールの気泡を計測する際には,表面張力が重要となる.気泡検出部が気液界面に接触してから,気泡検出部を濡らすまでの時間は,その表面張力によって異なるためである.我々は,その表面張力依存性を逆に利用して,液体の表面張力を測定するプローブの開発も行っている(17).詳細は文献(18)を参照されたい.
図7 フェムト秒レーザーにより加工した光ファイバープローブ
4. おわりに
サブミリスケールの気泡の発生制御手法と計測手法について述べた.このスケールの気泡は,その形状が球形となるために,現象が簡単になるようなイメージがあるが,粘性や表面張力の影響が大きくなる.そのため,そこに含まれる物理は非常に複雑となる.今後,様々な現象を高精度に計測することにより,より高効率な機器の開発を目指していこうと考えている.
最後に,本記事を書くにあたって,静岡大学教授齋藤隆之先生,修士学生小澤佑輔君,学部学生樋口正守君,松田桂輔君から多くのデータを頂いた.また産業技術総合研究所の城田農博士には貴重なコメントを頂いた.ここに記して謝意を示す.
文 献