流れ 2008年4月号 目次
― 特集: 次世代二相流研究 ―
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マイクロチャネル積層型熱交換器における熱交換特性と微細管内の気液二相流動現象
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1.はじめに
現在,燃料電池やCO2冷媒ヒートポンプなどに代表される小型エネルギー機器において高効率を達成するために,熱交換器の性能向上が求められている.しかし,従来型の熱交換器は高効率を達成するために大型となり,これに伴いシステム全体のスケールも大型化するのが現状である.更にシステムの小型化を行うためには小型かつ高効率な熱交換器の研究・開発が求められている.これを受けて,本研究では熱交換器の小型化・高効率化を達成するために微細な流路を多数有する高耐圧マイクロチャンネル積層型熱交換器を製作している[1][2].本デバイスは拡散接合を用いることで高耐圧となり,高流速条件下においての使用を可能にしている.
本研究の目的はマイクロチャンネル積層型熱交換器の熱交換性能を調べるとともに,チャンネル内における伝熱流動特性を詳細に調べることである.これまでの報告[3]では,空気や水単相流における評価を進めており,既存の熱交換器に比べ,単位体積あたり100倍以上という高い熱交換量を示した.実際の熱交換器の使用用途を考えた場合,相変化を沸騰や凝縮に関する熱交換特性の理解は必要不可欠である.そこで,本研究では試験流体として蒸気と水を用い,蒸気の凝縮に関する熱交換特性を評価する.また,熱交換器の最適化のためには微細流路における伝熱流動特性の把握が必要不可欠である.しかしながら従来の研究において単相流や沸騰に関しては多くの研究報告があるものの,凝縮[4]に関してはほとんど無いのが現状である.そこで,デバイス内の一つの流路を模擬した微細単管内における凝縮現象を可視化観測した.これより凝縮熱量の定量評価を行い,本研究で示す熱交換器との比較を行なう.
2.高耐圧マイクロチャネル積層型熱交換器
デバイスの製作には拡散接合を用いた.拡散接合とは接合面を加圧・加熱し原子の拡散を利用して接合する方法である.これにより原理的には接合部が母材と同等の強度を持つことになり,高流速条件下および相変化を伴うような高強度が求められる条件下においても使用可能となる.
(a) Configuration of layered microchannels.
(b) Cross-section view of the device.
Fig. 1 Schematic diagram of the test device.
Fig. 1に流路構造の概念図と,実際のデバイスを斜めに切断したときの断面図を示す.流路構造は図のように,加熱流路層と冷却流路層が交互に積層された一体型積層構造となっている.これまでに耐圧を実験的に評価するため15 MPaまで昇圧し,変形や漏れがないことを確認している.今回用いたテストデバイスの材質はSUS304であり,流路断面250×250 mm,流路長22 mmのマイクロチャネルが1層あたり38本,合計40層積層されている.
3.マイクロチャネル積層型熱交換器の熱交換特性
3.1 実験装置および実験方法
Fig. 2 Schematic of experimental apparatus for microchannel heat exchanger.
Fig. 2に実験装置の概略図を示す.熱交換器の出入口において温度および圧力の計測を行っている.蒸気は圧力調整を行った上でボイラーからデバイスに流入する.入口条件は圧力110~115 kPa,温度100 ℃のほぼ大気圧条件とした.蒸気出口においては凝縮量を計測するとともに,出口温度と目視により全量凝縮もしくは蒸気出口温度が100 ℃に達した水-蒸気二相流突出のいずれかを判断した.蒸気流量は全量凝縮時の凝縮量を用いた.冷却側は冷却媒体として約25 ℃の水を用い,冷却水流量を変化させた場合の熱交換量を調べた.熱量を冷却側の温度上昇により算出するため,冷却水出口において沸騰なしの条件で実験を行っている.
3.2 熱交換器の伝熱特性
本実験条件において,蒸気出入り口圧力差を計測した結果,圧力差はいずれの条件においても20 kPa以下となった.これより,本デバイスでは,個々のチャネル断面積が極めて小さいにも関わらず比較的小さな圧力損失により動作することが確認された.
Fig. 3 Quantity of heat exchange.
冷却水流量を変化させた際の熱交換量の変化をFig. 3に示す.横軸は冷却水流量,縦軸は熱交換量である.熱交換量は冷却水の温度上昇から算出した値を用いている.また,蒸気圧力110および115 kPaの条件についてプロットしている.蒸気流量は各々約2.8 g/sと3.6 g/sであった.
蒸気圧力が110 kPaの場合,冷却水流量が1.5 L/min以下の条件では,蒸気出口温度は100 ℃に達し水-蒸気二相流突出となった.これ以上の流量条件では出口温度は100 ℃未満となり,全量凝縮であることを確認した.一方,蒸気圧力115 kPaでは冷却水流量が3.0 L/minにおいて全量凝縮となり,これ以下では二相流突出となった.二相流の条件では冷却水流量の上昇に伴い熱交換量も上昇することが確認できる.また,蒸気圧力110 kPaにおいては全量凝縮領域となってからはほぼ一定値を示した.これは全量凝縮域に達することで入口圧力や流路長によって流入する蒸気量が決定され凝縮熱量,冷却水受熱量も一定値となったためと考えられる.
本デバイスの熱交換量としては,蒸気圧力110 kPaにおいて冷却水受熱量換算で約5 kW,115 kPaで7 kWとなっており,質量230 gとコンパクトな熱交換器としてきわめて高い値を示した.すなわち,流路長22 mmであるにもかかわらず一定条件下において全量凝縮が可能であり,蒸気流量増加に対しても冷却水流量の増加によって大幅な熱交換量の向上が可能であることが確認された.
本デバイスを実機において有効に活用するため,最適設計が必要不可欠となる.そのため,チャネルの一流路をガラス単管で模擬し,微細管内における凝縮現象について詳細に調べた.
4.微細管内の凝縮現象
4.1 実験装置及び実験方法
Fig. 4 Schematic of experimental apparatus for condensation behavior.
Fig. 4に実験装置の概略図を示す.装置は主にボイラー,テスト部,顕微鏡レンズを付けたハイスピードビデオカメラおよび光源から構成される.蒸気はボイラーから複数のドレインを介して圧力を調整しテスト部に流入する.各分岐点では温度と圧力を計測し,テスト部流入直前では最大で数十kPa程度になるように調整している.テスト部は一辺が40 mmのアクリル製サブクール水槽中に内径240 mm,外径400 mm,全長100 mmのガラス管を挿入したものである.ガラス管内部は側面からハイスピードビデオカメラで撮影できる.ガラス管内に流入した蒸気の温度がサブクール水中に達する前に下がるのを抑えるため,フィッティング部分には断熱材を施してある.ガラス管下流は大気開放であり,圧損は入口圧力と大気圧の差で計測している.現状では蒸気の脱気を行っていないので大気圧で飽和している不凝縮性ガスが混入していると考えられる.実験条件は蒸気入口圧力105~135 kPa,水槽内温度30~60℃とした.
4.2 凝縮現象と伝熱特性
Fig. 5 Typical condensation flow pattern along the microtube.
Fig. 5に撮影したガラス管全体画像と特徴的な現象が観測された局所画像を示す.この時,周囲流体の温度は33±1 ℃,蒸気入口圧力は114±2 kPaであった.流路全体の画像について,図中左より蒸気が流入し,サブクール水中で凝縮していく過程が確認できる.この時の微細管に沿った位置A,B,C,Dの画像をFig.5に合わせて示す.Aのように,蒸気流入直後から壁面において凝縮が生じ環状流を形成する.下流B部において蒸気の環状流の先端が分裂し,微小気泡として流下する.C,Dと下流に行くに従って,流れがスラグ流から気泡流へと遷移していく様子が確認された.
Aでの環状流がB,Cのスラグ流や気泡流へと遷移する際,環状流部分でくびれた波が下流に伝播していく様子が確認された.環状流先端の分裂直後のCでは,生成した気泡の凝縮による急激な体積減少により蒸気泡の合体や変形が観測された.これは環状流先端の分裂が間欠的に起こるため,また凝縮による急な体積変化による局所的な圧力変動のためであると考えられる.Cのではある瞬間に生じた気泡が,下流の気泡と接触し,凝縮により急激に体積を減少させながら合体する様子を示したものであり,このような複雑な現象が頻繁に観察された.その後,さらに下流ではDのように管径よりも小さな気泡となる.体積変化が小さいことからボイラーに用いた水に溶存していた不凝縮性ガスが残ったものと考えられる.
Dから下流の気泡流の領域を詳細に観察すると,気泡径はほとんど減少せずに流下する様子が確認された.これより気泡流では凝縮がほぼ終わっていると考えられる.そこで微細間入り口からCまでの環状流の領域において凝縮が完了するものと仮定し,流入条件と環状流の長さの相関を調べた.
Fig. 6 Relation between input vapor pressure and the length of annular flow.
Fig. 6に冷却水温度を変化させた場合の蒸気入口圧力と環状流長さの相関を示す.ここで横軸の蒸気入口圧力は蒸気流量に相当すると考えられたい.いずれの冷却水温度においても,蒸気入口圧力が高くなるにつれて環状流長さは長くなることがわかる.また,冷却水温度が高くなるほど同じ入口圧力に対する環状流長さは長くなり,凝縮に要する領域が長くなることが確認できる.本実験条件において環状流長さは最大で10 mm程度となった.これより,本熱交換器の流路長22 mmで全量凝縮が可能であることが予想できる.
Fig. 7 Comparison of heat exchange
ガラス管出口において計測した凝縮量より
(1)
を用いて単管あたりの凝縮熱量Qを算出した.ここでDhは凝縮潜熱2.255 MJ/kgを,Wは凝縮量を示す.さらに先に記したマクロチャネル積層型熱交換器内のチャネル本数を乗じて,単管から見積もった熱交換器の凝縮熱量と実験よりもとめた凝縮熱量をFig. 7に示す.ここで,単管における冷却水温は38.7~40.0 ℃,熱交換器では25.0 ℃となっている.単管より見積もった凝縮熱量は凝縮量に比例して増加し,本条件において約5 kWという高い値を示した.これは実験よりもとめた熱交換器の値と同オーダーとなっており,熱交換器の個々のチャネルにおいて,単管と同様の流動形態の変化が生じているものと予想される.また,流入条件と環状流長さの関係より,デバイスの最適化への指針が示されるものと期待される.
5 .おわりに
高耐圧マイクロチャンネル積層型熱交換器の性能評価を行い,微細管内の凝縮現象の可視観測・定量評価を行った.
- 熱交換器の性能評価では230 gと小さな熱交換器でありながら数千Wの熱交換が可能であり,高い伝熱性能を有すことが確認された.
- 微細管内の凝縮流動遷移は環状流,スラグ流,気泡流へと管に沿って遷移する様子が観測された.
- 環状流の長さは蒸気の入口圧力,周囲水温に比例して長くなることが示された.
- 熱交換器の性能評価結果と凝縮熱量を比較するとほぼ同じオーダーとなることから,実際のデバイスにおいても同様の流動状態,伝熱特性となっていると考えられる.
以上より,本研究で製作したマイクロチャンネル熱交換器がシステムの小型化を可能とする小型かつ高性能な熱交換器であると期待される.
参考文献
[1] | 阿部豊,(株)WELCON,「一体型積層構造熱交換器」特許(特開 2005-282951) |
[2] | 阿部豊,(株)WELCON,「超臨界冷媒用マイクロチャンネル一体型積層構造熱交換器」特許(特願 2006-168648) |
[3] | 阿部,竹内,“高耐圧マイクロチャンネル積層型熱交換器の伝熱特性評価”, 11th動力エネルギー技術シンポジウム講演論文集, pp. 275-276, 2006 |
[4] | Ping Cheng, Hui-Ying Wu, Fang-Jun Hong, “Phase-Change Heat Transfer in Microsystems,” J. Heat Transfer, Vol. 129, pp. 101-107, 2007 |
[5] | http://www.welcon.co.jp/ |