流れ 2024年11月号 目次
― 特集テーマ:2024年度年次大会 ―
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レイノルズ応力輸送方程式のモデルについて(生成AIの活用)
小尾 晋之介 |
英文概要
Modeling of the Reynolds stress transport equation – use of generative AI
The Reynolds-Averaged Navier-Stokes (RANS) framework has long been the standard tool for engineering computational fluid dynamics (CFD). Most RANS turbulence models rely on the eddy viscosity concept, which omits various physical phenomena inherent to the original Reynolds stress transport equations. Directly modeling the transport equation has been a significant topic within the turbulent flow research community and warrants increased attention, even though complex problems can often be addressed by Large Eddy Simulation (LES) or other advanced CFD techniques. This article presents the author's personal perspective on the future direction of transport equation modeling, diverging from the traditional approach that has focused on the pressure-strain rate tensor for decades. Particular attention is paid to the correlation between the instantaneous pressure gradient and velocity, which directly represents the interaction of vortices, an essential process in turbulent fluid motion. Furthermore, the author emphasizes the need for innovative approaches that incorporate a more comprehensive understanding of turbulent structures and their dynamic interactions, suggesting that advancements in computational power and data-driven methodologies will play a crucial role in the evolution of turbulence modeling. This extended view aims to inspire new research avenues that could lead to more accurate and reliable predictive models in engineering applications.
Key Words : Reynolds stress, Transport equations, Velocity-pressure correlations
はじめに
年次大会では基調講演の講演者としてお招きいただきました。後日、講演の内容そのものよりも、原稿執筆とプレゼンテーションの資料準備に生成AIを活用した顛末のほうが、聴衆のご関心を集めたとの話を耳にしたので、ここではそのことについてご披露しようと思います。
基調講演では原稿の用意は必ずしも必要ないとのお話でしたが、自分自身の考えを整理する意味で、以下にご紹介する、簡単なまとめを作ることにしました。原稿のテンプレートに従って、タイトルと著者名、続いて英文アブストラクトを書いたのですが、指定の長さに足りなかったので、ChatGPT3.5に英文のブラシュアップと合わせて文章の増量の依頼をしました。枠内にプロンプトと元の文章を示します。その結果の出力がこの原稿の英文アブストラクトで、生成AIによって割り増しされた部分がイタリックのフォントにした最後の2つの文章です。
興味深いのは、書き足された部分には私がもともと書いた文章では全く触れていない「data-driven methodologies」といった言葉が使われていることで、ここが生成AIの特徴と言えるのだと思います。つまり、元の文章で頻出する単語やフレーズを膨大なデータと照らし合わせて、世の中の相場観(ネット上の)から「だいたいこんな感じ」のもっともらしい話を作るのです。
ChatGPTには、自分がカバーしきれていない、レイノルズ応力方程式モデルに関する最近の動向がもしかしたら補強されるかも、という虫のいい期待を寄せたのですが、その結果からは、現在のモデル開発の動向がそれとは異なる方向に進んでいる(らしい)ということが示されました。それはそれで現実的ともいえますが、古典的なRANSの枠組みでの乱流モデルの開発が最近は滞っていることをも意味します。著者の力不足への反省も込めて、以下に示す「概要」には漠然と考えるモデル構築のリバイバルの方向をまとめました。ご批判頂ければ幸いです。
Could you extend the following paragraph by about 20 percent?
The Reynolds-Averaged Navier-Stokes (RANS) framework has long been the standard tool for engineering computational fluid dynamics (CFD). Most RANS turbulence models rely on the eddy viscosity concept, which omits various physical phenomena inherent to the original Reynolds stress transport equations. Directly modeling the transport equation has been a significant topic within the turbulent flow research community and warrants increased attention, even though complex problems can often be addressed by Large Eddy Simulation (LES) or other advanced CFD techniques. This article presents the author's personal perspective on the future direction of transport equation modeling, diverging from the traditional approach that has focused on the pressure-strain rate tensor for decades. Of particular attention is paid to the correlation between the instantaneous pressure gradient and the velocity, which directly represents the interaction of vortices, i.e. the essential process to turbulent fluid motion.
概要
乱流モデルは、レイノルズ平均を施した流れの運動方程式に現れるレイノルズ応力を近似的に表す手法で、1980年代には有限体積法の商用計算コード(1)に組み入れられたことから、工学的な応用分野での普及が始まった。当時は1968年と1980年の2度の「スタンフォード会議」を経て乱流の数値解析手法への関心が世界の研究者の間で高まっていて、国内でも乱流研究をまとめたモノグラフ(2)にモデル発達の解説が取り上げられた。
レイノルズ平均の枠組み(RANS)では、レイノルズ応力の高精度な予測が最大の関心事である。レイノルズ応力の輸送方程式モデル(RSM)は、NS方程式から導出された厳密な輸送方程式が内包する素過程を、可能な限り忠実に再現することを試みるものである。非圧縮のNS方程式は、自由表面や浮力の影響などが無視できるならば、運動量の実質微分が圧力勾配と粘性応力の作用のみで決まるが、そこから導出されたレイノルズ応力の輸送方程式にはレイノルズ応力の生成、散逸、拡散輸送、成分間の再配分、といった作用が現れる。これらの中で特に議論の中心となったのは成分間の再配分を表すと解釈される、瞬時の圧力―ひずみ速度テンソル相関であり、圧力場に関する解析的なアプローチ(3)や現象論的なモデル(4)を経て、標準的なモデル方程式(5)が提案された。
RSMでは生成項と粘性拡散項を除いてモデル近似が必要とされる。生成項にモデルが不要な点は渦粘性モデルとの対比で強調されるRSMの特長の一つではあるが、それよりも、非等方な応力場が再現できる点が最重要であり、その点で、成分間のエネルギー交換がモデル開発のなかでも重要事項であった(5)。さらに壁面近傍の非等方性の表現に際しては大気乱流境界層の扱い(6)を基本とする定式(7)が、標準的モデルとされた。その後、壁面の影響については付加方程式を解く手法(8)が提案され一定の発達を遂げている(9)。
工学的な応用において、乱流モデルの性能は予測精度だけでなく普遍性や経済性とのバランスが求められるが、RSMは数値解析上の取り扱いが困難であり、その点で渦粘性モデルと比べて普及が遅れた。また、それだけでなく、モデルそのものの検証も十分に行われていたとは言い難いところがある。実際、バックステップ流れなどで異常な振る舞いが報告されている(10)。いずれにしても、RSMは開発された当時の高い期待に反して普及が遅れたどころか、計算機性能の普及によってLESやDESといった手法にとってかわられることになった。近年の傾向の一つとして、LESの精度向上のための議論の中でレイノルズ応力輸送方程式をベースとした議論(11)がなされるケースがあるが、RSMそのものを解く試みは数の上ではごくわずかと言える。
もしも、今後RSMの再検討をするとしたら、1970年代までの実験計測に基づいたモデルとは異なるアプローチを取り入れるべきだろう。特に、変動圧力―速度の相関については、古典的な圧力―ひずみ速度相関によるReturn-to-isotropyの考え方から離れることも検討の余地がある。標準モデルの開発当時、壁面近傍における変動量の高次モーメント等の情報は計測の困難さ故入手不可能であったが、今日ではDNSによって壁面への漸近挙動などが明らかになっている。それによれば、本来はNS方程式には圧力は勾配として現れるところ、RSMでは圧力勾配と変動速度の相関を(圧力とひずみ速度の相関)+(圧力と速度の相関の勾配)に分離した。前者は前述のとおりRSM開発の重要事項であったが後者は圧力拡散として乱流拡散項のモデル(12)(13)とひとまとめにされてきた(14)。これら二つの項は壁面の近傍でほぼ同じ絶対値で互いに正負の符号を持つので、本来の形式のままであればほとんど無視できる程度の寄与しかないところ(15)、分離したための両者をモデルする必要が生じている。この問題は放置された状態にあるが、DNSの結果から、速度と圧力勾配の相関が持つ物理的な役割を調査することが新しいモデル開発における要諦のひとつと考えられる。
文献
おわりに
さて、講演会の発表ではパワーポイントのスライドを用意しました。使用したスライドのひな型は、上の文章ファイル(タイトル、英文アブストラクト、本文、文献リストを含んだワードのファイル)をまるごとChatGPT3.5のプロンプトにアップロードして、スライド10枚ほどにまとめるよう注文したものです。その結果、図のようなテキストが出力されました。実際はこれを和訳してパワーポイントのデザイナー機能で化粧を施したスライドを用いましたが、おおむね段落に対応するスライドごとに適切なタイトルがつけられていて、発表準備の手助けになりました。モデルの開発に役立つかどうかは別として、生成AIは文書のまとめなどで大いに活用できると実感した次第です。
末筆ながら、この度の年次大会における基調講演と、ニュースレターへの投稿の機会をご用意くださった、部門委員会の皆様に改めて感謝申し上げます。