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流れ 2024年11月号 目次

― 特集テーマ:2024年度年次大会 ―

  1. 巻頭言
    (森,金川)
  2. レイノルズ応力輸送方程式のモデルについて
    小尾 晋之介 (慶應義塾大学)
  3. 原理原則を大切にしよう:流れの数値シミュレーションと乱流解析
    森西 洋平 (名古屋工業大学)
  4. ドローン用高推力化ガイドの性能評価
    加瀬 篤志 (富山大学)
  5. 風車研究における流れ計測
    鎌田 泰成 (三重大学)
  6. 小型遠心ポンプのPIV計測
    重光 亨 (徳島大学)

 

小型遠心ポンプのPIV計測

重光 亨
徳島大学

1 緒言

 ポンプは産業分野で広く利用されており,近年では燃料電池,医療機器,スパコンなどにも適用されている.医療機器に関係する小型のポンプについては,補助人工心臓ポンプの内部流動状態[1]やインペラ径24mmのシャフトレス両吸込小型ポンプのキャビテーション流れ[2],インペラ径40mmの心肺補助システム用の2段遠心血液ポンプの開発[3],[4]など多くの研究開発が実施されている.一方,PIV計測を活用し,直径100mmの小型遠心ポンプの部分流量における舌部付近の羽根間で発生する循環流れ[5]や直径150mmの遠心ポンプの舌部付近における渦構造が明らかにされている[6]

 補助人工心臓ポンプやサーバー用冷却ポンプの直径は 100mm 未満と非常に小型であるため,従来の設計基準や理論が適用できない場合があり,詳細な内部流れに関する実験データに基づくポンプ設計は重要である.そこで,本研究では,直径55mmの羽根車を有する小型遠心ポンプを対象に,PIV計測により舌部付近の羽根間内部流れの調査を行ってきた.本報では,羽根出口角の異なる小型遠心ポンプの部分流量,設計流量,過大流量におけるPIV計測結果を紹介する.

2 設計仕様とポンプ性能評価法

 羽根車の設計諸元をTable1に示す.電子機器冷却ポンプを想定し,出口角22.5°の羽根車(22.5 model)のポンプ設計値は,揚程Hd=2.0m,流量 Qd=16.7l/min,回転速度 Nd=2230min-1である.小型遠心ポンプでは,揚程を確保するために出口角を増加させることがある.そこで,本研究では,その一例として,出口角60°の羽根車(60 model)も用意した.Fig.1に羽根車の概略図を示す.22.5 model,60 modelともオープン羽根車,内径はD1=27mm,外径はD2=55mm,羽根高さb=4.2mmと同一であり,出口角のみ異なるが,22.5 modelについては円弧羽根,60 modelは直線羽根となっている.ボリュートの周方向形状は長方形であり,舌部すき間は1.5mmである.

Geometry

22.5 model

60 model

Inlet diameter at hub D1h [mm]

27

27

Inlet diameter at tip D1t [mm]

27

27

Outlet diameter D2 [mm]

55

55

Inlet width b1 [mm]

4.2

4.2

Outlet width b2 [mm]

4.2

4.2

Blade number Z [-]

6

6

Blade thickness s [mm]

2

2

Blade inlet angle β1 [°]

15

15

Blade outlet angle β2 [°]

22.5

60


Fig.1 Test impeller

 PIV試験装置以外に,性能試験用の実験装置を準備し,ポンプ入口と出口との差圧と断面平均流速より算出した動圧差をもとに揚程を評価し,トルクメータにより軸動力,電磁流量計により流量を計測した.軸動力は,羽根なしの円板により空転トルクを計測し,機械損失を除去した形で軸動力を評価し,水動力と軸動力の比により効率を算出した.

3 PIV計測

 本研究では,直径55mmの二次元オープン羽根車を使用し,PIV計測により舌部付近の内部流れを調査した.羽根車は性能試験と同じく出口角の異なる2種類の羽根車(22.5 modelの試験部の写真をFig.2に示す.)を使用し,部分流量0.8Qd,設計流量1.0Qd, 過大流量1.4Qdの舌部付近の内部流れを計測した.Fig.3にPIV計測装置の概略図と写真を示す.PIV計測には,LaVisionのFlowMaster Stereo-PIVを使用し,PIV計測の試験部は,羽根車も含めアクリル樹脂で作製している(Fig.2参照).光源には,出力135mJのダブルパルスYAGレーザーLaVision DPIV-L125を使用し,ダブルパルスの時間刻みは,測定速度の範囲を考慮して,5µs(0.2MHz)に設定した.羽根車からのトリガー信号は,フォトインタラプタにより検出し,PTU(プログラマブルタイミングユニット)に入力することで,位相固定された平均データを計測した.Fig.4のようにトレーサ粒子が試験部に均一に拡散した条件下で計測を実施し,測定断面は,羽根高さ中央の軸方向断面b/B=0.5とした.トレーサ粒子には,輝度と水への追従性を考慮し,粒径15µmの蛍光粒子EBM FLUOSTARを使用し,カメラには,ロングパスフィルターを取り付け,蛍光粒子の散乱光のみを取得し,エラーベクトル発生の抑制に努めた.解像度2048×2048ピクセルのCCDカメラ2台を使用し,PIV計測ソフトウェアDaVis(Lavision)で速度ベクトルと渦度コンターを算出した.


Fig.2 Test section for PIV


Fig.3 Schematic diagram and picture of PIV measurement instrument


Fig.4 Captured picture

4 小型遠心ポンプの舌部付近内部流れのPIV計測結果

 Fig.5に性能試験装置により得られた22.5 modelと60 modelの性能特性を示す.性能試験では,締切流量から過大流量1.4Qdまでの広い流量範囲における揚程H,軸動力L,効率ηを調査した.60 modelは出口角60°と22.5 modelよりも大きいため,過大流量でも高揚程が維持され,揚程の負の勾配が緩やかである.そのため,出口角の大きな60 modelは過大流量での効率低下が小さく,過大流量でのポンプ運転が可能となる.


Fig.5 Performance curves of test mini centrifugal pump

 部分流量0.8Qd,設計流量1.0Qd,過大流量1.4Qdでの速度コンターに速度ベクトルを重ねた図をFig.6に示す.速度ベクトルは方向のみを示し,ベクトルの長さは同じであり,速度コンターにより速度の大きさを表現した.羽根車などの回転領域は相対速度,ボリュートなどの静止領域は絶対速度を示す.Fig.6の22.5 modelの羽根間の相対速度ベクトルより, 流れは圧力面および負圧面に沿って流入,流出していることが確認できる.また,舌部付近に着目すると,部分流量0.8Qdでは,舌部に衝突した一部の流れがボリュート内に再循環しており,過大流量1.4Qdでは,舌部付近の流れが喉部に吐き出されていることがわかる.一方,60 modelについては,出口角が60°と大きいため,羽根間の流れは圧力面および負圧面に沿っていない.部分流量,過大流量における舌部付近の流れ場は,22.5 modelと類似しているが,羽根車出口付近の相対流れは大きく減少し(流体の周方向速度は増加し),羽根車出口付近の絶対速度は,周方向速度の増加の影響により増加しており,Fig.5の性能曲線において,60 modelの揚程が22.5 modelよりも大きいことと一致していることがわかる.


Fig.6 Velocity vectors overlapped with the velocity contours

 次に,Fig.7に22.5 modelおよび60 modelの無次元渦度分布を示す.22.5 modelの結果より,部分流量0.8Qdでは,Fig.6で確認された舌部での再循環流れの影響により舌部のボリュート巻き始め側において,時計回りの渦度が確認できる.一方,過大流量1.4Qdでは,舌部の喉部側において,反時計周りの渦が広範囲に発生しており,舌部から吐出し口側に発生する流れの影響が表れている.60 modelについても,同様に流量の変化に伴い舌部の渦の発生状況が変化するが,60 modelについては,羽根出口角が大きいため羽根後縁からの時計回りの渦が,舌部付近の渦度分布にも影響し,舌部と流れとの干渉も大きいことがわかる.


Fig.7 Non-dimensional vorticity distribution

5 結言

 筆者は実用化が進んでいる小型遠心ポンプの内部流れをPIV計測により調査してきた.部分流量から過大流量までの内部流れの調査を行い,羽根車の出口角の違いが羽根間や舌部付近の流れに及ぼす影響を明らかにした.今後は,円板摩擦損失に関する基礎データを取得するための主板裏クリアランスのPIV計測や小型ポンプのスケール効果が内部流れに及ぼす影響などについても調査を行っていきたいと考えている.

 最後に,2024年度の日本機械学会年次大会において,小型遠心ポンプのPIV計測に関する発表を実施させて頂き,ニュースレターにおいても,その概要を報告させて頂きました.このような機会を与えて頂きましたことに,関係者各位に深くお礼申し上げます.

6 文献

[1] Shao, J., Liu, S., Yuan, H. and Wu, Y., 2008, “Numerical Simulation and PIV Measurement on the Internal Flow in a Centrifugal Mini Pump”, Proc. Int. Conf. ASME Fluids Engineering Division Summer Meeting, Jacksonville, Florida USA, FEDSM2008-55025.
[2] Zhuang, B., Luo, X., Zhu, L., Wang, X. and Xu, H., 2011, “Cavitation in a Shaft-less Double Suction Centrifugal Miniature Pump”, Int. J. Fluid Machinery and Systems, Vol.4, pp.191-198.
[3] Horiguchi, H., Tsukiya, T., Nomoto, T., Takemika, T. and Tsujimoto, Y., 2014, “Study on the Development of Two-Stage Centrifugal Blood Pump for Cardiopulmonary Support System”, Int. J. Fluid Machinery and Systems, Vol.7, pp.142-150.
[4] Horiguchi, H., Tsukiya, T., Takemika, T., Nomoto, T. and Tsujimoto, T., 2015, “Improvement of Two-Stage Centrifugal Blood Pump for Cardiopulmonary Support System and Evaluation of Anti-Hemolysis Performance”, Int. J. Fluid Machinery and Systems, Vol. 8, pp.1-12.
[5] Wu, Y., Yuan, H., Shao, J. and Liu, S., 2009, “Experimental Study on Internal Flow of a Mini Centrifugal Pump by PIV Measurement”, Int. J. Fluid Machinery and Systems, Vol.2, pp.121-126.
[6] Keller, J., Blanco, E., Barrio, R. and Parrondo, J., 2014, “PIV measurements of the unsteady flow structures in a volute centrifugal pump at a high flow rate”, Experiments of Fluids, Vol.55, 1820.
更新日:2024.11.1