流れ 2025年3月号 目次
― 特集テーマ:流体工学部門講演会(その2) ―
| リンク一覧にもどる | |
光ファイバーを用いた液膜流の膜厚分布計測法の検討
![]() |
![]() |
中野 幸佑 静岡大学 |
水嶋 祐基 静岡大学 |
令和6年11月に開催された日本機械学会第102期流体工学部門講演会において,栄えある若手優秀講演フェロー賞を頂いた.この場をお借りし,選考委員会ならびに流体工学部門の関係各位に深く感謝申し上げる.本報では,講演発表内容を紹介する.
1. 緒言
液膜流は発電プラントや化学反応器,熱交換器などの幅広い工業機器で見られる重要な流動現象である.これらの機器の安全かつ効率的な運転を保証するためには,狭隘流路や高温・高圧環境といった過酷な環境下で形成される液膜流の厚さを詳細に把握することが重要である.特に,膜の両端が側壁による制約を受けない小川状(リブレット状)の液膜流れは工業上頻繁に発生するが,その測定事例は数少なく,十分な解析は行われていない.
そこで我々は,光ファイバープローブ(Optical-fiber-based Reflective Probe, ORP)をはじめとする独自の液膜厚さ計測法を開発している(1)(2)(3).ORPの特徴は,数百kHz以上の高い時間応答性や数十~百ミクロン程度の高い空間分解能,優れた耐環境性や観察窓の必要がない省スペース性などが挙げられる.特に,計測システムがシンプルであることから多点計測化が容易な点も同法の大きな強みと言える.我々はこれまでに,高速気流に伴われたリブレット状液膜流を計測対象に,単一ORPを用いた液膜厚さ計測の有効性について実験的,数値的に検証してきた(1)(2).
本研究ではORP計測を多点化し,高速気流に伴われたリブレット状液膜流の流れ方向膜厚分布計測を行った.気流速度・計測位置ごとに測定膜厚を整理し,単一計測点の測定結果から構築された従来の膜厚推定モデル式の適用性について考察した.
2. 実験概要
2・1 ORPの計測原理
図1にORPの膜厚計測原理を示す.流路壁面に固定した光ファイバー内にレーザー光を伝播させると,ファイバー端面からレーザー光が液中に向かって射出される.この射出光の一部は液膜界面で反射し,ファイバー内へ再入射して逆進する(Glare光).このとき,膜厚が薄い/厚いほどGlare光強度は大きく/小さくなる.この関係を事前に校正しておくことで,ORPの信号強度値から膜厚を算出することができる.ORPでは界面形状に高い感度を持つため,界面波を伴う実際の液膜流においては,液膜界面が局所的に平坦とみなせる波の極値点(山部および谷部)でピーク信号が現れる.このピーク値を抽出することで,校正データから膜厚を算出することができる(1).
Figure 1 Measurement principle of the Optical-fiber-based Reflective Probe.
2・2 実験装置および方法
図2に実験装置の概略図を示す.ブロワーから吐出された気流は,整流胴を通過後,アクリル製の矩形流路(幅50 mm × 高さ30 mm)へと流入する.供給タンクの水は,給水ポンプを通じて,流路幅中央に設けられた直径1 mmの3つの孔(2.5 mmピッチ)から流入する.測定部の流路底面にはステンレス板が設置されており,その幅中央にORP(コア径50 μm,クラッド径125 μm)が流れ方向に沿って50 mmピッチで3本固定されている.
本実験では,3本のORP(#1~#3)にて,気流のせん断力により形成させたリブレット状液膜流の多点膜厚計測を実施した.ORPからの応答信号は光電変換後にレコーダにて記録される.その後,同軸光源付きテレセントリックレンズ(MML037-HR220DVI-28F,Moritex)を取り付けた高速度カメラ(FASTCAM Mini AX200,Photron)にて,液膜流動を俯瞰撮影した.試験条件は,気流の見かけ速度jGを29 ~ 93 m/s,液体体積流量QLを45 mL/minに設定した.ORPのサンプリング周波数は100 kHz,高速度カメラの撮影速度は10,000 fpsとした.
Figure 2 Schematic of the experimental apparatus.
2・3 数理モデルを用いた膜厚推定式
本研究では,ORPで測定した膜厚の平均値を,従来の数理モデルによる膜厚推定値と比較する.液膜流をクエット流れと仮定し,気液界面でのせん断応力のつり合いを考えることで,液膜厚さδは次式で表される(4).
|
(1) |
μL, b, ρGはそれぞれ,水の粘性係数 [Pas],液膜幅 [m],空気の密度 [kg/m3]であり,いずれも実験時に得られるパラメータである.したがって,液膜厚さの予測には,界面摩擦係数fi [-]が唯一の未知のパラメータとなる.本研究では,表1に示す2種類の経験式をfi に適用する.1つ目は壁面摩擦モデルであり,fiが壁面摩擦係数fw [-]に等しいと仮定することで,平滑面におけるBlasiusの式およびNikuradseの式(式(2-a)および(2-b))をfiとして用いた.2つ目は実験的相関式であり,平板上の液膜流れの膜厚計測をもとに提案されたLengらの相関式(5)を用いた.
Table 1 Correlations of interfacial shear factor.
Type |
Correlation* |
Eq. |
Wall friction model |
(2-a) |
|
(2-b) |
||
Experimental correlation (5) |
(3) |
* Reynolds numbers of air and water film are defined as ReG= jG de/νG and ReL= QL/(bνL), respectively. Here, de, νG, νL are hydraulic diameter [m], kinematic viscosity of air [m2/s], and kinematic viscosity of water [m2/s], respectively.
3. 実験結果および考察
図3(a)に代表的な気流速度jGにおけるORP信号の典型例を,図3(b)に液膜流動の拡大画像を示す.画像中の白い領域は液膜界面の平坦面,黒い領域は傾斜面と対応し,幅方向に連なりながら複雑な界面形状を形成する.同図(a)より,いずれの条件においても大小多数のピーク信号が現れており,様々な界面波による膜厚変動を捉えていることが分かる.また,jGの増加に伴い,ピーク頻度は増加傾向にあることから,液膜流が多数の微細な波立ち構造へと遷移する様子が信号から推測できる.この傾向は可視化結果とよく一致していることから,実装した全てのORPは薄膜界面の微小な膜厚変動に追従可能であると言える.
Figure 3 ORP signal characteristics, (a) Typical output signals of the ORP, (b) Enlarged images of the rivulet-like liquid film flow.
図4にORP信号のピーク値から算出した平均膜厚と従来の数理モデルによる膜厚推定値の比較を示す.両者とも,jGの増加に伴って平均膜厚が減少する点や,流れ方向に関して平均膜厚に大きな差異は無い傾向は一致している.一方で絶対値に着目すると,モデルと本計測値には差異が見られる.まず,壁面摩擦モデルではjGが増加するほど本計測値が過大評価となる.この結果は,jGの増加が液膜界面の微細な波立ちを促進することで,壁面摩擦と界面摩擦の乖離,すなわち界面スリップの寄与が増大することを示唆している.そのため,膜厚の正確な予測には,二相流の実験に基づき,適切な界面摩擦係数を決定することが望ましいと言える.次に,Lengらの実験(5)に基づく膜厚推定値に対しては本計測値が常に過大評価となる.これは,幅方向の膜厚分布が異なることが原因の一つと考える.先行実験では幅広いスリット(幅100 mm)から液体を供給し,側壁近傍まで液膜を形成させている一方,本実験装置では局所的に配置した給水孔を用いてリブレット状の液膜流を形成させている.そのため,本測定系では側壁の影響が抑制された結果,幅方向の膜厚分布の均一性が向上し,計測点である流路中央部では従来よりも相対的に厚い液膜が形成されたと推測される.以上より,普遍的な膜厚推定モデルの定式化には,幅方向の膜厚分布を考慮した界面摩擦係数の実験的相関式を作成する必要があることが示唆された.
Figure 4 Comparison of average film thickness evaluated by the ORP and the model equation.
4. 結言
本研究では,流れ方向に配置した3本のORPを用いて,高速気流に伴われた小川状(リブレット状)液膜流の多点膜厚計測を行った.ORPの応答信号を可視化画像と比較することで,実装した全てのORPが薄膜界面の微小な膜厚変動に追従できることを確認した.また,ORP信号から算出した平均膜厚を,従来の界面摩擦係数の相関式を用いた膜厚推定式と比較した.その結果,普遍的な平均膜厚の推定には,二相流の実験に基づき,幅方向の膜厚分布を考慮した界面摩擦係数の相関式を作成する必要があることが示唆された.