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流れ 2025年3月号 目次

― 特集テーマ:流体工学部門講演会(その2) ―

  1. 巻頭言
    (朴,松田,洪)
  2. 光ファイバーを用いた液膜流の膜厚分布計測法の検討

    中野 幸佑,水嶋 祐基(静岡大学)

  3. 粘弾性流体乱流のラグランジュ統計
    小井手 祐介(名古屋大学),後藤 晋(大阪大学)
  4. 電場印加型絞り流路を用いたセルロース・銀ナノ粒子複合繊維創製

    平 和佳菜, 金子 泰, 高奈 秀匡(東北大学)

  5. NACA0018翼型に基づくブレードの翼型面方向がV形垂直軸風車の出力特性に与える影響
    大井 翔生,馬場先 貴紀,櫻井 遼,河野 孝昭,木綿 隆弘,小松 信義(金沢大学)
  6. 移動壁面下に発達する乱流境界層における気泡群の運動と抵抗低減効果
    森 樹,堀本 康文,朴 炫珍,田坂 裕司,村井 祐一(北海道大学)

 

電場印加型絞り流路を用いたセルロース・銀ナノ粒子複合繊維創製

平 和佳菜
東北大学
金子 泰
東北大学
高奈 秀匡
東北大学

 第102期日本機械学会流体工学部門講演会において,栄誉ある優秀講演表彰を賜った.この場をお借りして,日本機械学会の皆様および選考委員会の皆様に心より御礼を申し上げる.また,講演内容について以下に紹介する.

 植物細胞の主成分であるセルロースは地球上に最も多く存在する炭水化物であり,かつ低環境負荷である点から再生可能な次世代の天然資源として注目されている.木材繊維に化学処理と機械解繊を行うことで得られるセルロースナノファイバー(Cellulose nanofibril: CNF)は,直径数nm,長さ数µmの高アスペクト比を有する繊維である.CNFは軽量,高強度,低熱膨張といった優れた特徴を備えており,自動車部材や電子デバイス,医療用材料などへの応用が期待されている.CNFを再合成することで創製されるセルロース単繊維(CNF繊維)の研究も精力的に行われている(1)(2).CNF本来の機械特性を最大限に活かしたCNF単繊維を創製するためには,CNFを単繊維の軸方向に沿って配向させることが必要不可欠である.先行研究では,伸長流動場と交流電場を用いることでCNFの回転配向を促進し,高強度繊維の創製に成功している(3)(4).CNFの生体適合性を活かした医療応用が進められているが,このためには,機能性として抗菌性を付与したCNF単繊維の創製手法を確立することが重要である.

 本研究では,伸長流動場と交流電場を利用したCNF単繊維創製法を用い,銀ナノ粒子を担持させた高強度セルロース複合繊維(Ag-CNF複合繊維)を創製することを目的とする.本稿では,本手法で創製した複合繊維の抗菌性について示すとともに,銀ナノ粒子の担持量や交流電場の印加が複合繊維の機械特性に与える影響を明らかにする.

2. 実験方法

 銀ナノ粒子担持CNF分散液(Ag-CNF分散液)は,濃度0.5 wt%のCNF分散液(レオクリスタI-2SX,第一工業製薬製)とTollen's試薬を混合し,80 ℃のウォーターバス(WBS-80M,アズワン製)で2時間反応させることで作製した.Tollen's試薬は濃度5 mmol/Lの硝酸銀水溶液に濃度1 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加え,生じた赤褐色沈殿を濃度1 mol/Lのアンモニア水溶液を数滴加えて溶解することで調製する.本研究では,CNF分散液とTollen’s試薬の混合比を4.7:0.3および4.5:0.5とした2種類のAg-CNF分散液を創製した.分散液の基礎特性として円筒型回転粘度計を用いた粘度特性の測定を行った.

 図1は繊維創製に用いた電場印加型絞り流路を示す.流路は矩形断面を有し,入口と出口の断面積比は3.0である.Ag-CNF分散液をシリンジポンプにより,体積流量180 ml/hで供給した.流路の表裏面には,幅2 mmの銅電極を8 mm間隔で5つ設置した.ファンクションジェネレータおよび高電圧アンプ(HAP-10B10,松定プレジジョン製)を用いて下流から偶数番目の電極(図1中赤色)に周波数5 kHz,振幅2.5 kVの交流電圧を印加し,奇数番目の電極を接地した.絞り部分で形成される伸長流動場と流路軸方向の電場により,CNFは流路軸方向に沿って配向する.流路出口は塩酸水溶液(濃度1 mol/L)で満たされた凝固槽に浸かっており,流出したAg-CNF分散液を連続的にゲル化させることで繊維を創製した.動画1は,ゲル化した繊維を凝固槽から巻き取っている様子を示している.24時間以上室温で乾燥させた繊維について引張試験を行い,創製繊維の機械特性を評価した.

 創製したAg-CNF複合繊維の抗菌性は,菌液吸収法により評価した.試験菌液として納豆菌粉末を30倍に希釈した納豆菌液を用いた.0.01 gのAg-CNF複合繊維に5 µLの納豆菌液を滴下後,恒温槽にて37 ℃で24時間培養した.次に,洗い出し液として5 mLの純水を加え,複合繊維から納豆菌液を洗い出した.最後に,洗い出し液中の生菌数を平板塗抹培養法により培養し,生成したコロニー数をカウントすることで抗菌性を評価した.なお,培地には寒天培地(SCDアガー,heipha製)を使用した.

Figure 1 Schematic illustration of experimental setup. Movie 1 Winding up of the fabricated composite filament.

3. 結果および考察

 図2にCNF分散液(Pure CNF)およびAg-CNF分散液の画像を示す.銀ナノ粒子を担持していないPure CNF分散液は無色透明であるが,Tollen’s試薬を混合しCNFと反応させると,分散液の色が変色した.そして,Tollen’s試薬の混合比を増やすと黄色から茶褐色に変化した.これは,水中に分散する銀ナノ粒子に起因しており,表面プラズモン共鳴(Surface plasmon resonance, SPR)による変化である(5).図には示していないが,分散液の紫外可視吸収分光からプラズモン共鳴によるピーク波長が確認され,創製した分散液中で銀ナノ粒子が生成されていることが明らかとなった.

Figure 2 Images of Ag-CNF dispersions for different mixing ratio of CNF and Tollen’s regent,
CNF:Tollen’s = (a) 5.0:0.0 (i.e., Pure CNF), (b) 4.7:0.3, and (c) 4.5:0.5.

 図3に示すAg-CNF分散液の粘度特性から,全ての条件において,せん断速度が大きくなるほど粘度が小さくなる,Shear-thinning特性がみられた.これは,分散液中に形成されたCNF間の相互作用による3次元の凝集構造の緩和やせん断流動方向にCNF繊維が配向することに起因する.また,銀ナノ粒子濃度の増加とともに粘度が低下するのは,高粘度のCNF分散液に対して低粘度のTollen’s試薬を混合したためである.

Figure 3 Shear-thinning behavior of Ag-CNF dispersion.

 

 次に創製した複合繊維の機械特性を示す.図4に無電場条件で創製したAg-CNF複合繊維の破断面におけるSEM画像を示す.繊維内部に200 nmから700 nm程度の銀ナノ粒子がほぼ一様に分散していることが分かる.なお,複合繊維の平均繊維径はいずれの条件でも約100 μmであった.

Figure 4 SEM images of cross-section of cellulose/silver composite filament fabricated under CNF:Tollen’s = 4.5:0.5.

 図5はAg-CNF複合繊維と納豆菌水溶液を培養した寒天培地の写真を銀ナノ粒子担持の有無に対してそれぞれ示す.銀ナノ粒子を担持しないCNF分散液から創製したCNF単繊維(図5 (a))に対し,無電場条件においてCNF:Tollen’s = 4.5:0.5の混合比で創製したAg-CNF複合繊維の場合(図5 (b))ではコロニー数が大幅に減少した.これより,単繊維に銀ナノ粒子を担持することで,明確な抗菌性が発現することが明らかとなった.

Figure 5 Results of antibacterial test using Natto bacteria for (a) cellulose single filaments and (b) cellulose/silver composite filaments (CNF:Tollen’s = 4.5:0.5).

 図6 (a)に無電場条件下で創製された複合繊維の引張強度および弾性率,靭性を示す.銀ナノ粒子の担持量を増加させることで引張強度が向上する.銀ナノ粒子の担持量が多く,分散液の粘度が低い場合,分散液中のCNFの回転配向が容易となる.さらに,CNF濃度が低いため,流れ場の中でCNF同士の絡まりが解けやすくなる.以上により,より高い配向効果が得られたと考えられる.CNF単繊維(Pure CNF)に対して,混合比CNF:Tollen’s = 4.5:0.5のAg-CNF複合繊維では最大引張強度は約35 %,弾性率は約34 %,靭性は約41 %増加しており,銀ナノ粒子を担持することにより機械特性が向上することが明らかとなった.次に,図6 (b)に電場印加時の機械特性を示す.ほぼ全ての条件において,電場印加により高強度・高弾性化した.これは,電場によりCNFが長軸方向に分極し,CNFに誘起された双極子モーメントが電場から静電トルクを受けることでCNFが電場と平行に配向するためである(4).CNF:Tollen’s = 4.5:0.5 においては電場を印加することで,引張強度が約39 %,弾性率が約102 %,靭性が約10 %向上した.本稿では示していないが,無電場条件においてCNF:Tollen’s = 4.3:0.7の混合比では,高濃度の銀ナノ粒子がCNF間の水素結合を阻害するため,複合繊維を創製できなかった.しかしながら,電場印加によるCNFの配向促進効果により,CNF間の水素結合が促進されることで,CNF:Tollen’s = 4.5:0.5のときと同程度の材料強度を有する複合繊維を創製することが可能となった.以上より,電場による配向制御は銀ナノ粒子を担持したCNFに対しても有効であり,電場印加による複合繊維の機械特性向上が得られることが示された.

Figure 6 Mechanical properties of cellulose/silver composite filaments fabricated (a) without electric field and (b) with electric field (2.5 kV).

4. 結言

 本研究では,伸長流動場および電場を用いた,セルロース・銀ナノ粒子複合繊維創製法を対象とし,創製した複合繊維の抗菌性を示した上で,銀ナノ粒子の担持量や電場印加の有無が複合繊維の機械特性に与える影響を明らかにした.CNF分散液に対するTollen’s試薬の混合比を増加し,電場を印加することで,抗菌性を有するセルロース・銀ナノ粒子複合繊維の高強度化および高弾性化が可能であることを示した.

文献

(1) Håkansson, K.M.O., Fall, A.B., Lundell, F., Yu, S., Krywka, C., Roth, S.V., Santoro, G., Kvick, M., Wittberg, L.P., Wågberg, L., and Söderberg, L.D., “Hydrodynamic alignment and assembly of nanofibrils resulting in strong cellulose filaments”, Nature Communications, Vol. 5, No. 1 (2014), p. 4018.
(2) Wise, H., Takana, H., Ohuchi, F., and Dichiara, A., “Field-Assisted Alignment of Cellulose Nanofibrils in a Continuous Flow Focusing System”, ACS Applied Materials & Interfaces, Vol. 12, No. 25 (2020), pp. 28568-28575.
(3) Takana, H. and Guo, M., “Numerical simulation on electrostatic alignment control of cellulose nano-fibrils in flow”, Nanotechnology, Vol. 31, No. 20 (2020), p. 205602.
(4) Brouzet, C., Mittal, N., Rosén, T., Takeda, Y., Söderberg, L. D., Lundell, F., and Takana, H., “Effect of Electric Field on the Hydrodynamic Assembly of Polydisperse and Entangled Fibrillar Suspensions”, Langmuir, Vol. 37, No. 27 (2021), pp. 8339-8347.
(5) 後藤康夫,鉄本卓也,“銀ナノ粒子”,日本接着学会誌,Vol. 44, No. 11 (2008), pp. 414-419.
更新日:2025.3.31