流れ 2015年2月号 目次
― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―
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マルチ円形衝突噴流の干渉が形成する3次元流動構造
市川 賀康 東京理科大学
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1. はじめに
平成26年10月に富山大学で開催された第92期日本機械学会流体工学部門講演会において研究発表を行い,光栄なことに優秀講演賞を頂きました.ここでは発表内容である,円形衝突噴流群が形成する流動の3次元計測とその評価に関して紹介します.
衝突噴流は,電子機器から産業用ガスタービンに至るまで,大小様々な機器の冷却に使用される手法の1つである.よどみ点近傍で高い熱伝達率を有し,流量制御による熱伝達及び物質伝達量の制御が可能なため,複数個配置して,冷却以外に加熱や乾燥といったシーンでも広く使用されている.昨今の環境負荷低減や経済性といった要求により,機器の小型化・高効率化に伴う発熱量増大は著しく,それに対応すべく衝突噴流群による冷却性能の更なる向上が要求されている.
衝突噴流による熱伝達に関する研究は現在まで盛んに行われており,特に孔径,個数,衝突距離,噴出間隔などの噴出パラメタと熱伝達の関係を調査したものが多く見受けられる(1).流動に関しては,円形噴流を正方配置し,油膜法を適用した可視化によって壁面近傍の流動特性を明らかにした例(2)や,CFDを駆使して大まかな流動場を予測した例(3),2次元PIVによって隣接する噴流間を計測し,速度成分から算出される諸量と熱伝達場との比較を実施している例(4)もあるが,複数の噴流が相互干渉の結果として空間的に形成する詳細な流動を調査しなければ,熱伝達の議論には十分とはいえない.
本研究では,円形衝突噴流群が形成する流動の更に詳細な構造を調査することを目的に,隣接する噴流及び斜め方向に配置された噴流の干渉による流動の計測を実施した.3次元3成分流速を取得可能なスキャニングステレオPIV(3DPIV)による計測を適用し,ノズル-衝突壁面間において衝突噴流同士の干渉によって形成される空間的な流動構造を捉えることを試みた.また,壁面近傍の速度場に着目し,衝突壁面の熱伝達場との比較も実施した.
2. 3DPIV計測システム及び評価方法
図1に本研究で使用した計測装置を示す.流路高さL(= 10 mm) を基準に,ノズル板 (図1(a)) に孔径Dの3 × 3, 合計9個の円形衝突噴流を正方配置した.光源にはダブルパルスNd:YAGレーザを使用し,ガラス製の衝突面を通して測定部に0.5 mm厚のシート光を照射した.トレーサ粒子には平均直径250 nmのDEHS液滴を使用した.Scheimpflüg配置された2台のCCDカメラはステレオ角15 degで設置され,y方向及びz方向へトラバースさせて,図1(a)に示す赤枠部分の撮影を実施し,3次元3成分速度を取得した.また,基準流速UjetとDを代表長さとしたReD数を3,000に設定し,衝突距離L/D, 噴出間隔S/Dを変化させ,その影響を調査した.
Fig. 1 Experimental system. (a) Nozzle plate and (b) scanning stereoscopic PIV setup.
3DPIVによって取得した速度3成分(u, v, w)は時間平均されUjetによって無次元化し,その無次元速度の3成分合成を流速比VRと定義した.また,このVR及び瞬時速度を用いてRMS値を算出し,速度変動の評価を行っている.
3. 実験結果及び考察
3.1 マルチ衝突噴流の流動構造
図2に,衝突距離L/D = 4, 噴出間隔S/D = 4の場合における,3DPIVによって得られたノズル-衝突壁面間の3次元流動構造を流線によって示す.また図3に,衝突壁面近傍(x/D = 3.8)におけるyz平面内の流動の様子を示す.噴流が壁面に衝突後,隣接する噴流同士が干渉して噴流間中心(y/D = 2)付近で巻き上がり,噴流を取り囲むように渦輪を形成していることが確認できる.この渦輪は,中心の噴流(y/D = 0, z/D = 0)ではそれを取り囲むように形成しており,一方で,外周に位置する噴流では,渦輪が外側に広がっている.また,中心から斜めに位置する噴流 (y/D = 4, z/D = 4) では,衝突壁面近傍で,図3の青矢印に示すように中心方向へ流れ込み,周囲の噴流を巻き込むように(赤矢印)干渉して壁面からはく離し,ノズル方向へ向かう大きな巻き上がりを形成していることも確認された.この一連の流動形態は,L/D,S/Dを変化させた場合でも確認でき,大きさに差異はあるが,同様の渦輪や巻き上がりの形成といった特徴的な流動構造を示すことが確認された.
Fig. 2 Three-dimensional flow field of multiple circular impinging jets under L/D = S/D = 4. Measurement area is shown in Fig. 1(a)
Fig. 3 Flow configuration in yz plane near impingement wall (x/D = 3.8).
3.2 壁面近傍における速度成分と熱伝達
図4(a),(b)にL/D = 4, S/D = 4における壁面近傍(x/D = 3.8)の速度成分u, v, wを,図5(a),(b)に感温液晶を使用して取得した衝突壁面のNu数分布をそれぞれz/D = 0, 2について示す.z/D = 0では,噴流の衝突位置付近でuは極大をとり,噴流間中心(y/D = 2)付近まで減衰し,隣接する噴流由来の流動と合流する.一方,噴流間中心位置のz/D = 2では,干渉によって流れが壁面からノズル方向へ巻き上がるため,y方向におけるuの変化が小さいことが確認できる.yz平面におけるv, w成分は,図3に示したベクトル分布に一致し,合流位置でv成分の正負は逆転し,w成分はz/D = 2で流入の影響を受けていることがわかる.L/D及びS/Dを変化させた際,速度成分は同様の傾向が確認された.このとき,衝突壁面におけるNu数分布の変化と速度成分の変化を比較すると,Nu数はu成分の変化に大きく起因し,運動量の大きい流れの衝突が熱伝達率の向上に重要であることを示している.
Fig. 4 Near wall velocity component (u, v, w) under L/D = 4, S/D = 4 at (a)z/D = 0 and (b) z/D = 2.
Fig. 5 Nu distribution under L/D = 4, S/D = 4 at (a) z/D = 0 and (b) z/D = 2.
3.3 干渉に伴う速度変動と熱伝達
L/D,S/Dを変化させた際のz/D = 0上における衝突壁面近傍(x/D = 3.8)のRMS分布及びNu数分布をそれぞれ図6,7に示す.図6より,噴流が合流し形成する巻き上がり位置においてRMSの値が上昇していることが確認できる.これは巻き上がり時に生じる渦の崩壊に伴う速度変動に起因すると考えられる.この巻き上がり位置におけるRMS値は,S/D = 6では噴出間隔が大きく,速度が減衰した状態で巻き上がるため,S/D = 4と比較して低下すると考えられる.図7に示すNu数分布を見ると,巻き上がり位置において流れの混合が促進し,速度変動に伴う界面更新(5)の頻度が上昇することが示唆され,噴出間隔が小さい時には孔間で熱伝達が促進されることを確認した.
Fig. 6 RMS distribution near wall at z/D = 0 under (a) S/D = 4 and (b) S/D = 6.
Fig. 7 Nu distribution at z/D = 0 under (a) S/D = 4 and (b) S/D = 6.
4. まとめ
正方配置された円形衝突噴流群において,スキャニングステレオPIVを用いて,噴流同士の干渉によってノズル-衝突壁面間に形成される渦輪や巻き上がりなどの流動構造を詳細に捉えることができた.また,壁面近傍の速度3成分とその変動に着目し,衝突壁面における熱伝達場と比較することによって,速度u成分の変化及び速度変動の大きさが,衝突壁面における熱伝達促進に寄与する要因となりうることを示した.現在は,PIVではレーザシート光照射の影響によって計測困難な壁面極近傍(~20μm)をターゲットに,イメージングを用いた3次元流速計測手法開発に取り組んでおり,より詳細な壁面流動及び壁面せん断応力分布や圧力分布等の諸量の取得を試みている.今後はこの計測法を,衝突噴流をはじめ各種流れ場に適用し,壁面流動と熱輸送・物質輸送の関係を詳細に調査していきたい.
謝辞
末筆となりますが,学会当日に発表及び討論を通して大変貴重なご意見を頂きました皆様,選考委員会の皆様,ならびに今回ニュースレター執筆の機会をくださった日本機械学会流体工学部門の皆様に感謝いたします.そして,この度の受賞に至るまでご指導いただいた東京理科大学 亀谷雄樹 助教,元祐昌廣 講師,山本 誠 教授,本阿弥眞治 名誉教授に深く感謝いたします.
参考文献