流れ 2015年2月号 目次
― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―
| リンク一覧にもどる | |
ストリークカメラを用いた水中ストリーマの高時間分解解析
藤田 英理 東北大学
|
1.緒言
2014年10月25日,26日富山大学五福キャンパスにて開催された第92期日本機械学会流体工学部門講演会の両日における発表,加えるに流体工学部門のニュースレターに寄稿する機会を頂き,これまでの研究成果のより広い普及と鼓吹とを与えうる機会に恵まれましたことを,とても嬉しく光栄に思います.この場をお借りして,先の講演会の運営に携わられた全ての皆様に感謝致します.はじめて訪れた富山の壮大な山々や渓谷,そこでご馳走になりました鱒寿司へ想いを馳せつつ,講演発表内容を紹介させて頂きます.
図1に示すように,水中の針電極に高電圧を印加すると,フィラメント形状を有した発光現象が観測される.この部分放電現象はストリーマと呼ばれ,水中ストリーマは自発光のほか,シャドーグラフ法やシュリーレン法によりガスチャネルとしても可視化される(1).
Fig. 1 Streamer in water.
液中ストリーマの進展には紫外線,衝撃波,微細気泡,オゾン,および化学活性種の生成が伴う(2).特に水中ではヒドロキシルラジカルやスーパーオキシドアニオンラジカルのような酸化力の高いラジカル種が形成されるため,水質浄化や医療分野への応用が期待されている(3).しかし,現象が極めて高速でかつ微細なため,その進展機構は十分に解明されていない.
水中正ストリーマの進展は形状や進展速度から1次ストリーマと2次ストリーマに分類されている(4)-(8).本研究では超高速度カメラと顕微鏡レンズを組み合わせ,水中ストリーマの進展過程を高時間空間分解能で連続写真として可視化し,この可視化結果を放電電流波形と1 ns以下の精度で同期させ,進展機構の解明を目指してきた(6)-(8).
図2に2次ストリーマの自発光の連続写真と,同期した電流波形を示す.2次ストリーマは樹枝形状を有し,進展速度は20-30 km/sに達する.2次ストリーマの進展時には電流波形上に直流成分が現れ,低電気伝導率の水中では断続的なスパイク電流が続く(5)(7).直流成分の振幅は時間経過とともに減少し,発光するフィラメント数も減少する.しかし,直流電流成分の検出されている間にフィラメントのうち少なくとも1本は,発光が途切れることがなく,連続的な進展を示す.
Fig. 2 Successive images of secondary streamer propagation taken with a gate time of 20 ns at 40 Mfps at 21.0 kV and the synchronized current waveform.
図3に1次ストリーマのガスチャネルの連続写真と,同期した電流波形を示す.1次ストリーマは半球ブラシ状の形状を有し,およそ2.4 km/sで進展する.また,進展中に繰り返しパルス電流が観測される(6).1次ストリーマの進展長は短く,発光も微弱なため,自発光を連続写真として観察することができなかった.ガスチャネルの進展を時間分解能10 nsで観測する場合,放電電流はパルス状であるが,その進展は連続的に観測される.
Fig. 3 Successive images of primary streamer propagation taken with a gate time of 5 ns at 100 Mfps at 18.5 kV and the synchronized current waveform.
そこで先の講演では,ストリークカメラを用いて1次ストリーマの自発光を可視化した結果を報告した.また,ストリーク写真と電流波形を同期させることで,1次ストリーマの進展とそれを特徴付けるパルス電流の関連性を検証した.
2.実験
放電セルに石英ガラスセルを用い,内部に電極間距離6 mmの針-ワイヤ電極を固定した.両電極ともに直径0.5 mmの白金線で作成し,放電部を除き絶縁管で被覆している.針電極先端の曲率半径は40 µmとした.針電極にセラミックコンデンサを介して10 µsの単一正パルス電圧を加える.ワイヤ電極は接地している.放電に使用する水は空気曝露後に電気伝導率が0.8 µS/cmに上昇した超純水とした.
可視化にストリークカメラ(浜松ホトニクス,C10910)を使用した.本実験で用いた掃引ユニットの最大時間分解能は20 psである.撮影には顕微鏡レンズを使用し,背景光にフラッシュランプを用いた.電圧・電流波形を高電圧プローブおよび電流プローブにより計測し,ストリークカメラのゲート信号と共にオシロスコープ上でモニタリングした.
ストリーク写真の空間情報は1次元に限られるが,現象の連続的な時間変化を可視化することができる.図4(a)は,1次ストリーマの進展を超高速度カメラで撮影した場合を示し,電極先端に描いた長方形はストリークカメラのスリットを表す.図4 (b)のストリーク写真では,空間情報はスリット内に限られるものの,超高速度カメラでは得られない1次ストリーマの連続的な時間変化を可視化することができる.
Fig. 4 Schematic of the visualization results of primary streamer propagation by means of (a) an ultra high-speed camera and (b) a streak camera.
3.結果および考察
図5に背景光を照射して撮影した1次ストリーマのストリーク写真およびその電流波形を示す.写真中の▽は針電極の位置を示し,針電極より下方の影領域は,電圧の立ち上りから1次ストリーマ進展前までの遅れ時間に形成された気泡領域を表す(8).1次ストリーマの進展は三角形の影として電圧印加後1877 nsから観察される.ストリーマの進展は連続的に観察され,三角形の勾配から見積もられる平均進展速度は2.4 km/sになる.こうした観測結果は,超高速度カメラを用いて得られた図3の可視化結果とよく一致する.
Fig. 5 Streak image taken with the backlight and the synchronized current waveform. (Applied voltage: 22.0 kV, streak time: 100 ns, space: 431 µm)
図6 (a)に示すように,カメラの感度を最大にして1次ストリーマの進展を撮影すると,断続的な発光が観測された.さらに時空間分解能を約2倍に向上させたストリーク写真を図6 (b)に示す.図6 (b)は,1次ストリーマの進展開始から130 ns後にカメラゲートを開いている.ストリーマの断続的な発光とパルス電流の計測されるタイミングは概ね一致していた.断続的な自発光は,1次ストリーマの断続的な進展を示唆する.すなわち,水中で1次ストリーマが断続的に進展し,加熱された放電路が蒸発することで気泡チャネルを形成する.水中ストリーマの進展速度に比べて蒸発速度は遅いため,背景光を照射して観察すると,ガスチャネルは連続的に観察されると考えられる.
Fig. 6 Streak images without the backlight and the synchronized current waveforms. (a) (Applied voltage: 22.0 kV, streak time: 100 ns, space: 431 µm) (b) (Applied voltage: 22.0 kV, streak time: 47.5 ns, space: 221 µm)
4.結言
ストリークカメラを用いて水中1次ストリーマの進展を可視化した.背景光を用いた場合,これまで超高速度カメラで観測したように1次ストリーマの進展は連続的に観測される.しかし,自発光を観測すると1次ストリーマは断続的な発光を示し,発光のタイミングは放電電流のパルス成分に概ね一致していた.このことから,1次ストリーマの断続的な進展機構が示唆された.
謝辞
本研究を進めるにあたり,大分大学 金澤誠司先生,東北大学 大谷清伸先生,小宮敦樹先生,金子俊郎先生,および佐藤岳彦先生にご指導頂いております.ここに深く感謝致します.
引用文献