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流れ 2016年11月号 目次

― 特集テーマ:2016年度年次大会 ―

  1. 巻頭言

    (藤井,横山,渡辺)

  2. 市場にデビューする相反転方式ターボ機械
    金元敏明(佐賀大学)
  3. 非平衡格子乱流場の特性とスカラー輸送機構
    酒井康彦,長田孝二, 伊藤靖仁, 渡邉智昭, 岩野耕始(名古屋大学)
  4. ワークショップ:複雑流体の新展開
    山本剛宏(大阪電気通信大学),鳴海敬倫(新潟大学),蝶野成臣(高知工科大学)
  5. 複雑流体としての生物系粒子分散系
    山本剛宏(大阪電気通信大学)
  6. 非アファイン性を考慮した高分子添加溶液におけるエネルギー伝達と抵抗低減 -働く高分子と働かない高分子
    堀内潔(東京工業大学)
  7. EFDワークショップ:光学的流体計測手法
    渕脇正樹(九州工業大学),飯尾昭一郎(信州大学),稲澤歩(首都大学東京),菊地聡(岐阜大学)
  8. 多レンズ多方向光学系の設計および瞬間CT法による非定常流体現象の三次元計測と3Dプリンティング
    石野洋二郎(名古屋工業大学)
  9. 非定常熱流動場における壁近傍の速度-熱伝達の光学的同時計測について
    山田俊輔(防衛大学校),中村元(防衛大学校)

 

市場にデビューする相反転方式ターボ機械


金元 敏明
佐賀大学

 

1.相反転方式

 相反転方式とは,二段羽根車と内外二重回転電機子(厳密には界磁と電機子)が連携プレーすることを意味し,どちらが欠けても成立しない.したがって,羽根車のみに着目した二重反転とは区別している.2極3相交流誘導電動機の回転速度[nF, nR:内外回転電機子の値(互いに逆方向)] を一定に保ち,内外回転電機子の回転トルクMFMR(絶対値表示)を変えた場合の一例を図1に示す.回転速度や回転トルクの大きさにかかわらずMFMRが一致(方向は逆)する状態で運転され,相対回転速度は回転磁界すなわち誘導機では系統の電源周波数によって定まる.


Fig. 1 Rotational torque acting on the armatures

 

2.ポンプ羽根車と誘導電動機の連携プレー

 本電動機の代わりに従来の電動機2台を用いて,前後段羽根車を普段通り回転速度一定で別々に駆動すると,前段羽根車のみならず後段羽根車からの流出方向も流量によって変化する.これに対し,本電動機では両回転電機子に働く回転トルクが一致,すなわち理想流れを仮定すると羽根車を通る流れの角運動量変化は前後段で常に同じとなる必要があるから,前段羽根車入口と後段羽根車出口の流れ方向は流量にかかわらず一致する.前段羽根車に軸方向流入した流れは,流量が減少すると,後段羽根車は回転速度を減速して軸方向流出を得ようとし,誘導電動機はその分前段羽根車の回転速度を増速する(相対回転速度一定).しかし,前段羽根車の回転速度が余りに速くなると,迎え角の増大に伴って,実際の流れでは不安定特性の一因となる入口逆流が生じる.その抗力のため前段羽根車の回転トルクは流れの角運動量変化以上になるから,後段羽根車は回転を速めてその増加分ほど出口の角運動量を増加(旋回成分を発生)させる.それに伴って,前段羽根車の回転速度はかえって減速するようになり,入口逆流を抑制する方向に向かう.このとき,前段羽根車における揚程低下は後段羽根車の揚程増加で補われるので,低流量域における不安定問題が解決できる(1)

  高流量での後段羽根車は回転速度を増加して軸方向流を得ようとするから,前段羽根車は回転速度を減速してインデューサの役割を担う.

 

3.相反転方式水力発電ユニットの優位性

 上述のように前後(内外)の回転体が互いに逆方向に回転するので,(1)回転速度と回転電機子径を従来と同じにとれば高起電圧化,あるいは(2)起電圧を同じにとれば小型化が期待できる.また,(3)回転電機子径と起電圧を従来と同じにとればランナの回転速度を遅くできてキャビテーションに対して有利となる.さらに,(4)両回転体間で回転トルクが相殺されるので外部に反作用の力は一切働かない.これらのことは,発電ユニットを固定する土木工事を要せず,中小河川,渓流あるいは海峡などにワイヤ一本で簡単に係留できる,地球にやさしい簡易大容量発電を可能にする(図2).


Fig. 2 Operation in the field

同期発電機と軸流ランナ(軸方向流入流出となるように設計)からなる水力発電ユニットの性能例を図3に示す.単位相対回転速度N11[=(nF+nR)D/H 1/2,(m, min−1),D:ランナ径,H:落差]に対し,出力PG11の最高点で前後段ランナの単位回転速度NG11F, NG11Rは設計通り同じになり,高回転側では前段ランナのほうが速く,低回転側では逆に後段ランナのほうが速く回転するようになる.これは,内外二重回転電機子の要求により,前後段ランナが流れの角運動量変化を同じにするためである.


Fig. 3 Performance of the model hydroelectric unit

 

4.風力,海洋資源への展開

 本ユニットは前述のように相反トルクが同じ点で運転されるが,回転電機子間に速度差があれば回転方向に制限はなく発電する.そこで,良好な風況が得にくい地域にも適用できる新たな風力発電ユニットを提案した(図4)(2).すなわち,高風速で大出力が得られる大径の前段風車ロータと低風速に適した小径の後段風車ロータが内外二重回転電機子をそれぞれ駆動する.これにより,(1)ほんの微風速(カットイン風速)で,前後段風車ロータは互いに逆方向に回転を始め,発電を開始する.風速の増加に伴って両風車ロータは回転速度を増し,後段風車ロータの最高回転速度付近で定格運転に達する.(2)更に風速が増すと,小径の後段風車ロータが発生する回転トルク(前段風車ロータとは逆方向)には限界があるため,大径の前段風車ロータと回転トルクを一致させるため回転速度を減速させ,停止状態を経て前段風車ロータと同方向に回転するようになる.このとき,風に逆らう後段風車ロータの影響により,前段風車ロータの過回転が自動的に制御される.


Fig.4 Intelligent Wind Power Unit

  この姿は外部に反作用が働かないことを生かした係留式潮流発電ユニットに連なり(図5)(3)-(5),平成25年度からNEDOの受託として4企業2大学において実用化を目指した基礎研究が進められている.また別途,相反転方式潮汐発電ユニット構想も提案している(6).回転トルクが相殺されるので発電ユニットの設置が容易であり,上述のように軸方向流入流出が得られるので,本ユニット1台で流れ方向が変わる潮汐流に対処できる.


Fig.5 Tidal stream power unit moored with a cable

 

5.さらなる躍進に期待

  一つの羽根車/ランナで事足りるにもかかわらず,あえて二段にして付加価値を求めようとする筆者の興味本位な研究紹介に終始し,出涸らしで新たな技術紹介に及ばなかったことを末尾ではあるがお詫びしたい.残念ながら後続研究が現れないまま,水力発電ユニットについては社会インフラ整備に役立とうとしている.他の機種についても暖かく育てて戴けることを期待したい.

  最後に,本稿の内容は九州工業大学在職中に得られた成果であり,同大学の教職員と卒業生,関係諸兄,関係諸機関の暖かい支援に謝意を表す.また,また,本稿の一部は筆者の末尾文献と重複している個所があることを付記しておく.

 

文献

(1) 金元敏明, ターボ機械と電気機械のデュエット, ターボ機械, 第39巻, 第9号(2011-9 ), pp. 549-556.
(2) Toshiaki Kanemoto & Koichi Kubo, Wei Tong監修Wind Power Generation and Wind Turbine Design:Chapter 10 Intelligent wind power unit with tandem wind rotor (2010-4), pp. 333-360, Total pages 725, WIT press.
(3) Kanemoto, T. et al., Tidal current Power Generation System Suitable for Boarding on a Floating Buoy, International journal of Offshore and Polar Engineering, Vol. 11, No. 1(2001-3), pp. 77-79.
(4) Yuta Usui, Toshiaki Kanemoto, Kohei Takaki and Koju Hiraki, Counter-Rotating Type Tidal-Stream Power Unit Moored by Only One CableJournal of Energy and Power Engineering, ISSN 1934-8975, USA, Vol. 8, No. 12(2014-12), pp. 2089-2095.
(5) Bin Huang, Yuji Nakanishi and Toshiaki Kanemoto, Numerical and Experimental Analysis a Counter-Rotating Type Horizontal-Axis Tidal Turbine, Journal of Mechanical Science and Technology, Vol. 30, No. 2(2016-2), pp. 1-7
(6) Toshiaki Suzuki and Toshiaki Kanemoto, Counter-Rotating Type Tidal Range Power Unit, Journal of Energy and Power Engineering, ISSN 1934-8975, USA, Vol. 7, No. 12(2013-12), pp. 2381-2387.
更新日:2016.11.2