流れ 2016年11月号 目次
― 特集テーマ:2016年度年次大会 ―
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非定常熱流動場における壁近傍の速度-熱伝達の光学的同時計測について
山田 俊輔 防衛大学校中村 元 防衛大学校
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1. はじめに
2016年9月11日から9月14日まで九州大学伊都キャンパスにて開催されました流体工学部門企画EFDワークショップ「光学的流体計測手法」では,「非定常熱流動場における壁近傍の速度-熱伝達の光学的同時計測について」の題目で講演させて頂きました.この発表の機会を与えて頂いた,九州工業大学の渕脇正樹先生,信州大学の飯尾昭一郎先生,首都大学の稲澤歩先生,岐阜大学の菊地聡先生,並びにニュースレター「ながれ」の執筆の機会を与えて頂いたニュースレター担当の先生方に,この場をお借りして深く御礼申し上げます.本稿では,講演発表の内容を簡単に紹介させて頂きます.
熱・流体が関わる様々な機械内部では,流体の状態は,乱流または遷移の状態にあり,内在する強い三次元性・非定常性を有し,それに伴う伝熱現象が複雑な様相を呈する.この三次元性・非定常性を有する伝熱現象を,非定常熱流動現象と称し,この伝熱メカニズムを実験的に解明するには,流体と熱伝達挙動の同時測定が必要と考えられる.これまで,実験的に様々な同時測定手法が提案されているが(1)-(4),時空間的な同時測定に対しては多くの課題が挙げられる.近年,赤外線カメラの性能が飛躍的に向上しており,高い時間・空間分解能,及び高い温度分解能を有する高速赤外線カメラが開発されている.赤外線カメラによる計測では,2次元の多点温度計測が可能であり,通電加熱金属箔上の衝突噴流や,縦渦による膜冷却に関する温度計測に用いられている(5).また,伝熱面裏面の温度から逆解析により熱伝達率を推定する手法が提案されている(6).これまで非定常な対流熱伝達の時空間分布を実測する方法を提案し,乱流境界層や後向きステップ流れにおける熱伝達率の時空間分布を定量的に測定した(7, 8).そこで,本研究では,高空間分解能で測定可能な高速赤外線カメラ(以下IRT)にステレオPIVを組み合わせることにより速度場と温度場の空間同時測定システムを構築し,流体と温度の非定常挙動の可視化を試みた.また,本同時計測システムを用いて,後向きステップ流れにおける再付着点付近の非定常熱流動現象の測定結果の一例を示す.
2. 実験装置および方法
図1(a)に低速風洞装置の断面図を示す.高さ400 mm,幅150 mmの矩形断面の風洞内の中央部に幅150 mm,長さ900 mmの平板を設置し,平板の下流にはステップ高さ19 mmの後向きステップを配置した.ステップ下端のスパン中央を座標原点とし,図1(a)のように座標軸を設定した.ステップ下流には加熱模型を設置した.主流速度はu0 = 2 m/sであり,ステップ高さと主流速度を代表値としたレイノルズ数はReH = 2.5 × 103で実験を行った.加熱模型では,アクリル製の平板に長さ60mm,幅100mm,厚さおよそ2.1 µmのチタン箔(メインヒーター)を流れ方向に3枚並べ,電極間を弛みのないように接着し,チタン箔の下部には1 mmの空気層を設けた.チタン箔は等熱流束条件で通電加熱し,伝熱面の壁面温度と主流温度との温度差をおよそ20 °Cに設定した.空気層の下部には,熱伝達率を復元するための境界条件,並びにチタン箔から空気層への熱損失を低減させるため,通電加熱したアルミ板を設置した(7, 8).熱電対によりアルミ板内部の温度を計測し,チタン箔の表面との温度差が1 ºC以内になるように印加電圧を調整した.計測するチタン箔の伝熱面の熱容量は非常に小さく,チタン箔には非常に速い温度変動が観察される.温度の場の計測には赤外線カメラを,また流れ場の測定にはカメラ2台を図1(b)のように配置し,同時計測を実施した.
(a) Schematic diagram of Wind tunnel
(b) Schematic diagram of camera arrangement
Fig. 1 Experimental setup
加熱模型のチタン箔面上の温度変動をフレームレート1 kHzに設定したIRT(SC4000,FLIR社)で測定した.ステレオPIV計測の画像撮影には,2台のカメラ(IDT社製,Motion Scope M3)とダブルパルスレーザ(New Wave Research社製,Solo-PIV II,レーザシート厚さおよそ1.0 mm)を使用した.トレーサ粒子は,DOS(Dioctyl Sebacate)を使用し,フォグジェネレーター(PIV TEC社製,PIV part14)により,粒形1 µm程度の液滴をトレーサ粒子として流路内に噴霧した.xy断面における速度計測に使用したカメラのステレオ配置を図1(b)に示す.撮影領域は,xz断面におけるx/H = 3.8~6.2,z/H = -1.5~1.5の領域を撮影した.撮影条件は,ステレオ配置した2台のカメラのフレームレートは15 fps,2重露光撮影に同期したレーザのパルセパレーションを200 µsに設定した.速度三成分のPIV解析には,ソフトウェア(IDT社製,ProVISION-XS)を使用した.
3. 実験結果および考察
図2は,ReH = 2.5 × 103における速度分布と熱伝達率分布の瞬時分布を示す.図2(a)から(c)の等値線はu, v, w,を表し,実線は正を,また点線は負の分布を示す.そしてカラーコンターは同時刻のhを示す.それぞれの速度・熱伝達率の同時刻における空間的な対応関係を比較する.図2(a)より,x/H = 4.2~4.5付近を境に逆流・順流の流れが現れる.また,熱伝達率を見ると,z/H =±0.5付近の高熱伝達領域は流れ方向に伸長した縞状な分布となる.図2(b)では,vが負を示す領域はhの高熱伝達領域と,またvが正を示す領域はhが低い領域と定性的にほぼ対応する.図2(a)及び図2(c)の流れ方向及びスパン方向速度分布では,流れ場と熱伝達の空間的な対応は見られなかった.従って,壁近くの加熱壁面方向へ向かう流れが熱伝達に影響し,空間的に対応していることがわかった.そして,再付着点付近の強制対流熱伝達のメカニズムの解明には,壁方向への運動量輸送の計測が必要である.今後,高時間分解能で計測可能なシステムへと改良し,運動量と熱伝達の時空間的な対応関係を明らかにする予定である.
(a) Streamwise velocity | (b) Transverse velocity | (c) Spanwise velocity |
Fig. 2 Corresponding relationship between Instantaneous flow and heat transfer
(ReH = 2.5 × 103, y/H = 0.06)
4. まとめ
本稿では,後向きステップ流れにおける再付着点付近の流れ場と温度場の対応関係を明らかにするため,ステレオPIVと高速赤外線カメラを用いた同時計測システムを紹介した.後向きステップ流れにおける再付着点付近では,xz断面の加熱壁面方向へと向かう流れが発生する領域で熱伝達率は増加し,その領域は空間的に対応することがわかった.
謝 辞
本研究はJSPS科研費JP25871222の助成を受けたものである.ここに感謝の意を表する.
文 献