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流れ 2017年2月号 目次

― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―

  1. 巻頭言
    (本澤,橋本,松田)
  2. 21世紀の乱流研究
    柳瀬眞一郎(岡山大学)
  3. 液晶流を利用した無定形アクチュエータ
    松田琳子,辻知宏,蝶野成臣(高知工科大学)
  4. 遷音速多段軸流圧縮機の静翼列におけるハブ・コーナーはく離の流れ構造
    齋藤誠志朗(九州大学)
  5. 移動壁面上を浮遊する液滴
    澤口英理奈,濱開,田川義之(東京農工大学)
  6. 静電配向制御によるセルロース新素材創製プロセス
    武田祐介(東北大学),Christophe Brouzet,Nitesh Mittal,Fredrik Lundell (KTH Royal Institute of Technology, Sweden),高奈秀匡(東北大学)
  7. 流れの夢コンテストに参加して
    坪根虎汰(広島国泰寺高校2年),棟田陽(広島国泰寺高校 科学部物理班顧問)
  8. 流れの夢コンテストに参加して
    山内遥(明星大学)

 

遷音速多段軸流圧縮機の静翼列におけるハブ・コーナーはく離の流れ構造


齋藤誠志朗
(九州大学)

 

1. はじめに

 第94回日本機械学会流体工学部門講演会において,光栄にも優秀講演表彰を頂き,ニュースレターにて研究内容を紹介する機会を頂いた.この場を借りて,選考委員会および日本機械学会の皆様に御礼申し上げる.本ニュースレターでは,私の研究内容である,大規模数値解析によって遷音速多段軸流圧縮機の内部流れ場を高精度に予測した結果について紹介する.

 

2. ガスタービンの高性能化に向けて

 軸流圧縮機は,産業用および航空用ガスタービンの主要な構成要素であり,近年,ガスタービンの高効率化に向けて,軸流圧縮機の高圧力比化が進められてきた.このような高性能化によって,圧縮機内部が亜音速流れと超音速流れが混在する遷音速流れ場となった結果,作動範囲の縮小や流れ場の複雑化が深刻な問題となっている.特に静翼列においては,作動範囲拡大を目的とした,可変静翼システム(VSV)が普及したことも影響し,漏れ流れと二次流れが干渉する,きわめて複雑な流れ場が形成される.また,Yamadaらの研究(1)により,多段軸流圧縮機において,静翼列ハブ側でのコーナーはく離が起点となって,旋回失速といわれる異常流動現象が発生し得ることが指摘されている.そのため,軸流圧縮機の更なる高性能化および作動範囲拡大には,静翼列における内部流動を高精度に予測し,その流れ場を解明することが必要である.

  そこで本研究では,圧縮機全周における大規模DES(Detached Eddy Simulation)解析(2)を実施し,その得られた結果に対して知的可視化処理を施すことにより,静翼列におけるハブ・コーナーはく離の流れ構造を明らかにすることを目的としている.本解析に使用した計算格子を図1に示す.計算格子はH-J-O型を組み合わせた格子トポロジーによるマルチブロック構造格子で作成し,翼端クリアランス部およびフィレット部を含めて忠実にモデル化を行っている.また,1段静翼は可変静翼であるため,ハブ側および翼端側に部分クリアランスを設けている.1ピッチあたりの格子点数は,静翼で約400万点,動翼で約350万点であり,各翼列の格子点数は1億前後,総格子点数は約4.5億点である.


Fig. 1  Computational grid

 

3. 10%スパンにおける流れ場

 図2,3に10%スパンにおける密度勾配およびエントロピー分布を示す.図2から,初段静翼において,初段動翼の後流および2段動翼の衝撃波が入射しており,初段静翼のハブ・コーナーはく離と干渉していることが確認できる.また,上記の非定常的な干渉によって,初段静翼におけるハブ・コーナーはく離は,時間的に大きく変動していることが分かる.また,図3から,初段静翼におけるはく離によって大きな損失が発生しており,それに伴う低エネルギー流体が下流へ移流していることが確認できる.この低エネルギー流体が, 2段静翼まで移流していることから,初段静翼におけるはく離は,圧縮機全体の流れ場に大きな影響を与えていると考えられる.

Fig. 2  Magnitude of density gradient at 10%span (left : snapshot, right : animation)

Fig. 3  Entropy at 10%span (left : snapshot, right : animation)

 

4. 初段静翼における流れ場

 図4に初段静翼における渦構造および限界流線を示す.なお,同図(a)は,非定常解析結果から得られた瞬時の流れ場を示しており,同図(b)は,非定常解析結果に対し,時間平均およびピッチ間アンサンブル平均処理を行い,1ピッチ分のデータに変換した結果から得られた流れ場を示している.また,同図中に示す渦コアには,無次元ヘリシティーで色付けを行っている.無次元ヘリシティーは,次式で表される.

\[ Hn=\frac{\vec{ξ}・\vec{u}}{|\vec{ξ}|・|\vec{u}|} \]

ここで,\(\vec{ξ}\)は渦度ベクトル,\(\vec{u}\)は速度ベクトルを表す.上式に示すとおり,無次元ヘリシティーは渦度ベクトルと速度ベクトルの内積をとり,それに無次元化を施したものであり,渦度ベクトルと速度ベクトルのなす角の余弦値を表している.そのため,無次元ヘリシティーの符号は,流れ方向に対する渦の回転方向を示している.

  図4(a)から,ハブ・コーナーはく離によって複数のはく離渦が混在しており,それらが互いに干渉することで時間的に大きく変動する複雑な流れ場が形成されていることが分かる.ハブ面上の限界流線に着目すると,初段動翼の後流が周期的に流入していることが確認でき,後流の流入によって,ハブ側にクリアランスのない領域(以下,中実部)の前縁部から新たなはく離渦が発生している.また,翼面上の限界流線から,2段動翼からの衝撃波により生じたはく離が確認できる.

 図4(b)から,ハブ面上に足を持つハブ・コーナーはく離渦が発生しており,30~50%コードにおいて渦崩壊を生じていることが分かる.翼面の後方部には,後方クリアランスからの漏れ渦の影響で,節点および付着線が生じており,その上部では広範囲で逆流が発生している.また,この逆流領域は,中実部から下流方向へかけてスパン方向に急激に拡大しており,逆流領域と主流部との境界には,複数のはく離渦が確認できる.また,前方および後方の部分クリアランスからは,それぞれ漏れ渦が発生している.図5に時間平均流れ場におけるハブ面上の限界流線を示す.同図から中実部負圧面側において,主流方向の流れおよび前方の部分クリアランスからの漏れ流れがハブ面上の二次流れと合流して,ハブ・コーナーはく離渦を形成している.翼の後方では,後方クリアランスからの漏れ流れとハブ面上の二次流れが衝突したことで生じたはく離線が確認できる.さらに,上述のはく離線上には節点が確認でき,その節点を境に上流側では,漏れ流れが逆流していることが確認できる.

(a) Instantaneous flow structures (b) Time-averaged flow structures
Fig. 4  Limiting streamlines on suction surface and vortex cores in the 1st stator


Fig. 5  Limiting streamlines on hub surface (in time-averaged case)

 

5. おわりに

 本研究では,遷音速多段軸流圧縮機を対象として,大規模DES解析を実施し,得られた解析結果に対して知的可視化を行うことで,部分クリアランスを有する静翼列におけるハブ・コーナーはく離について,渦構造および限界流線のトポロジーを詳細に調べた.その結果,静翼中実部負圧面側において,前方の部分クリアランスからの漏れ流れとハブ面上の翼負圧面に向かう二次流れとの干渉から,ハブ面に足を持つ竜巻状のはく離渦が発生していることが確認できた.また,このはく離渦および部分クリアランスからの漏れ渦が干渉することにより,大規模なハブ・コーナーはく離領域が形成されることが明らかとなった.

  今後は,本研究成果をもとに,静翼における流れ場の非定常挙動や損失の発生要因などについての調査を実施し,本解析結果を踏まえた改良設計を実施する予定である.

 

参考文献

(1) K.Yamada, et al., Large-scale DES Analysis of Stall Inception Process in a Multi-Stage Axial Flow Compressor, ASME PaperNo. GT2016-57104 (2016).
(2) Strelets, M., Detached Eddy Simulation of Massively Separated Flows, AIAA PaperNo.2001-0879 (2001).
(3) Wilcox, D.C., Simulation of Transition with a Two-Equation Turbulence Model, AIAA Journal, Vol.32, No.2 (1994), pp.247-255.
(4) Shima, E., Jounouchi, T., Role of CFD in Aeronautical Engineering (No.14) -AUSM Type Upwind Schemes, the 14th NAL Symposium on Aircraft Computational Aerodynamics, NAL SP-34 (1997), pp.7-12.
(5) 古川雅人,ターボ機械における流動現象の知的可視化,可視化情報学会誌,第23誌,第91号 (2003), 206-213.
更新日:2017.2.22