流れ 2017年2月号 目次
― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―
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移動壁面上を浮遊する液滴
澤口英理奈
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平成28年11月,山口大学宇部キャンパスにて開催された第94期日本機械学会流体工学部門講演会において,優秀講演表彰を頂いた.本稿ではその発表内容に関連して,移動壁面上を浮遊する液滴について,これまでの研究成果の概要を述べる.
通常,壁面上に液滴を滴下した場合,液滴は壁面に付着する.一方,壁面を接線方向に移動させた場合,滴下した液滴は接触することなく浮遊することがある(参照:https://www.youtube.com/watch?v=yFFmraG6_IU, https://www.youtube.com/watch?v=nYSbXh3NCP0).この非接触現象は,インクジェットプリンタの効率化や高純度薬剤の製造技術への発展に貢献すると期待されている.そのため液滴の浮遊メカニズムの解明が望まれる.
浮遊液滴と移動壁面との間には空気薄膜が存在する.この空気薄膜の内部で生じる潤滑圧力が,液滴を浮遊させる主要因であると考えられている.そこで本稿では液滴の浮遊メカニズム解明のため,潤滑圧力に関する実験的研究を行う.潤滑圧力を実験的に算出し,その総和を液滴荷重と比較する.また液滴底部では,気液界面に働く潤滑圧力,表面張力および静水圧が釣り合うと考えられている(1).これらの圧力を実験的に算出し比較する.
図1に本実験装置の概略図を示す(2).水平方向に設置した石英ガラス円筒(直径200 mm)を,ブラシレスモータによって一定速度で一軸回転させる.ガラス円筒内部に液滴を滴下し,定常的に浮遊させる.浮遊液滴下に存在する空気薄膜は数μm程度の厚さを有するため,干渉法を用いて薄膜の三次元定常形状を測定する.測定した薄膜形状に潤滑理論を適用することで,潤滑圧力を実験的に算出する(2).本研究では,壁面速度,液滴径および液滴の動粘度をパラメータとして変化させ,それぞれの実験条件において液滴全体に働く力の釣り合い,および気液界面に働く局所的な圧力の釣り合いを検証する.
Fig. 1 A schematic view of our experimental setup (2).
算出した潤滑圧力の総和を,壁面垂直方向に働く液滴荷重と比較する.全実験条件において両者は測定誤差の範囲内で一致した.よって,潤滑圧力は浮遊液滴を支配的に支えていると言える.次に,潤滑圧力分布を,表面張力と静水圧を足し合わせた圧力と局所的に比較する.全実験条件において両者の圧力分布はともに,広範囲で正圧を,下流側の一部で負圧をそれぞれ示した.また,圧力のオーダーは正圧,負圧ともに測定誤差を除いて一致した.これらの定量的な一致から,液滴底部の気液界面に働く圧力の釣り合いによって,薄膜形状は定常に保たれることが実験的に示唆された.
本研究では,液滴が移動壁面上を浮遊するメカニズムを解明するため,液滴下に存在する空気薄膜に着目した.薄膜内部で生じる潤滑圧力を実験的に算出し,液滴全体に働く力の釣り合い,および液滴底部の気液界面に働く圧力の釣り合いを検証した.その結果,測定誤差を除いて,両者の釣り合いはともに成り立つことを実験的に示した.これより,液滴を浮遊させる主要因は潤滑圧力であるという知見を得た.
謝辞
末筆になりますが,本発表に際してご聴講くださった皆様,貴重なご意見を頂いた先生方に心から感謝申し上げます.重ねて,優秀講演表彰を授賞してくださった選考委員の先生方,今回のニュースレターの執筆機会をくださった日本機械学会流体工学部門に深く御礼申し上げます.日頃の研究活動を支えてくださる研究室の皆様にも大変に感謝しています.今後もこの受賞に恥じぬよう邁進していきますので,何卒宜しくお願いします.
参考文献