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流れ 2017年2月号 目次

― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―

  1. 巻頭言
    (本澤,橋本,松田)
  2. 21世紀の乱流研究
    柳瀬眞一郎(岡山大学)
  3. 液晶流を利用した無定形アクチュエータ
    松田琳子,辻知宏,蝶野成臣(高知工科大学)
  4. 遷音速多段軸流圧縮機の静翼列におけるハブ・コーナーはく離の流れ構造
    齋藤誠志朗(九州大学)
  5. 移動壁面上を浮遊する液滴
    澤口英理奈,濱開,田川義之(東京農工大学)
  6. 静電配向制御によるセルロース新素材創製プロセス
    武田祐介(東北大学),Christophe Brouzet,Nitesh Mittal,Fredrik Lundell (KTH Royal Institute of Technology, Sweden),高奈秀匡(東北大学)
  7. 流れの夢コンテストに参加して
    坪根虎汰(広島国泰寺高校2年),棟田陽(広島国泰寺高校 科学部物理班顧問)
  8. 流れの夢コンテストに参加して
    山内遥(明星大学)

 

流れの夢コンテストに参加して


坪根虎汰
(広島国泰寺高校)

 

1. はじめに

 今回,私たちは山口大学工学部常盤キャンパスで行われた第15回流れの夢コンテストに参加した。私たちは初出場ながら「水噴流による浮遊物回収装置『Dream Strider』」の研究発表で「最優秀賞」を受賞させていただいた。本稿では,そこに至るまでの困難や苦労,コンテストに参加しての発見や受賞しての喜びなどを記していきたいと思う。

 

2. 「流れを活かそう」

  これは今回の「流れの夢コンテスト」のテーマである。今回,私たちが参加を決めたのは,後に詳しく記すが,私たちの研究は「水噴流(水鉄砲のようにノズルから発射された水流)=流れ」を用いて,「水面のごみを回収する=海の環境汚染の改善する」ものであり,今回のテーマに「ピッタシ」と言っていいほど当てはまっていたからである。

 

3. 水噴流とは

  私たちの研究について詳しく説明していきたいと思う。2011年,私たち科学部物理班の先輩がテッポウウオはなぜ光の屈折があるにも関わらず,水面下から水鉄砲を発射して獲物に命中させることができるのかということに疑問に持ち,水噴流を水面下から発射する実験を行った。

  この実験を行うと不思議なことに,図1のように,水噴流に用いている水は,外部から供給されているにも関わらず,なぜか水面が下がっていった。詳しく実験を行うと,これは水面下から発射された水噴流が水面付近の水を巻き込んで一緒に輸送するという特性を持っているからだと分かった。私たちは,この特性を水面の水を輸送するだけではなく,水面付近にある浮遊物も一緒に回収することに活かせるのではないかと考えた。


図1 水噴流を水面下から発射する実験 (左)実験開始 (右)実験後

 

4. 広がる海の環境汚染

  突然だが,現在世界中の海で環境汚染が進んでいるのをご存知だろうか,藻の大量発生や原油の流出,中でもマイクロプラスチックの拡散は2015年に行われたG7首脳会議でも取り上げられる重大な問題である。私たちはこの海の環境汚染を解決するために,浮遊物回収装置『Dream Strider』を製作した。

 

5. 浮遊物回収装置『Dream Strider』

  図2は,浮遊物回収装置『Dream Strider』の模式図である。


図2 浮遊物回収装置『Dream Strider』の模式図

 水噴流が浮遊物を回収する仕組みは次の通りである。
① 水面下から水噴流が,発射され水面の水と浮遊物を巻き込んで行く。
② 受水版に当たることにより水噴流は向きを変えられ,浮遊物回収槽に向かっていく。
③ 浮遊物回収槽に入った回収物はネットにより浮遊物だけ回収され残った水は排水される。

  図3は,実際に製作した浮遊物回収装置『Dream Strider』である。


図3 浮遊物回収装置『Dream Strider』

 次の動画1は,模型を製作して,小型の水槽での回収実験の様子を示したものである。



動画1 小型の水槽での回収実験

 

6. 度重なる困難と改良

 このように屋内での回収実験は上手くいったが,いつでも上手くいくとは限らないものである。私たちの科学部物理班の先輩は,実際に海などで使えるのか広島城のお堀や瀬戸内海海岸に実施試験を行った。やはり全て成功とはいかず,ポンプの吸水口の詰まりやバッテリーの放電,波による装置の転覆など様々な問題が発生した。その度に,装置への改良を加えながら問題への解決に努めた。

  最終的な改良版の装置で実施試験を行ったのは,コンテストの9日前の11月3日であった。するとまたしても問題が発生した。なんと,海にごみがほとんど浮いてないのである。海水浴シーズンもとっくに過ぎた11月であるため,海面のごみの浮遊量が減っていたのであろう。もちろん海がきれいであることに越したことはないのではあるが,コンテストを直前に控えた私たちにとってはバッドコンディションである。ほとんど回収できないであろうと思っていたのが,意外にも想像以上の回収をすることができた。改良がとても上手くいっていたのであろう(図4-1,図4-2)。


図4-1 海での回収実験の様子(11月3日 瀬戸内海 地御前にて)


図4-2 回収実験での回収物

 

7. コンテスト当日

  あっという間に月日は流れ,コンテスト前日,回収装置を運びやすく分解した後梱包し,しっかりと発表に向けての準備を行った。

  ついに流れの夢コンテスト当日である。新幹線に乗り山口大学へと向かった。同じ研究チームの山田英寿,井上滉と共に会場に着くと,すでにほとんどのチームが各ブースにて実演の準備を進めていた。以前から,私たち以外のチームが大学生・大学院生であることは知っていたのだが,いつもの高校生だけの研究発表会とは違った雰囲気に少し緊張もした。自分たちのブースで回収装置の組み立てなどの準備を行った後,まず午前はプレゼンの部から始まった。様々な大学がプレゼンを行った後,5番目にいよいよ私たちの出番となった。プレゼンの練習は何回も練習していた甲斐があり,これといったミスもすることなく無事に終わった。

  1時間程度の昼休みの後,午後の実演の部が始まった。これまでポスターやPowerPointを使ったプレゼンテーション発表しか行ってきたことがなかった私たちにとって,実演は初めての経験だった。しかし,実演を行うための小型『Dream Strider』模型を製作してきたおかげでしっかり見て触れてもらい『Dream Strider』の魅力をよく知ってもらえた。実演を行っている中で,多くの大学生・大学院生や大学関係者の方々にお褒めの言葉を頂き,これからもさらなる装置の発展のために研究していきたいという気持ちになった。(図5)


図5 コンテスト当日の様子

 いよいよ審査結果の発表となった。優秀賞,一樹賞とも名前が呼ばれず受賞できなかったかと思ったとき,最優秀賞で「広島国...」とアナウンスされたとき仲間と「えっ」と顔を見合わせたのを覚えている。賞状を頂き仲間と共に写真を撮った時このコンテストに参加して,そしてこの研究をしていて本当に良かったと心から思った。

 

8. 流れの夢コンテストを通して

  私は今回の流れの夢コンテストを通して様々なことを学んだ。まずは,プレゼンテーションの発表方法の新たな可能性である。今まで私たちは,固定観念にとらわれたプレゼンしか行えていなかったが,大学の方々のプレゼンを見て,面白くわかりやすく伝えるためにはこういう方法があるのだと学ばせてもらい,次回から私たちも実践してみたいと思った。また,実演の部では,様々な人から研究に対する質問やアドバイスをいただき自分たちが気付かなかった別の視点から研究を見直せる良い機会となった。

 

9. 最後に

  今回の流れの夢コンテストにかかわって多くの方々にお世話になりました。実行委員長を務められた亀田孝嗣先生をはじめとする実行委員会の先生方,いつも熱心に指導してくださった棟田陽先生,様々なアドバイスをしていただいた先輩方,そして共に研究を行ってきた仲間たち,本当にたくさんの方々に支えられて,今回このような名誉ある賞を頂くことが出来ました.この場をお借りして深くお礼申し上げます。

 

10.  科学部物理班顧問(棟田陽)からのお礼の言葉

  本研究の指導教諭の棟田と申します。この研究は,ある卒業生が2011年水面下から発射された水噴流が水面の水を輸送していることを発見して始まりました。その生徒は,この原理を利用すると水面上のゴミや油が回収できると考えました。その後,後輩達がこの研究を引き続き,海面に浮かぶ浮遊物を回収できる『Dream strider』を製作しました。そのような中で「流れの夢コンテスト」があることを知り,発表させていただくことになりました。海での実験がなかなかできない状況でしたが,発表の数日前に実施することができ,また浮遊物の回収に成功し,いい結果を報告することができました。

  この度は,「第15回流れの夢コンテスト」へ参加させていただき,関係者の皆様には大変感謝いたします。参加した生徒達は,今回の発表を通して自信を付け,将来の研究者・技術者を目指すうえで,大いに糧になったことと思います。本研究の発表を行うに当たりご尽力いただきました実行委員長の亀田孝嗣様,また,当日,本研究に対してご指導・ご助言をいただきました皆様に感謝申し上げます。

  最後に,本研究は「武田科学振興財団 2016年度 高等学校理科教育振興奨励」からの援助を受け,研究を実施することが出来ました。武田科学振興財団様に,この場を借りて厚く御礼申し上げます。

更新日:2017.2.22