流れ 2020年12月号 目次
― 特集テーマ:2020年度年次大会 ―
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年次大会の備忘録 ―ウェブ開催の運営的立場から―
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本稿では,2020年9月13日から16日にかけて開催された日本機械学会年次大会について,特にウェブ開催の運営に直接かかわった立場から,具体的システムの準備から当日までの流れ,終わった後の雑感を共有させていただきます.本原稿を執筆している2020年11月となっては秋の学会シーズンで多くの方がオンライン学会に携わられたと思います.ただ発表1000件以上,参加者2000人以上,25部屋並列,という規模の学会は最大級かと思います.今後オンライン学会が定着するのかわかりませんが,特に同じ規模あるいは同じシステムを採用してウェブ学会を開催される際には参考にしていただければ幸いです.
もともと2020年度年次大会は,2011年に本部門の部門長もされた酒井康彦先生を実行委員長として,名古屋大学機械航空系が中心となって運営されることが決まっていました.私はプログラム編成担当,流体工学部門代表委員,お弁当係とともに運営委員(要するに何でも屋)という肩書がついていましたが,年次大会のウェブ開催が決まった瞬間にウェブ会議担当となりました.
4月頃にWebWGが組まれ,5月初旬にはネットワークの負荷を下げるなどの観点からZoomとYoutubeの併用システムを採用することを決定しましたが,その具体的方法の決定にはさらに1か月かかりました.というのは,Zoom有料版ではYoutubeへの配信がオプションとして用意されており比較的簡単にできるのですが,そのぶん発表者のビデオは声が大きい一人だけしか表示されない,ZoomとYoutubeの間に絶対生じる時間遅延をコントロール(最小化)できない,時計表示ができないといった不自由さがありました(図1).これに対してエンコーダを用いると自由度が高くこれらの問題をほぼ解決できるのですが(図2),新しいツールを介す分設定が面倒なうえに当日の操作が増えるという欠点がありました.WebWGとしてはできれば後者を採用したかったのですが,特に当日トラブルが発生したときに瞬発力が求められる場合,エンコーダを用いる方法はリスクが大きすぎると判断し,Zoom直接配信が採用されました.エンコーダ方式でも慣れている人が管理するなら問題ないと思います.しかし今回は部屋数が多いため,いわゆる会場担当係としての各Zoom室のお世話係を学生バイトに頼らざるを得ませんでした.私はWebWGの中でもバイト教育担当だったのですが,デモで自分が会場担当係をする中で全員を信頼できるレベルまで教育するのは不可能と感じたので,エンコーダ式をやめてもらいました.そもそも論でいえばシステム丸ごと外注,そうでなくても会場担当係を業者に外注などしたかったのですが,良さげな依頼先もなく,またコロナの感染状況も先行き不透明なこともあり,自分たちで何とかするしかない状態でした.
図1.Zoom直接式のYoutubeの見え方.この頃ストップウォッチもちょっと凝りましたが,不評でした.
図2.エンコーダを使った場合のYoutubeの見え方.日時を見ると5月29日に検討していることがわかります.
なお本システムで一番気を遣うのはYoutubeです.Youtubeは一度始めると二度と同じURLを使えないので,本番用に設定したものを事前練習等で使わないようにするなど細心の注意が必要です.また今回作ったマニュアルなど資料一式はJSME事務局にお渡ししてありますし事務局でも同様のシステムを立ち上げられましたので,ご質問などがあれば事務局にお問い合わせください.
7月に講演室分のGoogleアカウント取得,Zoomの有料アカウントの購入,マニュアル制作やWGでのデモを繰り返しつつ,8月4日にまず5室分のセッティングおよびバイト教育を行いテストしました.その後マニュアル改訂など細部を詰めつつ9月1日,2日に全体規模での教育を行いました.バイトは1日30人×3日分=90人の教育が必要でしたが, 3密回避とそもそもPC(レンタル)が30台しかないという環境でしたから,半日ずつ3回に分けて行いました.また,実際のところこの日だけで配信係の仕事をこなせるようになるわけではないので,若手教員に引っ張ってもらう形でその後の自主練もしてもらいました.なお3日間同じバイトが担当してくれれば教育は1回ですんだのですが,3日間拘束するのは難しいのと体力(集中力)が持たないであろうとの考えから入れ替えることにしました.結果的にこれは正解で,ほぼ全バイト学生が1日終わればヘトヘトでした.ただ弁当係として,ちょっとでもリフレッシュしてもらうべくそれなりに吟味した弁当を用意したのですが,教員も含めてそこを喜んでくれたのはうれしかったです.
9月12日に全員で最終リハーサルをし,本番を迎えました.このころにはコロナの状況が少し良くなったので,大きな部屋に全Zoom室の会場係(実際には我々を含めると40人程度)を配置できました(図3)が,状況が悪ければ3室に分かれる予定でした.運営委員の中には想定外のトラブルが起きることを危惧されていた方も少なからずいらっしゃったのですが,私としてはかなり準備した自負もありましたしバックアップ体制もしっかりしていましたので,そうそう大問題は起こらないだろうと楽観視していました.実際運営が立ちいかなくなるようなトラブルはありませんでした.もちろんこれは我々名大の教員だけではなく座長をはじめ参加者の皆様や学生バイトの協力があってのことで,全員で作り上げたと感じています.ちなみに問題が起きたとき用の予備室も2室用意していたのですが,使いませんでした.
図3.コントロールセンタの様子.
個人的には学会にほとんど参加できず,知っている先生が画面でいらっしゃってもお話しできず,聞きたい研究発表があっても聞けなかったのは非常に残念でした.結局(これはどちらかというと私の気力の問題ですが)追っかけ視聴もほとんどできず少し悔やまれます.ただ学会終了後に多くの方からねぎらいとお褒めの言葉をいただき大変光栄に思いました.正直ものすごい時間をこの準備に費やしましたが,皆様に評価いただけたこと,また既に本学会運営を参考にして別の学会が行われていることなどをうかがうと,かなり救われました.それから会場担当係のバーチャル背景にストップウォッチを表示して時間管理する方法は好評いただいたのですが,このアイディアを出したのは私です!ということもどさくさにまぎれてアピールさせてください.
最後に流体工学部門代表委員として一言付け加えさせていただくと,流体工学部門は安心感がありました.プログラム編成は部門ごとに取りまとめが行われたのですが,他の部門が情報が展開されていない,集まるべき情報が期日までに集まらないなどの問題を抱える中で,本部門はセッションオーガナイザをはじめ皆様からしっかりとしたレスポンスがあり,余裕を持って対応することができました.この場を借りて厚く御礼申し上げます.