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流れ 2021年11月号 目次

― 特集テーマ:2021年度年次大会 ―

  1. 巻頭言
    (本澤,森)
  2. 粘弾性流体の乱流-実用例から乱流組織構造まで
    川口 靖夫(東京理科大学)
  3. 流体解析における計測とシミュレーションの融合とその応用
    早瀬 敏幸(東北大学)
  4. EFDワークショップ -流体音- について
    世話人 飯尾 昭一郎(信州大学),渕脇 正樹(九州工業大学),稲澤 歩(東京都立大学),菊地 聡(岐阜大学)
  5. 低騒音音響風洞で計測できない空力音
    丸田 芳幸(中央大学)
  6. 拡張型固有直交展開法を活用した空力音解析
    寺島 修,西川 礼恩(富山県立大学),奥野 未侑(金沢大学)
  7. ファンの騒音特性とその制御
    林 秀千人(長崎大学)

 

ファンの騒音特性とその制御

林 秀千人
長崎大学

1. はじめに

 低圧送風用のファンは私たちの身近なところで数多く使用され,空力性能ばかりでなく騒音性能の向上が求められている.コンピュータ能力の著しい発展により,ファンの流れ解析や最適設計は,シミュレーションが強力なツールとなっているが,騒音についてはまだそのような状況にはない.羽根車や周辺流れの非定常な現象と密接に関連しているため,シミュレーションで行うには莫大な計算時間とコンピュータ能力が必要となる.一方,ファンの使用環境はますます厳しくなり,狭小で高い空力性能が要求され騒音の増大が懸念される.このような状況では,ファン騒音の解析および低減化には,これまで蓄積されたファンの騒音特性の知見を再確認することが重要となる.

 ファンの騒音は,ファンで発生する損失の一部と考えられる.ファン性能が向上すれば,損失が減少し騒音が低下すると考えられる.しかしながら,性能が向上し負荷が増大すると,損失のうち騒音の割合が増加し,ある程度性能が向上すると騒音の低減に限界が見えてくる.その見極めは大切である.


Fig.1 Relation between fan noise and power

2.  ファン騒音の分類

 ファン騒音のうち流れにもとづく騒音(空力騒音)には,離散周波数騒音と広帯域騒音がある.離散周波数騒音は,ある周波数に明確なピークを持ち,遠心ファンでは羽根車とスクロールケーシング舌部との干渉,軸流ファンでは静翼と動翼との干渉,入口偏流と動翼との干渉などが主たる原因である.一方,広帯域騒音は,おもに流れの乱れに起因するもので,周期性が弱く周波数が変動して広い周波数帯域に広がった分布を示す.羽根車に入る流れや羽根表面の流れの乱れ,翼からの剥離で形成される後流渦の発生によるものなどがある.これらの騒音は,ファンの大きさや回転数など,基本的にファンの形状により大まかな周波数やレベルを推察することが可能である.


Fig.2 Spectrum distribution of fan noise

3.  ファン騒音の評価

 ファン騒音は翼まわりの流れと密接に関係するため,流れの圧力や流速を把握することが重要となる.翼表面での非定常な渦運動と翼表面との干渉により発生する騒音は,揚力や抗力などの翼性能と関連して評価されることが多く,流速分布やはく離の状況を示唆する後流の大きさなどが評価の対象となる.また,騒音の大きさは圧力変動の強さばかりでなく,瞬間の音源の規模も翼表面の相関面積として評価の対象となる.


Fig.3 schematics of noise generation

 Fig.4は,横流ファンの干渉騒音の様子を示している.羽根の後流が舌部と干渉して,干渉騒音が発生する.舌部先端の③では圧力変動は大きいものの位相の場所による変化が大きく相関面積が小さくなり,fig.(b) の赤棒のように音源としては小さくなり主たる音源とはならない.一方,少し離れた平面部②では,圧力変動は舌部端部③より小さいものの,広い範囲にわたって位相がそろい相関面積が大きく主たる音源となっている.その結果,平面部②を短くカットして音源の広がりを抑えることで,Fig.(d)に示すように干渉騒音が低減された.


Fig. 4 Characteristics of discrete frequency noise in tongue; strong pressure fluctuation does not generate large noise,
The correlation area is closely relative to the noise.

4.  ファン騒音源の解析

 ファンから発生する騒音の音源位置を定め発生メカニズムを明らかにすることは,騒音低減化にあたり非常に重要である.ファンの流れと騒音との関連性に対する知見を活用して,ファン設計の際に騒音の発生を予想できると,低騒音のファンの開発をスムーズに行うことができる.

 流れのシミュレーション解析により,渦やはく離の状況を把握できる.Fig.5は,四角狭小ケーシングを使用した遠心ファンの流れと騒音の様子を示したものである.流れのシミュレーション結果Fig.5(a)では,図中の左上部に明確な渦の発生が見られ,騒音理論や過去の蓄積から騒音発生の可能性が予見できる.実際,音響透過壁を用いた音源探査実験により騒音源であると確認された.その結果を踏まえて,Fig.5(b)に示すブロックを設置することで, Fig.(c)のように騒音が低減され改善された.


Fig. 5 Flow simulation and noise characteristics of centrifugal fan with rectangular casing

5.  おわりに

 ファンの騒音は,様々な原因から増加傾向にある.ファンの負荷増大によって必然的に増加するものや偏流の発生などにより二次的に発生するものなどさまざまである.その低減化に向けては,発生原因を明らかにし低減の可能性を検討することが重要である.また空力性能と騒音性能をいっしょに評価することで,空力性能の向上が低回転での作動を可能として低騒音化にもつながる.設計段階から総合的に検討しバランスを取ることが,低騒音高性能のファン開発には必要である.

 最後に,2021年度年次大会において,本内容について紹介させていただくとともに,今回のニュースレターでその概要を報告させていただく機会をいただき,謝意を表す.

更新日:2021.11.25